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なでしこジャパンに見る、高い業績を生むチームの特徴

2011年07月26日

なでしこジャパン(女子サッカー日本代表)がドイツで開かれたワールドカップで優勝しました。今年は震災やその後の一連の不始末の暗いニュースが多かった中、久々の明るいニュースでした。おめでとうございます。

サッカーは、システム思考や学習する組織を考える上で多くのことを実にわかりやすく示唆してくれます。システムとは、「つながりをもった集合体」のことですが、サッカーチームはまさに個々の選手が、チーム内はもちろん、相手選手や審判、観客も含めてさまざまなつながり、相互作用があります。

あるシステムが高いパフォーマンスを上げるためにもっとも影響が大きいのは、要素の質よりもつながりの質です。つまり、個々のプレイヤーの質以上に、プレイヤー間のつながりの質がしばしば勝負を分けます。身体的能力では劣りがちな日本人でも、選手間の意図の共有、コミュニケーション、動きの連携やパスの精度などを高めることで、質の高いプレイヤーを抑え、相手の間隙をぬった攻撃も可能になります。

システムとして機能するのは、戦術的なことだけでなく、戦略面でも重要です。そうした高いつながりをもったチームづくりは一朝一夕ではいかないでしょう。なでしこジャパンは、佐々木監督の指揮が長い間、安定的に続きました。目指す姿や方向性が長期に安定しない状況では、組織は場当たり的な行動を繰り返し、結果として組織風土は荒廃し、いずれ崩壊します。日本という国、政府、そして多くの低迷する組織では、トップ交代があまりにも早く続くため、長期的なひとづくり、組織作りや戦略的な取り組みに本腰が入らないのですが、この点でなでしこジャパンは対照的だといえるでしょう。

決勝のPK戦で現れたように、心理(メンタルモデル)もまた選手のパフォーマンスに大きく影響を与えます。監督はここぞという場面で笑顔を織り交ぜ、上手に緊張感をほぐしたりしながら、選手たちが自らの潜在能力を引き出すことを上手に支援していました(もちろん、笑顔やリラックスそのものが勝利の秘訣ではなく文脈こそが肝心です)。そのためには、日常のたゆまぬ鍛錬の積み重ね(自己マスタリー)があってこそ、潜在能力も伸びるし、その潜在能力を出し切ることも可能になります。

そして何度も訪れた逆境をはねのけた不屈の精神には特に感銘を受けました。その背景には、個々の選手が、そしてチーム全体が共有して抱く想い、つまり、共有ビジョンがあったからこそではないかと思います。海外のメディアのインタビューでキャプテンの澤選手が答えていた内容には心を打たれました。選手たちは自分たちがしていることがサッカー以上のものであると認識して、次のように述べています。

「こんな辛い時期だからこそ、みんなに少しでも元気や喜びを与える事が出来たら、それこそが我々の成功となる。日本は困難に立ち向かい、多くの人々の生活は困窮している。我々は、それ自体を変えることは出来ないものの、日本は今復興を頑張っているのだから、そんな日本の代表として、復興を決して諦めない気持ちをプレイで見せたかった」

自分事なら人は動くといいます。さらに、そこにほかの多くの人たちに捧げる想いが重なったとき、自分たちの使命感を背負ったときに、人は自らの潜在能力を100%出し切るような、力の源泉に触れるのでしょう。

そうした深いレベルでつながりを持ち続けながら、健闘し、日本を励ましてくれたなでしこジャパンに敬意を抱くとともに、あらためて私たち一人ひとりへ送られたエールを受け止め、長い道のりに向けてのパスをつなぎ続けていこうと思います。

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