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リンダ・ブース・スウィーニー博士インタビュー(2009年9月)

2024年04月12日

リンダ・ブース・スウィーニー博士来日にあたり、クマヒラセキュリティ財団より委託を受けた「学習する学校」レポートのためのインタビューの内容を紹介します。同レポートに関してはこちらをご覧ください。

リンダ・ブース・スィニー氏は、米国に在住するシステム思考の教育者であり、研究者であり、コンサルタントであり、作家である。あらゆる世代の人々が、「生きているシステム」の原則に対するより深い理解を日常の意思決定に組み込めるよう支援することに専心している。

システム思考の世界的第一人者であるフリッチョフ・カプラ氏、デニス・メドウズ氏らとの協業の経験を経て、ピーター・センゲ氏らとともに組織学習協会の「SoL教育パートナーシップ」を共同設立している。また、子供向けのシステム思考教育の著書を3冊書き、システム思考及び学習する学校の世界の状況に詳しい、将来を嘱望される第一人者の一人である。

Linda Booth Sweeney  - Piessens.png

リンダ・ブース・スィニー氏へ20099月ハンガリーの国際会議でインタビューを行った。(聞き手:小田理一郎)

Q.今の学校に必要なことは何ですか?

世界が今求めているのは、21世紀を生きるのに必要となる「システム・リタラシー(複雑なシステムを理解する知識・能力)」であると考えています。

なぜシステムを理解する必要があるかというと、食糧問題、経済危機、貿易・財政問題、エネルギー問題、温暖化危機、貧困問題、紛争・テロ、慢性疾患、子供の肥満、ドラッグ問題、メンタルヘルス、幸福、そして教育についてすべて共通していえることですが、問題を作っているのは個々の要素ではなく、さまざまな要素の相互依存的な関係であり、それゆえ、しばしば悪循環をつくりだしていることにあります。

このような問題には、問題の原因となる要素を特定して解決するアプローチでは、問題はなくなりません。問題の起きている状況をシステムとして捉え、システムそのものの構造変革をしなくてはならないのです。

Q.システム・リタラシーを高めるには何が必要ですか?

システム・リタラシーを高める上での重要なのは、(1)(生きている)システムを理解すること、(2)システムを目に見えるようにすること、(3)システムに上手に対処することです。

(1)システムを理解する

まず、生きているシステムを理解する上では、システムの特徴や原則の知識を必要とします。そして、一歩下がって、繰り返し起こる行動パターンに注目する―そのためには、システム原型、分子構造、核心構造の知識を要します。

(2)システムを見える化する

ついで、システムを見える化するためには、影響図、関係サークル、ループ図、ストック/フロー図、コンピューター・モデルやシミュレーション・モデルが利用されています。

(3)システムに上手に対処する

最後に、システムに上手に対処するためには、「推論のはしご」などのメンタルモデル、チーム学習、建設的な会話、ステークホルダー・ダイアログ(ワールド・カフェなど)、「思考の習慣」、そして、シナリオプラニング、戦略プラニング、持続可能な開発などの他の手法との統合が有効であります。

Q.システム思考によって、子供たちは何を得られるでしょうか?

子供たちのいくつもの重要な才能を開花させることができます。まず、子供たちは、相互の関わり合いについての関心を高めることができます。「これがどのようにそれとつながるのか?」「もしこれをすると、何が起こるのか?」と問い、常に「次に起こるのは何か」を考えることができるようになります。

そして、個別の要素に因果を求める「ストレートライン」思考の代わりに、ものごとがつながって元に戻ってくる「クローズドループ」思考を身につけるでしょう。「雪玉が斜面を転がり落ちて大きくなっていくように、何かが蓄積していっているか?」それとも、「ヨーヨーのように上下に動いて、バランスしているか?」「どのように、ある生物の排出物がほかのプロセスの食糧となっているか?」と行った具合に。

第3に、ものごとの「パターン」を見出せるようになるでしょう。「今起こっていることと、同じか似たように感じる状況はなんだろうか?」「どこで同じような行動パターンを見たことがあるだろうか?」といった問いが出てきます。

そして、「AもBも両方」とする「Both/And思考」を受け入れるでしょう。「もし、誰かが『AかBかどちらか』とする『Either/Or思考』の話をしていたら、『Both/And思考』を試してみよう」「どのようにすれば、こちらとあちらの両方を立てることができるだろうか?」といったように考えられるようになります。

Q.ブース・スィニー氏はどのような仕事を行っていますか?

