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新年のご挨拶2009

2009年01月05日

新年明けましておめでとうございます。

年始にあたり、昨年の振り返りと新年の抱負を述べさせていただきます。

2008年の年初のご挨拶で、私たちは次の3つの抱負を述べました。
● システム思考の啓発と「システム市民」普及の加速
● 「学習する組織」の推進と組織リーダーシップ能力の強化
● 「温暖化・エネルギー問題」のシステム的考察と解決へのアプローチの発信
http://change-agent.jp/news/archives/000119.html


●システム思考の普及

システム思考の普及について、昨年も講演やワークショップなどで引き続き多くの皆様にシステム思考を紹介していきました。講演回数は100回を超え、多くの方からシステム思考は大事な考え方で是非身につけてみたい、もっと勉強したいとの声をいただいています。

オープン参加のワークショップは、東京のほか札幌、名古屋、大阪、京都、福岡で約20回を実施しました。参加型のワークショップ形式で、参加者の皆様から高い評価をいただきました。

また、組織向け研修も、企業・行政機関・国際協力機関・ビジネススクールなどで実施先を広げることができました。管理職研修の一環として戦略的に大局を見る力を養ったり、あるいは論理的思考だけではうまく問題解決ができないことが多いため、システム的に考え、行動する力を伸ばすなどを狙いにしています。ある企業では、厳しい経営環境を乗り切る社員の力を培うために、トップ以下100名近くの社員にそれぞれ5日間にわたる研修を実施し、社内の共通言語としてシステム思考を位置づけています。

海外での活動も活発になった年でした。中国で講演、オマーンとインドネシアでワークショップを行いました。日本での経験も確実に生き、東洋的思想観をふまえたシステム思考が国際的にも認められるとの実感を得ています。

確実な手応えを基盤に、2009年も引き続き講演、オープン研修と組織向け研修を、さらに充実したプログラムで展開したいと考えています。ベーシックコースを東京、大阪、名古屋などで実施していくほか、より上級のスキルを学びながら、自分自身の課題を対象に取り組むアドバンスコースも定期的に開催していきます。
http://change-agent.jp/news/archives/000180.html  ベーシックコース2月16日東京
http://change-agent.jp/news/archives/000186.html  アドバンスコース3月15・16日東京

今までのベーシックコースに加えて、ビールゲームを体感する「システム思考入門コース」、ビジネス向け通信講座、さらにはシステム思考を戦略立案、組織・人材開発、マーケティングやサプライチェーンマネジメント、プロジェクトマネジメントなどさまざまなビジネスシーンに応用するより実践的なコースを企画開発していきます。どうぞご期待下さい。

特に、今年はシステム思考のバイブルともいわれるMITのジョン・スターマン著「ビジネス・ダイナミクス」の翻訳書を出す予定です。フィードバック構造だけでなく、ストック/フロー構造、時間的遅れ、非線形の関係などシステム思考のより上級の概念や手法を紹介し、面だけでなく、質的にも、広げて行きたいと考えています。こちらもどうぞお楽しみに!

●学習する組織とリーダーシップ

2008年のもっとも大きなできごとの一つは、MITのピーター・センゲ氏の初来日でした。『最強組織の法則』の著者で、難解なシステム・ダイナミクスを、シンプルなシステム思考として欧米中などに普及させた功績者であり、また、さまざまな分野の実践手法を統合し、個人と組織の相互発展を図る「学習する組織」の提唱者でもあります。

多くの方の協賛・協力のもと、一橋大学の野中郁次郎先生や日本の企業の実践家たちを交えたシンポジウムを開催することができました。日本の組織での暗黙知の伝承や、21世紀の経営者が目指すべき企業のあり方についての議論の後、200名を超す参加者による「ワールド・カフェ」で自分たちの腑に落ちる話し合いがなされました。

また、この機会に国内でシステム思考や学習する組織に興味をもつ方々が集まり、「SoLジャパン組織開発コミュニティ」が設立されました。現在、登録メンバーは約90名、都内で、ほぼ毎週ダイアログやシステム思考の勉強会が行われています。(ご興味のある方はinfo@change-agent.jpまでご連絡下さい)

