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『システム思考とダイナミクス・モデリング会議2006』に参加して(5) システム思考の社会における役割

2006年11月08日

少し間が空きましたが、6月にボストン郊外で行われたクリエイティブ・ラーニング・エクスチェンジ(CLE)主催の「システム思考とダイナミクス・モデリング会議2006」参加報告の最終回です。今回は、より幅広い意味でのシステム思考の社会での役割について、私たちの所感を報告します。

米国だけでなくヨーロッパやアジアから、小学校から高校向けの教育者150人がこの会議に集まります。これらの先生や教育者は、どのようにシステム思考に興味を持ったのでしょうか。尋ねたところ、ほとんどの人がピーター・センゲの『Fifth Discipline(第5の規律)』(邦題『最強組織の法則』)を読んだことがきっかけでした。どの先生も、口々に「目からうろこが落ちた」とこの本を絶賛していました。残念ながら日本語版の『最強組織の法則』は、一部内容が削られているためにビジネスのノウハウ本のような印象を受けますが、原書は、教育者を含め、学習や組織に携わるすべての人にとって、とても啓発的な本なのです。

ピーター・センゲをはじめとするシステム思考家から学んだ欧米の教育者たちは、システム思考と学習する組織の重要性に目覚め、「学校を変えたい」、「生徒たちに学んでほしい」という熱い想いで実践に臨んでいます。このような教育者たちの想いを形にする支援をするために、クリエイティブ・ラーニング・エクスチェンジ(CLE)というネットワークが作られ、それぞれの経験や苦労を共有し、新しい知識や新しいやり方を共に学ぶ場として機能しています。そして、システム思考・システム・ダイナミクスの分野の第一人者がはせ参じて、ボランティアで、時間と知識と情熱を傾けて先生たちの応援をしているのです。

50年前にシステム・ダイナミクスという学問を確立したジェイ・フォレスターは、セミナーの最初から最後まで、びしびしとアドバイスを怠りません。デニス・メドウズは、「Learning by Doing(実践することで学習する)」を標榜に、さまざまなラーニング・ゲームを紹介しました。デニス・メドウズと一緒にラーニング・ゲームを開発しているリンダ・ブース・スウィーニーは、世界の民謡をリサーチし、物語を通じてシステム思考のエッセンスを伝えてくれました。『最強組織の法則』の著者のピーター・センゲ、システム・ダイナミクスのバイブルともいえる『ビジネス・ダイナミクス』の著者ジョン・スターマンらの第一人者の人たちも、基調講演やセッションを持ち、会議を通じ、また昼食や夕食の際にも、参加者たちと熱心にディスカッションしている様子が印象的でした。

その第一人者の一人、ピーター・センゲ氏に近況について詳しく聞いてみました。昨年『Presence』(邦書『出現する未来』)という本を他の3人の著者ともに書いた後、今年になって『Fifth Discipline』の第2版を出版しました。

『Presence』は、いかに組織や社会で深遠な変化を創り出すことができるかをテーマに書かれた本です。深遠な変化のプロセスは、「Uプロセス」の「感じる」、「出現する」、「実現する」の3つのステージからなるとして、アパルトヘイト後の南アフリカでの民族融和や、ドイツでの医療改革など、個人や社会の深遠な変化の事例を多く紹介しています。

もともとビジネスの世界で活躍してきたピーター・センゲは、最近、企業の社会の中での役割、あり方について、経営者たちと一緒に考える活動を多く行っています。私たちチェンジ・エージェントが日本で実践している分野と重なるので、とても興味深く意見交換を行い、ピーターも「今後ぜひコラボレーションしていこう」と約束してくれました。

ピーター・センゲ氏は、欧米だけでなく、中国でも数多くの招聘を受けて精力的に活動しています。中国では、システム思考や学習する組織がこれからの企業にとってなくてはならないとの認識が強くあるからです。

このままでは、日本はグローバル経済の中で、欧米や中国に取り残されかねない―そんな危惧を抱きながら、日本での組織や教育の現場におけるシステム思考の普及への使命感を新たにし、会議を終えたのでした。

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