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『社会変革のためのシステム思考実践ガイド――共に解決策を見出し、コレクティブ・インパクトを創造する』(英治出版)が発売されたのが2018年11月。その約半年後の2019年6月に著者のデイヴィッド・ピーター・ストローを招聘し、ワークショップを開催しました。
本稿では、ワークショップの参加者から寄せられた質問にデイヴィッド・ピーター・ストローが回答した質疑応答の抜粋記録を紹介します。
Q1.「システム思考は言語である」という事の意味合いは?
世の中にはたくさんの言語があるが、それぞれ世の中の見方、視点が違います。例えばエスキモーの人たちは"雪"を表す言葉を20~30持っています。なぜなら、他の地域の人々よりもどういう雪であるかをより厳密に理解することが重要だからです。別の例では、西洋の味覚は四つですが、日本にはもう一つあります。それは旨味。西洋の人間は旨味を感じることができません。しかし、言語を持っている日本人は旨味を感じられます。これと同じで、システム思考という言語を学ぶことによって、世界を見る新しい見方が加わります。新しい見方ができるということは、新しい楽しみ方、味わい方ができる。そして新しく今までできなかったことが達成できるということです。
Q2.ループ図を使って可視化することのねらいは何か?
英語のことわざに「図は1000の言葉に勝る」というものがあります。図は大量の情報を効率よく伝えることができます。昔、ある同僚がクライアント向けに50ページの報告書を書いていました。私はその内容を1枚のループ図にまとめました。そのほうが効率良いです。例えば、NPOであれば、自分たちが何をどうしたいのか?を伝えるために絵を使えば、効果的に伝える事でき、資金調達にも役立つと思います。
Q3.利害関係者をどう巻き込み、理解してもらうのか?
単に普段使っている言葉をシステム言語に直すだけではなく、システム言語を普段の言葉に戻し直すことも大切です。皆さんは、人々に自分の姿を映す鏡のような技を学んでいます。色んな人が自分の経験を今までとは違う形で理解することを皆さんは助けようとしているのです。
数年前、ある人がシステム思考を使った時、「私は何年何年もぐるぐると堂々巡りしていた。そして、堂々巡りしていたこと自体が問題ではなく、堂々巡りをしている状態にあることが見えていなかった事が問題だった。」という洞察を得られました。このことは、システムの中にいると気づけません。一歩引いて外にいるからその状態が見えるのです。
通常、はじめはインタビューをして私がマッピングをするということをします。そのうえで、利害関係者少人数に集まってもらって、私が書いたたたき台を理解してもらいます。それから、その人たちに「もっとこうだよ」というのを反映して改善してもらいます。システム図それ自体のためにするわけではありません。システム図は、あくまでも触媒であり、思考をうながすための道具です。私は利害関係者の方々自身の経験に対する新しいものをみてもらいたい。そのためには、関与してもらい一緒にシステム図を作るプロセスが必要です。そして、このプロセスを何度も繰り返します。はじめは小さなグループに見せて、実情に即した形に改善する。そしてまた別のグループに見せて、また改善してもらう。それを繰り返していきます。
Q4.どういうときにシステム思考を使うのか?
慢性的で複雑な問題です。それは以前から問題があるのがわかっているもので、それに対して取り組んだけどうまくいかなかったもの。また、それぞれが象の違う部分を触っている(「群盲象をなでる」の故事)のように、立場の違いで見解が異なるような課題で使うと良いでしょう。
Q5.どうすればシステム思考をうまく使えるか?
練習と実践あるのみです。練習・実践は、組織内だけでやる必要はありません。例えば、家庭内、地域社会の中で実践することもできます。システム思考を使う課題が枯渇することはありません。探せばいくらでもあります。
(江口潤)