2008年は3月と9月には、オープン参加の「学習する組織リーダーシップ研修」を実施し、しなやかに、進化し続ける組織をつくる基本知識とツールを紹介しました。ここでのモジュールは、組織向け管理職研修にも取り入れられています。メンタルモデルやダイアログは、多くのマネージャーや組織の学習障害を乗り越えるのに有益であり、また、システムの複雑性を理解した後、組織の方向性を決める上では個人マスタリーや共有ビジョンは欠かせません。
http://change-agent.jp/news/archives/000174.html 2009年2月27日、28日開催

また、5月と9月には、「持続可能なビジネスモデルを考える力をつける」集中ゼミを開催し、上場の多国籍企業から地域の活力ある小企業から集まった参加者達と一緒に21世紀のビジネスモデルについて一緒に考えていきました。2日間で答えが出るわけではありませんが、考えるべき「問い」と、互いに励まし合う「仲間」を見つけていただけたのではと思っております。
http://change-agent.jp/news/archives/000142.html 2009年に2~3回程度の実施を予定

2009年は、日本国内での学習する組織の考え方や手法をさらに広め、混迷を極める時代にますます必要とされるリーダーシップ力を磨いていきたいと考えています。

システム・ダイナミクス創立者のジェイ・フォレスターは、「飛行機を安全に運行させるためにもっとも重要な役割は誰か」とよく尋ねるそうです。多くの人は「パイロット」と答えますが、実はもっと重要なのは「飛行機の設計者」だと彼は言います。(注:より正確には「航空機の運行システムの設計チーム」です。)

普通のパイロットでも安全に運行できるような、しなやかで柔軟に適応する航空機運航システムがあれば、嵐や不測の事態にあっても、危機を未然に防いだり、また避けられない場合は影響を最小限に食い止め、より安全に乗客を目的地まで導いていけるでしょう。

組織と社会にもまったく同じことがあてはまります。とりわけ、複雑で変化の激しい時代にあって、今までの組織運営システム、政治システムは機能不全に陥りつつあります。今組織が必要とするのは、難局をアクロバット的な飛行テクニックで乗り切るパイロットではなく、環境変化を読みながら、組織の営みを熟知して的確にその構造を進化させることができる設計者にほかなりません。

チェンジ・エージェントでは、個の力で組織を引っ張るような「パイロット」ではなく、普通の人たちが最善のパフォーマンスを上げられるような「システムの設計者」として、組織やビジネスモデル、そしてプロセスの設計力を養うプログラムを提供していきます。さらに、「学習者」としてのリーダーたちをネットワークするコミュニティの発展を支援していきたいと考えています。

●温暖化・エネルギー問題

2008年、温暖化問題はとりわけ日本が議長国となった洞爺湖サミットが一つの道標であったといえるでしょう。また、2008年4月には、二酸化炭素の温室効果ガスの排出量削減などを唄った京都議定書の第一約束期間が始まりました。このような背景から福田前首相が「地球温暖化に関する懇談会」を発足させ、弊社の枝廣がそのメンバーとして政府に助言・提言を行っています。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tikyuu/index.html

サミット直前には、2050年までに日本の温室効果ガス排出量を60~80%削減することを目標に掲げる「福田ビジョン」が発表され、その中にはシステム思考で大事だとされる長期ビジョンを掲げて、そこに到達するために必要な戦略や能力開発を考える「バックキャスティング」のアプローチが取り入れられました。また、排出量の目標も、システム思考の基本であるストック/フロー分析がその計算根拠に使われています。
http://www.kantei.go.jp/jp/hukudaspeech/2008/06/09speech.html

その後の金融危機で、首脳たちの焦点はいささか経済問題に移った面もありますが、実はこれらの問題はつながっています。懇談会メンバーである福井元日銀総裁はまさにこの点に着目し、次のように述べています。

(ここから引用)
今起こっておりますサブプライムモーゲージローンの問題に端を発する国際金融市場の混乱、これについての基本的な性格は、私は世界経済全体として地球環境資源、エネルギー資源、あるいはその他素原材料等の資源制約というものの絶対的な天井というものを意識し始めた途端に、マーケットがそれまでの経済の動きに対して、あるいはその過剰部分に対して急ブレーキをかけている。次の長期的な均衡は何かということを探る努力を促している、そういう現象だというふうに基本的に理解しています。
(引用ここまで)

