News & Columns
「連休なので遊びに行った。しかし、車で出かけたらものすごい渋滞で、家に帰りついたのが真夜中になった。」
「出張の経費を使わないとほかの人に使われてしまって損する。そう思ってどんどん使っていたら、年度の終わりには経費予算が残っておらず、肝心な出張ができなくなった。」
「社会保障がとても厚く、働かなくても何とか食べていけるので、職につかなかった。しかし、国の財政は圧迫され、社会保障のプログラムは成り立たなくなってしまった。」
「豊かな牧草地があると聞いて、羊を連れてきて放牧した。こうしてたくさんの羊が集まったが、羊は牧草地を食べ尽くしてしまい、翌年何も生えてこなかった。やがて、すべての牧草地が不毛の地となっていき、羊を育てることができなくなった。」
みなさんもこのようなことを、見聞きしたり、経験したりしたことはないでしょうか。ここに挙げたのは、個人、職場、社会、環境という、異なる4つの分野の問題を紹介しました。しかし、これらの問題には共通点が多く見られます。みなさんはどんな共通点を見つけましたか?
パターンは、構造から生み出されます。上記の例からもわかるように、構造には分野にかかわらず共通して見られるパターンがあります。システム思考では、これらの共通のパターンを「システム原型」と呼んでいます。システム原型は、構造を見抜く上でも、そのような構造を陥ることを避けたり、陥った場合に抜け出したりする上で、とても強力なツールです。
システム原型はどのように生まれてきたのでしょうか? システム・ダイナミクスとシステム思考が社会科学の分野で使われるようになって、あらゆる分野での問題や課題の分析が行われてきました。最初は、ビジネスでの問題解決や組織方針の策定のために使われ、その後、都市政策、環境問題、エネルギー問題、経済開発、まちづくり、教育・育児などさまざまな分野に応用範囲を広げています。社会だけでなくもっと身近な個人のレベルでも活用されています。(私たちは、自分の習慣を見直し、自分自身の成長のためにシステム思考を活用するワークショップも開催しています。)
さまざまな問題が、パターンとしてグラフとなって視覚化され、一見複雑な問題の構造もループ図に表すことで、どのようなダイナミクスを生み出しているかを理解できるようになります。こうして、あらゆる分野の問題についての時系列変化パターングラフとループ図が蓄積されていきました。
分野横断的・システム的に問題分析を重ねたドネラ・メドウズは、取り扱うシステムの分野や規模に関わらず、たびたび出現する共通のパターンとその構造があることに気づきました。そのほとんどは、システムの特性を理解しないままにとられる私たちのありがちな行動によって引き起こされています。
彼女はそれらの共通するパターンと構造を、「システム原型」と呼び、私たちが問題解決の際に陥りがちなパターンと構造をまとめていきました。このように類型化することによって、問題を引き起こしている構造は何か、どのようにすれば解決の糸口を見出せるか、などについて、ほかの分野でのシステムの洞察を、活かすことができるからです。
このシステム原型を、ビジネスの文脈にまとめなおしたのが、学習する組織の第一人者で知られるピーター・センゲらです。ピーター・センゲは1990年に刊行した『The Fifth Discipline』でシステム思考を紹介しています。原書の中で紹介されているのは次の10の原型です。(原型名称はチェンジ・エージェント訳出による)
「遅れのある調整」
「成長の限界」
「問題のすり替わり」
「外部者への依存」
「ずり落ちる目標」
「エスカレート」
「強者はますます強く」
「共有地の悲劇」
「うまくいかない解決策」
「卵かニワトリか」
私たちは、ドネラ・メドウズのオリジナルの原型や、デニス・メドウズからの聞き取りによって19の原型に整理しています。いくつかの基本となる原型を理解すれば十分に役に立ちます。ほかの原型はその組み合わせや応用が多いからです。
次回、冒頭の事例に関するシステム原型を紹介します。みなさんはどの原型だと思いますか?