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Systems Archetype

システム原型とは?

よくある問題構造に共通するかたち

システム原型とは、ひとことでいうと個人や職場、社会など、さまざまな分野で共通してよく見られる問題を引き起こしている一般的なシステム構造のことです。システム思考で構造を整理したり説明するときに用いられる言葉で、英語では、Systems Archetypeといいます。

次の1~4の例を見てみましょう。どこかで、見聞きしたり、経験したりしたことはないでしょうか。


  1. 「連休なので遊びに行った。しかし、車で出かけたらものすごい渋滞で、家に帰りついたのが真夜中になった。」
  2. 「出張の経費を使わないとほかの人に使われてしまって損をする。そう思ってどんどん使っていたら、年度の終わりには経費予算が残っておらず、肝心な出張ができなくなった。」
  3. 「社会保障がとても厚く、働かなくても何とか食べていけるので、職につかなかった。しかし、国の財政は圧迫され、社会保障のプログラムは成り立たなくなってしまった。」
  4. 「豊かな牧草地があると聞いて、羊を連れてきて放牧した。こうしてたくさんの羊が集まったが、羊は牧草地を食べ尽くしてしまい、翌年何も生えてこなかった。やがて、すべての牧草地が不毛の地となっていき、羊を育てることができなくなった。」

ここに挙げたのは個人、職場、社会、環境と異なる4つの分野の問題ですが、共通の構造が見えてきます

どの例にも共通しているのは、自分の利益のためになると思ってとった行動が、後になって自分の不利益に転ずるという構造から起こっているということです。また、自分だけでなく同じように考えるたくさんの人たちがその行動をとることで、共有する資源が崩壊し、全体として不利益が生じています。

同様のストーリーは、私たちの身の回りのいたるところで見られます。システム原型は、このように繰り返し語られる単純なストーリーのようなものと考えればよいでしょう。

繰り返し起こる問題は構造から生み出される

目に見えている出来事や問題にはパターンがあり、それを生み出している構造があります。上記の例からもわかるように、構造には分野にかかわらず共通して見られるかたちがあります。システム思考では、これらの構造のかたちをいくつかに分類して「システム原型」と呼んでいます。類型化することによって、問題を引き起こしている構造は何か、どのようにすれば解決の糸口を見出せるか、などについて、システム思考の知恵を活かすことができます。

では、システム原型にはどのようなものがあるでしょうか。

ピーター・センゲらによって紹介された10のシステム原型

システム原型を、ビジネスの文脈にまとめなおしたのが、学習する組織の第一人者で知られるピーター・センゲらです。ピーター・センゲは1990年に刊行した『The Fifth Discipline』でシステム思考とともに、システム原型を紹介しています。原書の中で紹介されているのは次の10の原型です。(原型名称はチェンジ・エージェント訳出による)

  1. 「遅れのある調整」
  2. 「成長の限界」
  3. 「問題のすり替わり」
  4. 「外部者への依存」
  5. 「ずり落ちる目標」
  6. 「エスカレート」
  7. 「強者はますます強く」
  8. 「共有地の悲劇」
  9. 「うまくいかない解決策」
  10. 「卵かニワトリか」

いくつかの基本となるシステム原型を理解すれば十分に役に立ちます。ほかの原型はその組み合わせや応用が多いからです。

さて、では冒頭の事例に共通する構造は、みなさんはどのシステム原型だと思いますか? 

また、学習する組織を展開するためにイノベーション・アソシエイツ社をピーター・センゲらと共同設立したディヴィッド・ストローは、著書『社会変革のためのシステム思考実践ガイド』の中で、12のシステム原型を紹介しています。

12のシステム原型を詳しく見る

原型「共有地の悲劇」を例に見る、構造への対処法

冒頭の事例にある共通した構造は「共有地の悲劇」という原型にあてはまります。このストーリーでは、個人の受ける恩恵は最初よい方向に向かっていきますが、その後反転してもとよりも悪いほうに向かいます。共有する資源(道路、出張経費予算、社会保障財源、牧草地)については、ほぼ一貫して減少しています。

この問題パターンを作り出しているのは構造をシステム思考で、詳しくみてみましょう。それぞれの個人は、自分のとる行為によって、利益を受けることからどんどんその行為をとる自己強化型ループが働いています。こうして、個人の受ける恩恵は、最初はまず増えていくパターンをとります。

ところが、多くの人がそこに集まると、一人当たりの利益が減るバランス型ループが働き始めます。今まで伸びていた恩恵は伸び悩むようになります。やがて、遅れを伴って、全体の共有資源の制約によるバランス型ループが働き、共有資源の減少がそれぞれの恩恵に影響を与え始めて下降線をたどります。

「全体は部分の集合にあらず」といいますが、個々の人にとって利益となる行動をとっても、それが全体の利益にならないことがしばしばあります。しかも、全体の利益を損なったとき、めぐりめぐって自分自身にも不利益がかえってくるのです。

このような事態をどのようにして避けることができるでしょうか? 「人間が欲深いからいけないのだ」と言っても、自分やほかの人を責めても、何も解決しません。「共有地の悲劇」におけるシステム思考の知恵は、まず利用者全員がその構造や過度の利用の結果起こることをよく理解するように教育することです。

同じ日時にみなが自動車を使ったら、、、 みなが我先に経費を使ったら、、、 働ける人が働かずに保障だけを受けたら、、、 牧草地にたくさんの人が押し寄せたら、、、

立ち止まって考えてみれば、わかりそうなものです。しかし、当たり前のことではあっても、私たちは時間や空間を隔てて起こることにとても疎い傾向があります。そのため、自分の行動がシステムの全体にどのように影響を与え、また自分自身にかえってくるか、そのつながりを理解しようとすることが極めて大切なのです。

もうひとつ重要なのは、共有資源の利用に伴うフィードバック・ループを作ることです。共有資源の利用者がそのコストを負担すること、あるいはすべての利用者に対して、共有資源の利用の制限のルールを設け監視すること、などです。

牧草地を例にとれば、利用者は牧草地が健全に保たれるために掛かる人件費を分担したり、そもそも利用できる時間や利用者の数を制限したりということになります。

システム原型の有効な活用法

システムの構造に目を向け、理解を助ける

私たちは構造が大事とわかっていても、なかなか働きかけることができません。なぜでしょう。構造は、通常は表面にある出来事や問題に隠れていて見えない場合が多いからです。「システム原型」の知識が深まるにつれ、複雑に見える問題の根底には、実は単純なストーリーを見ることができるようになります。「システム原型」は、働いている構造に目を向けることを助け、認識を修正し、より正しく理解するために役立てることができます。また、どのように働きかければよいか、ほかの分野でのシステム思考の洞察を活かしたり、レバレッジ・ポイントを見つける、足がかりにすることができます。

システムの罠(システム・トラップ)を予見する

システム思考の第一人者で書籍「成長の限界」の著者のひとりでもある、ドネラ・メドウズは、システム原型を、「システム・トラップ(システムの罠)」と呼びましたが、私たちはシステムの特性を十分に理解していないためにしばしばシステム原型にあるような状況に陥ります。システム原型を習得することによっ て、罠に陥った状況を、構造のレベルから診断することができます。システム原型は、罠から抜け出すのに有効なツールなのです。

システム原型の最善の活用法は、システムの罠を予見し、そもそもそのような状況に陥らないことです。組織や社会などのシステムを適切にデザインすることで、私たちが陥りやすいシステムの罠から自分たちを解放し、みなが利益を享受できる大きな「チャンス」を創り出すことができます。

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