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効果的な災害対応のために、関係諸組織のネットワークの質を高めよう  ~そのためのガイドライン(抜粋)

2011年03月12日

米国海軍大学院 ピーター・デニング教授によれば、2001年米ニューヨークの911、2004年のインドネシアなどでの津波やハリケーン・カトリーナでの救助活動の経験から、「災害応答の質は災害計画や災害対策装置・設備以上に、災害援助を提供する諸団体・人々のネットワークの質に依存する」ことがわかりました。例えば、どれくらい早く音声やデータコミュニケーションが回復するか? どれくらい効果的にネットワークが被災者に援助を届けられるか? などです。以下、彼の実地で学んだ学習の要旨を紹介します。

災害時の特徴は、概して急に発生するために準備が必ずしも整っていない、災害の大きさに比してしばしばリソースや訓練が不十分である、軍・行政・私的な団体など複数の組織が単に共存するのではなく協働するのは容易ではない、被害が広域で多くの行政区域をまたがる場合には資源配分や意思決定が数多くの組織に分散し、指揮命令による意思決定は機能しない、通信・電気・水などのインフラが機能不全にあってそのインフラ確立が早期になされる必要がある、などです。

最初の重要なステップは、さまざまな対応組織が協働する「コミュニケーションの場」を作ることです。この協働ネットワークにおいては、諸組織が迅速に集まり、緊急ミッションのために協働し、異なるコミュニティを代表し、コミュニケーションの場で共に働き、協同で計画、約束、実行をすることが重要であり、それには単に最新のネットワーク技術だけでは不十分です。参加者が、移動通信・モニターシステムの設置、組織横断の実行・協働、「即興」、階層のない場での分散型意思決定を行う社会ネットワークのスキルに熟達する必要があります。災害時の対応は、いつもの組織での習慣が出てしまうことで、そのために災害救助に失敗した例が多くあります。例えば、情報を自組織内のみで共有して、他の組織には伝えない、或いは、被災の責任を自組織ではなく他の組織にあると自組織批判回避を念頭に行動するなどです。多くの組織が協働する場では、分散型リーダーシップをもつ「エグゼクティブ・コミッティー」などが有効です。

ネットワークの質を高める重要なガイドラインは、以下の通りです。
1)物理的なコミュニケーションシステム、多様な参加者、参加者間の相互作用のルールなど「コミュニケーションの場」の質を確保する―その質は参加者が協働学習スキルを高めることに依存する

2)通信システムについて、緊急用の移動通信手段を設置、その安全な利用を確保する。標準的なソフトやプロとコールを使うことで、相互互換性や相互コミュニケーションの容易さを確保できる―ウェブなど。(ポイント4:ウィンドウズ、マック、リナックスなどシステム間の技術的な互換性にも注意を!)

3)各組織が集まる協働のエグゼクティブ・コミッティーを設ける。指揮命令系統が機能しないとき、協働の仕組みがもっとも有効な対応手段である。

5)非常時にはしばしば情報の集中と氾濫が問題になり、貴重な意思決定時間、資源の有効利用を阻むことがある。適切な情報システムによって、行動の効果性を失わないまま、情報量を10分の1にすることも可能である。

6)協働ネットワークを効果的にする技術を利用する―wiki、掲示板、チャット、SMS、グループウェア、SNSサービスなど

7)組織間協働を阻む障害を取り除く。対立するミッション、不明確な役割、相互互換性のないプロセスと情報システム、異なる組織風土、アカウンタビリティの欠如、不信感、他組織の能力に関する知識不足などである。

8)強度のストレス下では、組織の日常の習慣的な行動が現れやすい。あらかじめ、急造ネットワークでの協働のスキルを鍛える。組織間の協働を推進する政治的なサポート、互いの組織の能力への相互尊敬、互いの安全への懸念共有、行動と結果へ個々人が責任を持つことなどが重要である。

9)支援参加者の「即興」スキルを鍛える。(アンサンブルやジャズのグルーヴのような「即興」)

詳しくは、下記(英語)を参考にしてください。

Peter Denning, "Hastily Formed Networks--Collaboration in the Absence of Authority" (SoL機関誌『Reflections』 Vol. 7.1、2007年)

また、即興に関しては、下記がU理論に基づいて説明をしています。
Tracy Huston, "Enabling Adaptability & Innovation Through Hastily Formed Networks"
(SoL機関誌『Reflections』 Vol. 7.1、2007年)

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