サステナビリティ

Sustainability

システムチェンジ

システムチェンジとは、目的意識ある介入により、特定されたシステムの機能や構造を変え、現状を変えさせるためにデザインされた意図的なプロセスです。システムチェンジと呼ぶには、一部の個人、組織、まちなどにとどまらず、広く社会システム規模で起こる大規模な変化であり、そのためには、多くの人々の態度や生活・仕事のやり方を根本的に変わることが必要となります。

システムチェンジの一例として、公共での喫煙の仕方があるでしょう。かつて、職場でもレストランでも交通機関でも、喫煙者と非喫煙者が同じ空間を共有することが当たり前であり、受動喫煙が避けられない状況であり、健康や医療費などの社会課題として懸念されていながらも、禁煙・分煙などはごく一部の場に限られていました。ところが、今では日本でもアメリカでも、公共の場では禁煙が当たり前となって、喫煙したい人は隔離された喫煙スペースや建物の外などに出て喫煙するようになりました。ここでは、単に建物や乗り物内での法律やルールにとどまらず、喫煙に対する社会の価値観や規範が大きく変わり、建物や乗り物における隔離や換気のための設備構造や関連技術なども変わっていきました。こうした動きは、一部の都市や健康意識の高い職場だけにとどまらず、社会のあちこちまで広がっています。まさにシステムチェンジの一例と言えるでしょう。

システムチェンジの目的と手段

システムチェンジは、システムをある特定のパターンで動作させる基本的な構造とサポートメカニズムを変えることによって、持続的な変化をもたらすことを目的としています。

システムチェンジの手段には、政策、ルーチン、人間関係、リソース、権力構造、価値観の変化が含まれます。

氷山モデルが示すように、出来事やパターンのレベルではなく、システムの構造やメンタルモデルへのレベルでの介入が、より大きく持続的な変化を生み出します。ドネラ・メドウズによるレバレッジ・ポイント、システムの中の介入する場所のリストもまた、システムチェンジを検討する手段としてもっともよく活用されているツールです。ストック&フロー、バッファー、時間遅れ、フィードバックループ、ルール、ゴール、パラダイムなどです。これらシステム思考の考え方やツールは、システムチェンジの実践の根幹をなしていると言えるでしょう。

旧システムのレジリエンスがシステムチェンジを妨げる

レジリエンスとは、一般にシステムがその基本的な機能、構造あるいはアイデンティティを保持しつつ、外部からの衝撃に耐える能力であるとしました。レジリエンスを高めることはよいことであるような枠組みで紹介されることが多いですが、何のシステムかによって文脈が変わります。つまり、それが人々にとって総合的によいシステムならば、レジリエンスを高めたいでしょうし、反対に人々にとって望ましくないシステムならば、レジリエンスが低くなっているほうが変わりやすいということでもあります。

レジリエンスの模式図

レジリエンスは、システムをコントロールする変数が、
閾値にどれだけ距離を持っているかで測ることができる

レジリエンスの模式図(1)

人間の社会経済システムをレジームとして捉えたとき、レジリエンスが低ければ、そのシステムのレジームシフトが起こりやすく、レジリエンスが高ければレジームシフトが起こりにくいことを意味します。社会・経済・環境の問題について、気候変動や持続可能な農業などのシステムチェンジを目指すような活動が、ごく狭い範囲でしか普及しないことがよくあります。代替の構造と機能をもつ新しいレジームを目指しながらも、旧態依然とした元のレジームのレジリエンスが高いことによって、イノベーションや変化が押し戻されてしまうこともあるでしょう。

レジリエンスの実践をする人々の間では、人類及びその活動の基盤をなす社会生態システムにとって有用なレジームと有用でないレジームをシステム的に見極めた上で、いかにしてレジームシフトを意図的に起こすかとする研究が盛んに行われています。これを「システムのトランスフォーメーション(変容)」と呼んでいます。まさにシステムチェンジと符合する考え方であり、レジリエンスは何がシステムチェンジを妨げるかを理解する上でも有用であると言えるでしょう。

ベルカナ研究所
「2つのループ」モデル

ベルカナ研究所「2つのループ」モデル transition

マーガレット・ウィートリーとボブ・スティルガーが設立したベルカナ研究所は、この新旧2つのシステムの緊張関係を和らげ、新しいシステムへの移行を進めるためのモデルを提唱しています。

あるシステムが成長のピークを迎え後退期に入るとき、あちらこちらで独立して代替する動きが現れ始め新しいシステムを形成し、やがて古いシステムから新しいシステムへの移行が起こります。このシステムを促すためには、以下の3つが有用です。

  1. 新しいシステムを構成するさまざまな動きを名づけ、つなげ、育て、光をあてる
  2. 古い、消えゆくシステムのやすらかな最期を迎え入れる支援をする
  3. 2つのシステムの選択があることを明らかにし、新しいシステムへの移行を支援する

システム規模の課題について、どのシステム(国、地域、コミュニティ、組織など)にも共通して適用できる解決策は存在しないと考えられます。しかし、ローカルのレベルで働く人たちがそれぞれのシステム同士で互いに学び合い、共に実践し、学習を共有し合えば、広範にわたって効果を広げることは可能です。現に、ローカルでの行動がそれぞれの地域に根ざした文化、趣、形式を護りながら、グローバルにつながり合うときに大規模な変化が数多く出現しました。この現象は、「トランス・ローカル・ラーニング」と呼ばれます。

サステナビリティ・トランジション

ギールスとケンプは、よりサステナブルなシステムへのトランジション(遷移)を考える上で、過去の大きなレジームの変化について研究を行っています。その中で、システムの規模について、マクロ、メソ、ミクロの3つのレベルから理解するモデルを提示しました。

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ニッチェであった自動車がどのように普及したか

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パラダイムの変容

社会の人々の頭の中にある共通の考え、大きな暗黙の前提が「パラダイム」であり、システムを生み出す源泉となっています。科学技術分野における大きなパラダイムについて研究したトマス・クーンは、パラダイムの変容に必要なポイントを以下のように上げています。

  • つねに古いパラダイムの異常や失敗を指し続けること。
  • 声を大にして自信を持って、新しいパラダイムに基づいて話し、行動しつづけること。
  • 新しいパラダイムを持った人々をみんなに見え、権力のある場所におくこと。
  • 反動主義者にかかわって時間を無駄にしないこと。
  • それよりも能動的な変化の担い手や、偏見のない中立的な多くの人々とともに活動すること。

これらの枠組みや理論を活用することで、限りある資源を持続可能に利用しながら、最大多数の人の最大幸福を目指す。そのような目的に向かって、私たち人間文明のシステムチェンジが一日も早く起きることを願っています。

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ーーギル・スコット=ヘロン(詩人・ミュージシャン)

世界を変えようと決意を固めた個人からなる小さなグループの力を決して否定してはならない。実際、その力だけがこれまで世界を変えてきたのだ。

ーーマーガレット・ミード(文化人類学者、女性の権利活動家)

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