News & Columns

ニュース&コラム

『システム思考とダイナミクス・モデリング会議2006』に参加して(4) 学校におけるシステム思考教育のこれからの展望

2006年09月24日

6月にボストン郊外で行われたクリエイティブ・ラーニング・エクスチェンジ(CLE)主催の「システム思考とダイナミクス・モデリング会議2006」参加報告の続報です。この会議に参加して、アメリカやヨーロッパの現場で実践する教育者たちのこれからの課題と展望について、私たちが感じ取ったことを報告します。

参加者たちにとっての共通課題のひとつは、「システム思考を、いかに教育システムの中で、広く普及させるか」ということです。ここに集まっているのは、それぞれの学校や地区で中心となってシステム思考の普及に努める推進者たちです。それぞれの学校の中で、地区の中で仲間や後継者を増やしていくかという課題を擁していました。

どこの教育現場でもそうですが、それぞれの推進者には限られたリソース(資源)しかありません。しかし、「学習する組織」の原則は、有用な示唆を与えてくれます。つまり、互いが互いのリソースになるということです。ここに集まった人たちにとっては、このCLEのネットワークはとても有益な資源です。この資源をうまく活用し、それぞれが組織内部に仲間を増やしていくためのアイディアを交換していました。

もうひとつの大きな課題は、「何がシステム思考であるのか」です。「システム思考」という言葉はアメリカのビジネスや学校では氾濫気味で、いろいろな意味で「システム思考」が使われています。体系的に(システマチックに)考えることや、コンピューター・システムを使えば「システム思考」とする風潮がありますが、これらは必ずしも「システム思考」ではありません。

とりわけ、「普及されるべきシステム思考はいかなるものか」という点について議論されました。さまざまな要素のつながりを見ることができるレベルでよいのか、要素をストック、フローといった種類に分けて構造を見るべきか、あるいはコンピューターモデリングによるシミュレーションまでを行うべきか、などです。

どれも大事なことですが、段階を追って進めたり、目的や対象によって使い分けていくことが必要です。少なくとも教える立場の者は、これらシステム思考のさまざまな手法を幅広く理解していることが重要であるという考えにいたりました。
 
システム思考にはさまざまなツールがあります。このメルマガでも順次ツールを紹介していきますが、時系列変化パターングラフ、ループ図のほか、「コネクション・サークル」と呼ばれるものごとの関係を図示したものや、コンピュータを使ったシステム・ダイナミクスなどの活用例が会議の中でその実践の様子とともに紹介されました。

そのひとつである「システム原型」という、システム思考の上級のツールを小学生に教える試みがありました。大人が学習するのとは同じようにはいきませんが、教え方を工夫すれば子どもたちでも理解して、問題が起こる構造が何かを考えるようになれるのです。実際に子どもたちの発表をビデオで紹介し、子どもたちがいかに自然とシステム原型のようなツールを身につけているかということが実感でき、とても勇気づけられました。(子どもたちは、生まれつき「システム思考家」なのです!)
 
また、システム・ダイナミクスという、コンピューター・ソフトを使ってモデルを作り、シミュレーションができる手法があります。高校生にもなれば、このシステム・ダイナミクスを学ぶことができます。最近はソフトウェアが発達して、簡単にシミュレーションなどが行えるようになりました。しかし、一方では教師も生徒も、ソフトの上でモデルを作り、シミュレーションを完成させることに焦点をあててしまう傾向への懸念が取り上げられました。

モデルを作るうえで大事なのは、シミュレーションを完成させることよりも、モデル作りのプロセスの一つ一つステップで、さまざまな「なぜ」という質問――「なぜ今のパターンが起こっているのか」、「どんな構造がそのパターンを生み出しているのか」、「なぜこの構造が生まれているのか」、などを繰り返し自問し、あるいはグループで話し合うことなのです。

そういった問いかけを通じて子どもたちは視野を広げていきます。たとえば、オレゴン州のある高校では、世界各国の人口構造を見ながら、食糧、エネルギー、医療や教育といったさまざまな問題について、子どもたちが視野を広げ、幅広い考察をしていく授業の様子の報告がありました。正しい答えを求める以上に、正しい問いかけをすることがいかに大事か、ということをシステム思考は示してくれます。

教育者たちの熱心な議論を聞きながら、ふと「学校教育を通じて、システム思考を身につけた子どもたちが、大人になったとき、アメリカ市民の認識や行動にはずいぶんと変化が出るのだろうな」と感じました。子どもたちだけでなく、大人の社会―職場や経済の中でも、システム思考的な視野を養い、行動を変えていくことはとても重要です。私たちチェンジ・エージェントでも「読み書き、そろばん、システム思考」という日がくるぐらい、システム思考を日本で普及していきたいと考えています。

(つづく)

関連する記事

Mail Magazine

チェンジ・エージェント メールマガジン
システム思考や学習する組織の基本的な考え方、ツール、事例などについて紹介しています。(不定期配信)

Seminars

現在募集中のセミナー
募集中
現在募集中のセミナー
開催セミナー 一覧 セミナーカレンダー