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システム思考でまちづくりを考える~熊谷青年会議所でのワークショップ続報

2006年06月06日

3月8日のメルマガで様子をご紹介した(社)熊谷青年会議所の「明るく豊かな熊谷を創る行動計画づくり」ワークショップの経過をご紹介します。熊谷青年会議所では、システム思考を身につけ、システム思考の強みを活かしてまちづくりを進めるためのワークショップをおこなっています。前回ご報告した第1回ワークショップの後、再度チェンジ・エージェントの小田がファシリテーターとして参加したワークショップの報告です。

前回のワークショップでは、「望ましい変化を創りだすプロセス」の
ビジョン策定 → 問題診断 → 解決策 → 戦略策定 → 実行
という流れのうち、「ビジョン策定」の部分に取り組みましたが、今回は「問題診断→解決策」の部分に取り組みます。テーマは「つながりを探る」です。

今回のワークショップもまた、ラーニング・ゲームで幕開けです。システム思考の学習は、体験による気づきを促すことに特徴があります。今回は「フープ」というラーニング・ゲームで、社会や組織などの複雑なシステムがどういうものかを体感する目的で行いました。(どんな学びがあるかは、実際に体験していただく際のお楽しみに!)

続けて、各カテゴリーグループの発表です。熊谷青年会議所のメンバーは「自然環境」「人間環境」「地域環境」「教育環境」の4つのカテゴリーグループに分かれて活動しています。前回のワークショップでは、各グループがいくつかの指標を選び、システム思考のツールの1つである時系列変化パターングラフを描きました。その後、宿題でそれぞれの指標について、変化を起こす要素となるものを考えてもらいましたので、今回はまず、各グループの考えた要素、つまりキーワードを発表してもらいました。

たとえば、自然環境グループの場合、「CO2濃度」、「里山」、「ダイオキシン濃度」、「ムサシトミヨ」という4つの指標を決め、それぞれについていくつかのキーワードを選んで発表してくれました。ムサシトミヨというのは、冷たくきれいな湧き水を水源とする小川に生息するトゲウオ科の魚で、今では熊谷市にだけ生息し、埼玉県の天然記念物に指定されています。このムサシトミヨという指標を例にとってみます。「ムサシトミヨが地域の10%の河川に生息するようにしたい」がこのグループのビジョンであり、それにかかわる要素としては、「市民の意識」、「PR活動」、「生態系」、「水質」、「水量」などが挙げられました。

他のグループも、それぞれ指標を選び、その変化の実現にかかわってくる要素を発表してくれました。教育環境にしても、地域環境にしても、そのグループの扱う問題だけを切り離して考えていると本質的な解決にはつながりません。教育環境を考えるなら、経済や社会全体とのつながりを考えていくと、どこに働きかければよいかが見えてくるのでは、とアドバイスしました。

次に、よくある問題解決のアプローチの問題点についてお話しました。ある問題にはさまざまな原因があり、1つひとつの原因について、数多くの要素がたくさん関係して影響を与え合っているのですが、私たちはそのうちの1つの原因だけをとらえて、それにだけ対処する対策を立ててしまいがちです。でも、このような線形のアプローチでは、根本的な問題解決はできません。全体を見て、さまざまな要素をつなぐ関係をみつける必要があるのです。だからこそ、システム思考が有効なのです。

いよいよシステム思考の重要なツールである「ループ図」の説明です。ループ図を描くのに必要となる5つの要素について勉強してもらいます。メンバーは事前にシステム思考ワークショップや勉強会に参加していましたので、ここではおさらいとなりました。

次に、「システムの抵抗を予見する」ということについてお話しました。システムに働きかけるとき、システムの複雑な構造は変化に対して「抵抗」します。そんなときは、今やっていることを「もっと早く」とか、「もっとたくさん」がんばってもうまくいかないのです(問題を悪化させることもあります)。そういうときには、立ち止まって一歩下がり、大局を見て考える必要があります。
・ 今、進めていることがうまくいっていないとしたら、何が足を引っぱっているのだろうか。
・ 目標の指標が望ましい方向へ動き出したとき、どんなことがブレーキになる可能性があるか。
このように抵抗を予見することによって、適切に対処し、広がりのある働きかけを意識して解決策をデザインすることができます。