1995年より、システム思考の教育に携わっていますが、最初はスピーチライターとして、後にアウトワード・バウンドのプログラム・ディレクターとして働いた。MITの組織学習センター(現組織学習協会)の研究員であり、また、SoL教育パートナーシップの設立パートナーであり、またシュルンバーガー教育開発エクセレンス(SEED)のコンテンツ専門家でもあります。

現在では、タフツ小児肥満研究チーム(the Tufts Childhood Obesity research team)、ローエル持続可能な農業センター(the Lowell Center for Sustainable Production)、農場教育連盟などと一緒に子供達(及びコミュニティの大人達)のシステム・リタラシー教育に取り組んでいます。

また、オードゥボン自然センターでは、生きているシステムの原理を教育・学習プログラムやセンター内の標識等へ統合することを支援しています。

Q.どのようにシステム教育にアプローチをしていますか? また、どのような取り組みを行っていますか?

ハーバード大学で2004年に博士号を取得するにあたって、エコリタラシーセンター及び(システム思考の世界的第一人者の)フリッチョフ・カプラ氏とともにシステム・リタラシーの研究を行い、また、MITスローンビジネススクールのジョン・スターマン教授とともに成人のシステムの挙動、とりわけ気候変動の挙動について、どのように理解しているかについて幅広く調査を行いました。

複雑なシステムの課題を明確に定義し、調査し、解決するために、コンピューターシミュレーションやその他のシステム思考ツールを駆使しています。また、教育用の本として、『The Systems Thinking Playbook』(デニス・メドウズ氏との共著)、『When a Butterfly Sneezes』、『Connected Wisdom: Living Stories about Living Systems』などを執筆しました。

現在では、「システム理論+システムマッピング+ストーリーテリング」の手法組み合わせによって、(前述の)さまざまな組織と一緒に活動しています。

Q.「システム思考」/「学習する組織」の模範的実践例に何がありますか?

アメリカでいえば、まず、アリゾナ州ツーソンのカタリーナ・フットヒル地区が挙げられます。この地区の中学、高校では、システム思考の手法を駆使して、現実世界の複雑な課題について、協働を通じて問題解決をする授業に取り組み始めました。(実践事例1参照)

ニューヨーク州ロングアイランドでは、教職員組織運営を「学習する組織」で行うプログラムから着手し、順次、教室の子供たちにも展開していきました。現在では、「システムとリタラシー」のカリキュラム開発に取り組んでいます。また、この地域では、子供たちの中学卒業の要件として、地域コミュニティサービスの実践が義務付けられています。

バーモント州バーリントンでは、持続可能性に関するプロジェクトを取り上げて、小学生が住民たちとともに、地域での問題の解決にあたるプロジェクトに取り組んでいます。

海外に目を向けると、オランダの教育長たちが創設した「ナチュラル・ラーニング」において、校長がサーバント型リーダーを目指す教育と「学習する学校」プログラムによって、改革を進めています。(実践事例3参照)

世界にはすでに実に多くの実践例があります。もしお時間をいただければ、私の頭の中にはたくさんの例が入っているので、それらをまとめることもできます。

Q.システム思考や学習する組織を広げるためにどのような教材がありますか?

システムを理解し、見える化し、システムと上手に対処するために、実に多くの媒体を使って、教材がつくられています。

  • システム理解のための教材

カリキュラム(既存プログラムへのシステム思考の統合)、規定、ワークショップのデザイン方法、アニメーション、書籍・文献、ゲーム、民謡、物語、思考の習慣、教育基準との連結、発達に応じた活動(幼稚園、小・中・高等学校、大学、成人教育)、Uチューブビデオ、実践事例、ウェビナーなどがあります。

  • システムを見える化するための教材

ソフトウェア、シミュレーション、アニメーション、書籍・文献、コミュニケーション、デザイン、モデリングなどがあります。

  • システムに上手に対処する

ロールプレイ、フレームワーク、書籍・文献、思考の習慣、コミュニケーション、デザイン、言語、チームラーニング、建設的な対話、メンタルモデル、ストーリーテリング、モデリングなどがあります。

Q.日本でのプログラム開発にあたっての提言はありますか?

「学習する学校」のレベルには、①教室、②教育機関、③コミュニティの3つのレベルがあります。当初から、コミュニティを巻き込むことはとてもよいアプローチです。コミュニティの現実の課題にこそ、学習の機会があります。

アメリカでは、ピーター・センゲ氏の「学習する組織」「学習する学校」の講演などをきっかけに、地域の関係者(教育委員会、学校、PTA、行政、ビジネスなど)が集まり、ワールド・カフェを繰り返しながら、実践コミュニティの輪を広げていきました。

プログラム・カリキュラムのデザインにあたっては、学校を取り巻くシステムはそれぞれ異なるので、そのシステムについての理解を反映して進めていく必要があります。基本的な考え方やプロセスは、他の事例の適応が可能ですが、具体的な材料やデザインについては、それぞれ個別のものとなっていきます。

ニューヨーク州ロングアイランドでは、「システムとリタラシー」プログラムに取り組んでおり、私が外部専門家として教員たちとプログラムデザインを行っています。

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