今の景気後退の問題を、従前のようなメンタルモデルで、「刺激を与えれば景気が浮揚する」と考えていては前進はありえないでしょう。経済の中の枠組みで考えるだけでなく、経済の外の枠組みを視野に入れて、その中ので経済システムの構造そのものを再設計することが強く望まれます。

具体的には、温暖化/エネルギー問題と、さらには原材料やエネルギーなど経済への重要なインプットを創り出す生態系の生物多様性の問題をふまえ、すべての人々の幸福に寄与するという本来の目的に照らし合わせて、経済がいかに効率的かつ安定的に価値を出し続けることができるか、その構造を再設計する必要があります。システムの構造を変えず、消費者や市場のマインドばかりを上向きに変えようと思っても、物理的な限界を持つ実体経済は同じ天井に繰り返しぶつかるばかりで、時間と資源の多大な浪費に終わってしまうことでしょう。

2009年は、この経済を取り巻く大きな枠組みまでメンタルモデルを広げていけるよう、啓発や取り組みを行っていきます。具体的には、前述のビジネスモデルのゼミをはじめ各地での新しい経済・ビジネスモデルの構築を支援したく考えています。

また、自分たちでもやれることをやっていくために、弊社オフィスで使用する電力の省エネと100%自然エネルギー利用、飛行機出張による二酸化炭素排出量のオフセット、インドネシアのNGOの自然エネルギープロジェクト支援を継続していきます。

2010年には名古屋で生物多様性第10回締結国会議COP10が開かれます。生物多様性の劣化を止め、その保全修復を図る上でのビジネスの役割が確実に問われていくことになるでしょう。昨年サンフランシスコでファシリテーター役を務めた日産自動車と国連大学高等研究所による生物多様性に関する有識者ダイアログでの経験をふまえ、システム思考を駆使して生物多様性分野でのビジネスの影響と貢献を探求していきます。
http://www.nissan-global.com/JP/NEWS/2008/_STORY/080926-02-j.html

手始めに、1月30日「生物多様性とビジネスフォーラム」を開催します(残席わずか)。企業の実務担当者らと、問題意識を共有し、本質的な取り組みのきっかけをつくっていきます。その後、講演やワークショップのファシリテーションなどの形で、企業の生物多様性への取り組みを支援していきます。
http://change-agent.jp/news/archives/000183.html

以上、今年の抱負をまとめると次のようになります。
○システム思考の講演・研修の提供を広げる
○システム思考の翻訳本を出版して、さらに高度で実践的なツールを提供する
○組織・社会システムの「設計者」たるリーダーを育成する
○学習する組織、システム思考を実践する学習者ネットワークを広げる
○環境の変化をふまえた新しい経済・ビジネスモデルを探求する
○自ら実践しつつ、企業の温暖化、エネルギー、生物多様性への取り組みを支援する

2008年を通じて、環境変化はますます速く、激しくなっていることを実感します。それに比して、私たちの知識は科学技術の進歩や教育水準の向上、IT技術の普及のおかげで増えてはいるものの、多くの組織や政府は環境の変化がもたらすさまざまな課題には十分対応し切れていません。いかに、組織と個人の「知」の創造を加速させ、大局的に長期の時代の変化をふまえた行動実践を加速化するかは、あらゆる組織と社会の大きな課題といえるでしょう。

システム思考は、時代のダイナミックな複雑性を理解し、しなやかに進化し続ける構造を設計するのに欠かせない「知恵」と「技」の基盤といえます。システム思考の真価が問われる時代が今まさに来ていると、あらためて自分たちの使命の重要性を感じています。

地球規模の課題から、身近な職場や人生の課題まで、本質的な目的と解決策を求める限りにおいて、システム思考が役立つ場面はさまざまです。このメルマガを通じて、みなさんの課題にお役に立てるような情報を提供していきたいと思います。

本年もどうぞよろしくお願いします。


チェンジ・エージェント
小田理一郎・枝廣淳子

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