ここまでお話したところで、グループごとに以下の流れでループ図を描いてもらうグループワークに入りました。
1. ループ図の変数となる要素を書き出す。
2. 各要素間のつながりを見つけて、「自己強化型ループ」を作る。
3. 「バランス型ループ」をみつける。

メンバーが4つのカテゴリーグループに分かれて、模造紙を前に座り、まず付箋紙に変数を次々に書き出す作業に取りかかりました。こちらは各グループを回りながら、変数を書き表す際のポイントを指摘したり、「現実にこの問題を引き起こしている、あるいは悪化させているものは何でしょうか」という質問を投げかけたりして、変数をどんどん書き出してもらいます。変数が出そろったところで、その変数どうしのつながりを考えて付箋紙を並べ換え、ループ図を作っていきます。

重要な要素には、たくさんのつながりがあります。そのつながりが連鎖して元の要素に戻ってくる場合、「ループ」(「フィードバック・ループ」)になるといいます。ループはつながりのパターンによって、「自己強化型」と「バランス型」の2種類に分類されます。世の中にはループは2種類しかありません。複雑なシステムは、この2種類のループがさまざまな組み合わせで構成されていることが多いのです。図を描くことで、さまざまな要素のつながりが作り出す構造を見ることができます。

ワークショップの最後に、各グループにループ図の発表をしてもらいました。
・ アイディアや活動を広げるのに役立つ「望ましいループ」は何か
・ その「望ましいループ」に対して起こりうる「抵抗」となる要因は何か

ループ図① 地域環境:街の安全
CLD_Kumagaya_Safety.gif



ループ図② 人的環境:コミュニケーション
CLD_Kumagaya_Communication.gif



ループ図③ 教育環境:教育
CLD_Kumagaya_Education.gif






ループ図④ 自然環境:ムサシトミヨの生息数
CLD_Kumagaya_Biodiversity.gif


ループ図を描くことは、目の前の解決策に飛びつくのではなく、全体像を考えることに役立ちます。要素のつながりを経て、最初は思ってもいなかったようなつながりもたくさん見えてきました。街の安全を考えるとき、街並みが重要な役割をしていたり、ムサシトミヨの生息は、川の上流や下流の人たちとの暮らしともつながっている、などです。

また、グループ別の作業を進めていたのですが、ほかのグループの課題とのつながりも多く見つかりました。このつながりに着目することで、どのようにすれば各グループの行動が全体として相乗作用を生み出せるかを考えることができます。

次のステップは、システムの構造への働きかけの介入ポイントを考えることです。ループ図に描きき出された要素のつながりは、発想を広げ、より多くの解決策を考えるのに役立ちます。「望ましいループ」をどのように創り出し、また強くすることができるか、そして「望ましくないループ」をどのようにすれば弱めることができるか、さまざまなアイディアを出していきます。

出されたさまざまなアイディアを評価し、絞り込んで具体化すると行動計画となります。次回熊谷に伺う7月にどんな行動計画の発表が聞けるのか、とても楽しみです。

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システム思考のことを、「つながり思考」と言い換えたりしています。今日、多くの都市や郊外ではつながりが希薄になってきています。しかし、一見関係ないように見えても、私たちの社会や自然は、さまざまなつながりがあります。ふだん意識していなかったり、忙しさにとりまぎれて見失ってしまっていることもありますが、こういったつながりは、私たちの暮らしや街を紡いでいる大事なものです。

地域コミュニティの中で、ご近所の人たちや川や里山などの身近な自然、地域の特徴ある文化などとの「つながり」を見つめなおし、もう一度目に見える形にしてつなげなおすことで、さまざまな好循環を生み出すことに成功している街が世界にはたくさんあります。

システム思考は、そういったつながりを見つめなおし、課題の構造的原因や、改善の機会がどこにあるかをグループで話し合う上でとても有効なアプローチです。

あなたの街でも是非、システム思考をひとつの共通言語として、自分たちの街作りや将来の地域について話し合うワークショップを検討してみませんか?

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