学習する組織

Learning Organization

学習する組織とは?

学習する組織は、ピーター・センゲが提唱した組織マネジメントのアプローチです。

脆弱・不確実・複雑・曖昧と言われる今日の事業環境の中で、経営と組織のあり方を抜本的に問い直すアプローチとして世界的に注目され、派生した手法を含めてその実践がビジネスや非営利組織、教育セクターで広がっています。

変わりゆく事業環境の中でいかに組織が持続的にパフォーマンスを出し続けるかは経営上の最重要な課題の一つです。戦略、業務構造、組織の制度などのハードの側面に注力しがちですが、その成否を決めるのはソフトの側面である人材、対人関係、職場の規範、組織風土やその相互作用としての組織プロセスであることがしばしばです。

日本でも「人財」「人こそ宝」と言われるように人を重視し、人材育成はリーダーやマネジャーの重要な責務として認識されています。しかし、同じように研修を受けたり、OJTで育てた人材が成果を出しているかというとその成果は一様ではありません。そこには個人差だけでなく、職場や組織における繋がり、関係性の質が作用します。優秀な人材や潜在能力をもった人材が、職場にあってその力が活かされない状況が起こってはいないでしょうか?

ピーター・センゲの
「学習する組織」

そうしたことを背景に、「組織開発」のアプローチが注目を集めています。組織開発とは、組織の健全性と有効性を高めるために組織プロセスに働きかけることです。40年以上の歴史の中で組織の特性や状況、時代の要請にあわせてさまざまなアプローチが提唱されてきました。

数ある組織開発のアプローチの中でも企業や国際機関の経営者にひときわ脚光を浴びたのがMIT上級講師のピーター・センゲが提唱した「学習する組織」です。 学習する組織とは、目的に向けて効果的に行動するための意識(アウェアネス)と能力を継続的に伸ばし続ける組織です。

学習する組織の特徴は、システム論、認知行動科学、組織論、動機付け・心理学、成人発達理論、リーダーシップ論などの科学的知見をベースにしながら、実践からのアクション・ラーニングを重視し、組織学習を通じて、組織の健全性と有効性を高め、個人もまた成長しウェルビーイングを向上させる個人と組織が相互発展を図ります。

ピーター・センゲ Peter Michael Senge 学習する組織 learning organization

Peter Michael Senge

ピーター・センゲ

Peter Michael Senge 学習する組織 learning organization ピーター M センゲ (著), 枝廣 淳子,小田 理一郎ら (翻訳)

ピーター・センゲ (著),
枝廣 淳子,小田 理一郎ら (翻訳)

組織変革を目指すチェンジ・イニシアティブは、大企業での取り組みの調査を見ると大半が失敗に終わり、予定を終えることなく中止されています。多くの試みは、他のメンバーの抵抗や組織の中の壁にぶつかり潰えます。このような失敗の背景には、機械論的な組織の捉え方があることがしばしばです。組織を「リストラクチャリング」あるいは「リエンジニアリング」をしたり、チェンジを「ドライブ」したり、組織の中でうまくいかない人材や部署があれば、「改造」、「修理」、「交換」を行おうとします。こうした用語の一つ一つの背景には、組織や人は生産機械やその歯車のように無意識な前提が読み取れます。経営者や組織改革担当者が気づかずとも、現場の社員たちは自分たちの個性、知性、感性が省みられていないことは敏感に感じ取り、チェンジへの抵抗の大きな要因ともなっています。

組織観は
「機械論」から「生命システム論」へ

学習する組織における組織観では、組織も人も生命システムであり、また、組織内で起こる相互作用もあたかも生きているシステムかのような挙動を示すものと見ます。そして、そのことはそこで介入をする経営者、担当者、あるいはコンサルタントもまた、そうしたシステムの一部と捉えています。介入する者が、自らの立ち位置や振る舞いを自覚しなかったとしたら手ひどい抵抗にあうことでしょう。

