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「ピーク・オイル」―デニス・メドウズ氏に聞く(2)

2006年04月11日

ピークを過ぎる=原油の生産量が減り始める

前回に引き続き、ピーク・オイルに関するデニス・メドウズ氏の知見をレポートします。ピーク・オイルとは、原油生産量がピークに達することです。その時期については2005年とも、2035年ともいわれていますが、ほとんどの産油国での生産の減少や、新たな油田発見の減速、発見・生産コストの上昇といった最近の状況から、もっと間近に迫っているとの見方が有力となりつつあります。

ピークを過ぎるということは、原油の生産量が減り始めるということです。一方で、原油の消費量はこれまで年率3.5%で増え続けており、今後もなお経済の成長に従って、エネルギー消費量は大きく増大すると見込まれています。ピーク・オイル後の需給バランスの崩れは、エネルギーやさまざまな商品の供給不足、価格の高騰、経済成長の減速にはじまり、債務国の債務増大、貧困層の食糧不足など、世界の政治、経済、そして人々の暮らしにも多大な影響を与えることは想像に難くありません。

これほど重大な事態がなぜ今まで看過されてきたのでしょうか。メドウズ氏は、システム・ダイナミクスのモデルを使い、以下のように説明しています。(図3)

図3:石油の生産に関するシステム思考モデル

peak_oil_chart_3.gif

(デニス・メドウズ氏作成)

原油は増えるのか?

まず、もっとも大きな混乱の要因となっているのは、「埋蔵量」と「可採年数」の定義です。石油業界や産油国は、原油の確認埋蔵量を公表しています。確認埋蔵量を直近の年間生産量で割ったものが「可採年数」です。1970年末時点での可採年数は、32年でした。2004年末時点では40年となっています。生産量もこの35年間増えていますので、確認埋蔵量自体が増えているということです。しかし、果たして原油は増えるものなのでしょうか?

残念ながら、もともと地球に存在している原油の埋蔵量は増えることはありません。原油が生成されるまでには、数千万年から数億年の時間がかかるので、数千年の人類の歴史から見れば有意に増えることはない再生不可能な資源なのです。

つまり、産油国や石油業界の公表する「確認埋蔵量」は増えることはあっても、それに未だ発見されていない原油である「原油の未発見埋蔵量」を足し合わせた"真の埋蔵量"は、確実に減っているのです。にもかかわらず、数字として計算しやすい「原油の確認埋蔵量」のみをもって可採年数を測っているため、多くの人が埋蔵量を誤解して捉えています。

しかも、産油国の公表する埋蔵量は、誰のチェックも受けない自己申告の数字です。したがって、業界団体や専門誌の報告する数字は、それぞれの国の自己報告の集計となるのですが、この数字の信憑性の問題が指摘されています。産油国にとって、埋蔵量を多く報告することは、他の産油国との競走や生産の割り当て上、有利になることが多いためです。

市場メカニズム、技術の面から

私たちの経済が拠ってたつ市場メカニズムも、本来働くべき方向には機能していません。これほど不確実な数字にもかかわらず、市場はこの確認埋蔵量をもとにして、原油の価格を設定します。原油の未発見埋蔵量は考慮に入れていないのです。原油価格を決める大きな要因の一つは、需給のバランス、とりわけ確認埋蔵量の平均消費量に対する比率です。しかし、この比率も、上述のとおり真の埋蔵量とはまったく無関係です。確実に埋蔵量が減少しているにもかかわらず、その事実は市場にはまったくフィードバックされないままに、市場での価格が決定されているのです。

しかも、原油の価格は、多くの補助金によって現実以上に低く抑えられており、また産油国間の国際競争によって、資源の現状とはまったく関係なく価格が設定されるため、つい最近まではきわめて安価に取引をされていました。さらに、その資源をめぐる戦争や軍事、人体や環境への悪影響など、さまざまな外部コストがかかっているにもかかわらず、石油は実際のコストよりも大幅に安いコストで供給されています。安価な原油の大量消費は、世界の経済成長の推進力となっているのです。

技術に関してはどうでしょうか? 最近特に進歩したのは、深海での原油探査技術や4Dサイスミックと呼ばれる最新の原油探査システムなどの探査に関する技術です。しかし、めざましい技術の進歩にもかかわらず、発見される原油の量は増えておらず、現在新たに発見される原油量は、原油の消費量の4分の1に過ぎません。有力な地質学者たちは、すでに地球上の原油の90-95%が発見され、ほとんど新たな発見の余地は残っていないと考えています。

図3のモデルの左側の部分は、未発見の原油埋蔵量が減れば減るほど、発見のコストがどんどんと上昇するフィードバックを表しています。石油会社は、原油の売上から得られる利益の一部を新たな原油の発見のために再投資します。同じ投資金額で発見できる原油の量は今後ますます減っていきます。石油会社は、原油価格が高騰し、史上最高の利益を上げているにもかかわらず、探査の予算は増やしておらず、むしろ自社株の大量の買戻しをしています。価格の上昇局面にもかかわらずキャッシュを株の買戻しにあてるということは、探査プロジェクトの採算見通しが悪いと石油会社が判断しているということであり、いかに原油の発見が困難になっているかを如実にあらわしています。

経済成長にブレーキがかかる?

これらの限界にもかかわらず、経済は依然として成長を続け、安いエネルギーを湯水のごとく使い続けています。世界のエネルギー消費量は1950年から2000年までに約3倍、年率3.5%増加しました。国際エネルギー機関(IEA)は2030年には50~67%の増加(年率1.6~1.9%)を予測しています。デンマークのエネルギー省の推定では、2050年には現在の6倍のエネルギーが必要とも言われています。ピーク・オイルが訪れると、生産量は減少傾向に、消費量は増加傾向に向かうことで需給のバランスは大きくシフトすることになります。当然、原油の価格は大幅に上昇するでしょう。

こうして、需給バランスの変化が現れると、市場はようやく調整を始めます。経済ではよく、「価格が上がれば、その商品を生産するためのコストをよりかけられるようになり、それによって供給を増やすことができる」と言われます。しかし、そう簡単にはいきません。上述のように、原油の未発見埋蔵量が減れば減るほど、埋蔵の可能性のある場所へのアクセスはますます難しくなり、発見にかかるコストは急増していくからです。

たとえ、投資が増えても年々の発見量は増加せず、確認埋蔵量が減少してさらに価格を押し上げる状況になります。もし私たちが今後も、これまでと同じように石油を消費し続けると、価格はますます上昇し、さらに多くの投資が原油の発見と生産のための設備投資に向かうことでしょう。このような原油の価格が上昇し、原油への設備投資も増加していくスパイラル状況の問題点は、多くの設備投資が石油資源のために割かれるために、他の生産活動のための設備投資が圧迫されることです。しかも、得られる石油という意味での投資対効果はどんどん縮小していきます。経済の各分野での生産設備投資が減速すれば、経済成長そのものにブレーキがかかることは避けられないでしょう。

では、ピーク・オイルを迎えた後、私たちの生活やビジネスにはどのような影響が生じ、どのように変わってくるのでしょうか? そして私たちはどのような対応ができるのでしょうか? 次回のコラムで詳しく見てみましょう。

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