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日経エコロジー3月号システム思考掲載記事 補足資料

2006年02月01日

日経エコロジーの3月号の「新環境学」のコーナーで「システム思考でわかる『渋滞を解消できる対策、渋滞を悪化させる対策』」と題してシステム思考を紹介しています。
こちらはその記事の補足資料となります。詳しくお読みになりたい方は、日経エコロジー3月号をご覧ください。


図1:線形思考による問題診断と解決策

図1:線形思考の問題診断と解決策.jpg


 私たちは「道路の渋滞」という問題に対して、その原因と考えられることを要素として列挙します。その中から重要と考える原因、たとえば「道路の走りやすさ」という要因に焦点をあてて、考えうる解決策をいくつか考え出します。その中からもっとも有効となるもの、たとえば「道路網の拡張」を選び出します。

 こうして、私たちは演繹的に、「道路の渋滞の原因は道路が走りにくいからである。その問題を解決するには、道路を建設することによって、道路を走りやすくすればよい。それによって道路の渋滞は解決する。」と結論を導き出します。

 しかし、世界のあらゆる都市で、この対策は効果をあげていないのが実態です。これは線形思考では、複雑なシステムの中では有効に機能しないたくさんの実例の一つに過ぎません。

図2:システム思考による問題診断

図2:システム思考の問題診断.jpg


 システム思考の問題診断では、要素のつながりとシステム全体の営みに注目します。

 道路の渋滞は、渋滞解消の圧力を生み出し、道路建設を促進します。それによって、道路の走りやすさが改善され、道路の渋滞が一時的に緩和されます。(「道路建設ループ」)。

 しかし、ひとたび道路の渋滞が緩和すると、公共交通機関に対する自動車利用の相対的魅力が増し、自動車の利用頻度や走行距離、自動車の保有台数が増加します。その結果、道路の交通量が増加し、再び道路の渋滞がするのです。(「交通量増大ループ」)。

 さらに、自動車利用の相対的魅力が上がって自動車の利用が増えると、公共交通機関の利用者数の減少を招き、固定費の大きい公共交通機関では一人当たりの負担が増して価格の上昇につながったり、経路の縮小・閉鎖をもたらします。こうして、公共交通機関の魅力はますます薄れ、その結果、自動車利用がさらに魅力的になります。(公共交通機関ばなれループ)
また、道路建設によって道路網が便利になると、通勤圏が広がり、郊外の住宅開発や圏内への人口流入によって自動車の数は増え、交通量はさらに増大します。(都市圏拡大ループ)
 
 システム思考では、システムの一部に過ぎない目の前の問題やそれに対する解決策に飛びつかず、複雑なシステムが全体としてどのように営まれているかを把握して、はじめて解決策を考えるのです。


図3:システム思考による解決策

図3:システム思考による解決策.jpg

 複雑なシステムでは、問題の原因およびそれに対する解決策は、必ずしも表面上の事象の近くにあるとは限りません。しばしば時と場所を大きく隔てたところに原因が隠れています。

 要素のつながりの連鎖をループ図で表すことによって、問題解決のための働きかける場所は無数に広がります。本誌に実例を紹介した「混雑税」や「高速公共交通システム」はその一例です。

 また、システムにおける真の解決策は、しばしば直感的ではないことが多いのです。たとえば、世界の数多くの都市で、「道路の障害物」を設けるなど、道路を走りやすくするのではなく、逆に走りにくくすることによって、道路の渋滞の解消・緩和に成功しています。

 こういった直感では見つけられなくとも真に問題の解決をはかれる働きかけは、システム思考を用いることによって見つけ出すことができるのです。

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