学習する組織は、機械論から生命システム論へ、要素還元からホールシステムへと見方を転換すること(あるいは両面から観ること)で、今までの効果を生まない自らの行動、思考、意識に気づき、より効果のある行動、思考、意識を共に創り出すことで効果を高めます。組織でしばしば観られる抵抗や壁ですが、個人や組織の学習機会を指し示すもの と捉え直すことで、自己やメンバーの学習を促したり、あるいは新たな関係性のもとに乗り越える入り口となることが少なくありません。

「学習する組織」5つのディシプリン

こうした視野の拡大や視座の転換を図るために組織と個人に求められる能力が、学習する組織の5つのディシプリンです。

(1)自己マスタリー
(2)共有ビジョン
(3)メンタル・モデル
(4)チーム学習
(5)システム思考

学習する組織の実践において、組織学習の基本単位となるチームが、5つのディシプリンをバランスよく伸ばします。
そのために必要な組織の行動は、下記の3つです。

  • 組織リーダー が経営理念として健全で結果を出せる組織に必要なビジョン、価値観、規範を打ち出し、浸透を図ること
  • マネジャー、リーダー、あるいは個々のメンバー が3本柱の能力を伸ばす具体的な手法やツールを学ぶこと
  • 組織として、それらの手法を活用するための実践と練習の場を用意すること

ピーター・センゲらは、この3つの学習する組織を培うための「戦略の構造」と呼びました。

学習する組織「戦略の構造」「深い学習サイクル」

「学習する組織」について、より詳しくはこちらもお読みください。

ビル・トルバートの
「行動探求
(アクション・インクワイアリー)」

学習する組織の学習は、単に知識を得たり、PDCAを行うことにとどまりません。自分自身のメンタル・モデルへの気づきや変容を促すダブル・ループ学習や、自らの役割や存在意義について振り返るトリプル・ループ学習のような、「深遠な学習サイクル」の実践が重要です。

ボストン大学ビジネススクール元学長のビル・トルバートは、こうした実践を洗練させて、行動(アクション)と探求(インクワイアリー)を別々に捉えるのではなく、行動をしている最中に振り返りを行い、また振り返りをより行動へ近づける「行動探求(アクション・インクワイアリー)」手法を開発しました。個人のリーダーシップや組織変容を図り、チームや組織を学習する組織へ導く「行動探求(アクション・インクワイアリー)」について詳しくはこちらをお読みください。

起こりうる未来への視野を広げる
「シナリオ・プランニング」

学習する組織の学習の対象は、過去や現在だけに限定されるものではありません。未来に関しても、組織で学習することが重要です。そのための代表的な手法がシナリオ・プランニングです。事業環境の変化について、過去の成功体験や問題という視点で捉えるのではなく、起こりうる未来への視野を広げ、市場でのリスクや機会を捉え直して、事業環境の変化が現実になった際に、現場主導で分散的に最善策を打ち出すことが可能になります。シェル社のシナリオ・プランニングは 40年以上にわたって実践され、2度のオイルショック、旧ソ連圏の崩壊、中東などの地政学的な変化、企業への社会的責任に関する要請の高まりなどの事業環境の転換を予期し、組織としての備えをあらかじめ測ることで、競合他社や他の業界よりもいち早く迅速に変化を実践していきました。

シナリオ・プランニングにおいては、組織及び個人が、起こりうる複数の未来を想定し、環境変化に迅速に対応することで、リスクを下げ、チャンスを活かす能力を磨きます。このプロセスは、学習する組織の重要な能力の一つ、「メンタル・モデル」の枠を広げることに寄与し、また、「共有ビジョン」を築く上での文脈を築きます。

[学習する組織]コラムまとめ読み!

知識ではなく学習が、何を持つかではなくそこに至るプロセスでの行動こそが、最高の喜びを授けてくれる。

ーーカール・フリードリヒ・ガウス(数学者、天文学者)

経験は、高くつく学びの場である。

ーーベンジャミン・フランクリン(政治家、気象学者、実業家)

失敗とは、その最大限のメリットがまだ強みに転じていない出来事のことである。

ーーエドウィン・ランド(科学者、発明家、インスタントカメラを発明)

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