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「ピーク・オイル」―デニス・メドウズ氏に聞く(1)

2006年03月26日

「ピークオイル」はいつ来るか

システム思考の第一人者であり、『成長の限界』の著者のデニス・メドウズ氏が今もっとも注視しているグローバル規模の課題は「ピーク・オイル」です。日本ではまだなじみが薄い言葉ですが、アメリカでは経済界の重要なトピックスとして最近注目を集めています。今回、メドウズ氏の知見を得て、ピーク・オイルの概要をシステム思考的な観点から紹介します。

ピーク・オイル(peak oil)とは、「peak of oil production」、つまり 原油の生産量がピーク(最高点)に達することを指します。このピークを過ぎると、その後の原油生産量は減少に向かいます。

一方で、世界的に原油の消費は増加傾向にあり、今後も人口増加と経済発展の結果、需要の大きな増大が予測されています。消費が増加し、生産が減少に向かうと、どういう事態が起こるのでしょうか? 価格の高騰です。現在、原油価格は1バレル60ドル台半ばで推移していますが、近い将来には200ドルにもなるのではないか、と言われているのです。

この「ピーク・オイルはいつ来るか」が、この1年半ほど、アメリカで大きな議論になっています。せいぜい孫の時代だろうと思われていたピーク・オイルが、今まさに到来しつつあるという説が有力となってきたからです。特にこの半年間は、経済の専門家にとどまらず、一般世論やビジネスの議論の中でも大きく取り上げられています。

向こう30年の間に、ピーク・オイルは訪れる

1956年に地球物理学者のM・キング・ハバートは、世界中の油田を調査し、原油に関する知識と経験をもとに、「アメリカの原油生産のピークは1970年頃に到来する」という予測を示しました。当時のアメリカはまだ、世界最大の原油産出国でしたから、経済界はその予測を笑い飛ばしました。

しかし、実際にはほぼ予測どおりの1971年に、アメリカの原油生産はピークを迎えます。それ以降、アメリカの原油生産量は減少を続け、アラスカの油田を加えることで一時的に下げ止まったものの、すぐにふたたび減少に転じました。(図1)この国内の原油生産のピークを過ぎた後も、国内原油消費量は増え続け、アメリカは世界最大の原油輸入国となっていったのでした。

図1:アメリカの原油生産量(1890-2000年)
3.11US oil ED.jpg
(出典:メドウズ、他『Limits to Growth: 30 Years Update』)

米プリンストン大学の地質学者ケネス・デフェーイェスは、師であるハバートの手法を用いて世界のピーク・オイルを計算し、2005年頃に世界の原油生産はピークに達するとの予測を示しています。(図2)ピーク・オイルは、もともと地球にあった原油埋蔵量の半分を使い切ったときに訪れると言われています。半分残っていると言っても、残り半分の資源を発見し、生産するにはとてもコストがかかるため、生産量は減少に向かうのです。

世界のピーク・オイルが到来する時期に関しては、未発見の原油埋蔵量がどれくらいあるかの推定によって、楽観的なものから悲観的なものまでさまざまな予測があります。しかし、どの予測をとっても、予測時期の違いは20-30年の幅に過ぎません。つまり、向こう30年間の間には確実にピーク・オイルが訪れるということです。そして、ピーク・オイルは30年後ではなく、すでに今起こっているという説もあり、その説を裏付ける多くの事実が注目されています。

図2:世界の原油生産量(1850-2050年)
3.12 Global Oil.jpg
(出典:メドウズ、他『Limits to Growth: 30 Years Update』)

オイルショックがなければ、ピークオイルは起こっていた

まず、地域別に原油生産量を見ると、アメリカのみならず、中東と旧ソ連以外の地域でも1997年までに原油生産量のピークを過ぎています。中東と旧ソ連は現在原油生産量の4割、既知の原油埋蔵量の約3分の2を占めているのですが、旧ソ連の原油生産のピークはこの10年のうちに来ると考えられています。中東のみがそれ以降も生産量を持続できると見られていますが、それでもその他の地域の生産の落ち込みはとてもカバーしきれません。

また、新しく発見される原油の量はどうでしょうか? 実は、世界の原油の年間発見量は、1964年にすでにピークを迎えています。そして80年代から、消費量が毎年新たに発見される埋蔵量を上回っており、現在では4バレル消費する間にわずか1バレルしか発見されていない状況です。

一般に発見される資源量がピークを迎えておおむね20年から40年後に、その資源生産のピークが来るといわれています。アメリカの原油は、1940年代から50年代にかけて発見のピークを迎え、1971年に生産のピークとなりました。

世界の原油にあてはめれば、仮にオイルショックによる消費の減少が起こらなかったならば、とっくにピーク・オイルが起こっていたことでしょう。世界はそのピークを今まさに迎えつつあると考えられているのです。

もう一つ、重要な事実は、原油の発見コストと生産コストが急増していることです。すでに、商業的に生産可能な原油の

エネルギー当たりの生産量が減少

9割が発見されているといわれます。仮に未発見の原油が予想以上に残っていたとしても、その発見と生産にかかるコストが高くなりすぎると、誰も開発しようとはしなくなるでしょう。

かつてアメリカでは、1バレル相当のエネルギーを使って、100バレルの原油を生産することができました。しかし、現在では、アラスカなどアクセスしにくいところで生産するため、同じ1バレル相当のエネルギーを投入しても、15バレルの原油しか生産できないのです。アメリカ以外の地域も、まったく同じ状況にあります。

このような重要な事実があるにもかかわらず、なぜ今までピーク・オイルの到来は看過されてきたのでしょうか。次号では、システム・ダイナミクスのモデルを用いたメドウズ氏の説明を紹介しましょう。

(続く...)


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