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メールマガジン「クリエイジ」にビジネス書の書評が掲載されました

2008年03月07日

【メールマガジン掲載情報】

○メールマガジン「クリエイジ」第181号 2008年1月15日

*** *** ここより掲載文です(全文) *** ***

目次
1.ビジネス書「シンクロニシティ」書評
[編集後記]

1.ビジネス書「シンクロニシティ」書評 小田理一郎

  「シンクロニシティ-未来をつくるリーダーシップ
  ジョセフ・ジャウォースキー著 野津 智子訳
  英治出版 2007年10月

 最近、経営トップが自らの体験をもとに自分自身の言葉で、ビジョンや理念を語る「ストーリーテリング」という手法が盛んに見られます。ハリウッドの脚本にしたてて、主人公が困難に面しながら成長を遂げていくなどの原型がよく使われています(参考:キャンベル『千の顔をもつ英雄』)。言葉だけでは理解しにくい理念などについて、その意味を咀嚼し、広く浸透・共有化を図る上で有効な手法だからです。

 本書『シンクロニシティ』では、著者ジョセフ・ジャウォースキーが自らの人生を通じて、真のリーダーシップを追い求め、自らの人間性を磨きながら、リーダーシップ養成のための機関とプログラムを開発していくストーリーが描かれています。これからの経営に必要となるリーダーシップ論を小説仕立ての読みやすさで紹介してくれる良書です。

 あらかじめお断りすると、主人公である著者を「いけすかない」と見る読者も日本人には多いことでしょう。アメリカの著名な法律家の息子であり、また、自らも優秀な弁護士、ビジネスパーソンとして若くから成功を収めた著者ですが、一見成功に見える半生は矛盾を抱えるアメリカエリートのライフスタイルの典型とも見えるからです。しかし、本書はリーダーシップを一緒に本質的に考えるための書であり、それを伝える手段として自らの人生の浮沈をさらけ出した勇気を評者としては讃えたいと思います。

 リーダーシップのあるべき姿の骨格にあるのは、グリーンリーフの「サーバント型リーダーシップ」、センゲの「学習する組織」(参考:センゲ『フィールドブック学習する組織「5つの能力」』)、ボームの『全体性と内蔵秩序』に象徴される「ニューサイエンス理論」などです。また、「シナリオプラニング」や「ストーリーテリング」などの新しい戦略策定や組織開発の手法も紹介されています。

 ビジネススクールなどで教えられてきたリーダーシップ論は、古いサイエンスの考え方に基づき、その起源はニュートンとデカルトに遡ります。ものごとを原子のレベルで見ると1+1は常に2であり、個別の要素について法則性を見つけることで論理的に積み重ねて物事が語られます。マーケティング、財務、組織論、統計的分析など科目を分けて、それらを積み重ねればすべてが整理できるかのような錯覚に陥ってしまいます。

 しかし、私たちが経験的に知るように、実験室を離れた実社会では1+1は2になりません。「+」のあり方次第で、1+1が無限大の力を作り出すこともあれば、ゼロになることすらあります。ただし、現実に昨今の組織に多く見られるのはむしろ後者でしょう。社会の営みを分業化・専門化し、また職種を切り分け、教育も切り刻んできた結果、今日の組織や経済システムはほとんどが要素還元型のデザインに基づいています。

 要素還元型の分業化、機能特化したシステムデザインは、それぞれの要素の効率を高めることを主眼においています。しかし、組織における個別最適化は、せいぜい短期的な成果にとどまり、長期的には組織全体の効率を悪化させています。それだけでなく、短期的な視野のために、組織の競争力の源泉となる知的・人的・社会的資本の蓄積とレジリエンス(しなやかさ)を犠牲とした結果、やがて競争力を失い、組織の寿命を縮めているケースが多く見られます。

 組織の枠の外まで視野を広げるならば、経済理論の主張むなしく、個別最適化が全体最適化につながることはきわめてまれな事象にとどまっています。行き過ぎたまでの分断化と個別最適化が、いじめや自殺、差別と経済格差、世界の貧困・飢餓、そして地球温暖化や生態系の危機など、現代社会のさまざまな病的症状の根本原因ともいえるでしょう。

 これに対して、ジャウォースキーが見出す新しいリーダーシップ論は、まさに全体最適化を起点として考えるものです。著者と物理学者であるボームとの対話を通じて解説されるニューサイエンス理論がその大きなヒントを与えてくれます。原子からさらに小さい量子や素粒子のレベルでものごとを見た場合、そこにある内蔵秩序は全体性の影響を深く受け、また、個々の要素がどのように内蔵秩序を捉えるかが全体性に大きな影響を与えているのです。

 このニューサイエンスの知見は、組織においてもおおいに役立ちます。組織メンバーのそれぞれの内面まで深く掘り下げてみた場合、個々の、メンバーは互いに、そして全体としての組織や、社会、生態系との「つながり」の強さと質が大きくパフォーマンスに影響を与えます。

 このつながりを見出すために、「システム思考」や「ダイアログ」などのさまざまな方法論を活用し、成果をあげているのがセンゲらの提唱する「学習する組織」です。そして、学習する組織の趣旨を正しく理解し、成功裏に導入するにはリーダーシップの役割の大きな転換が必要となるのです。つまり、学習する組織や、全体最適化を図る組織構築に必要となるマネジャーのパラダイムが大きく異なるからです。

 古いマネジメントのパラダイムでは、トップが少数のエリートと共に練り上げた戦略を組織に伝え、実行させて、結果のモニタリングとコントロールを行いながら、思惑と違う場合には組織に学習をさせます。ボス型、つまり「Do型のリーダーシップ」であるといえるでしょう。リストラクチャリング、リエンジニアリングといったマネジメント用語自体が、組織と人を機械と歯車のようにしか見ていない思想から生じています。しかし、このようなアプローチでは外発的な動機と自己防衛・他責に満ちた組織にしかなりえません。

 ニューサイエンスのマネジメントで問われるのは、組織システムと向き合い、語り、対話しながら、内発的動機と自律を促す「Be型のリーダーシップ」が必要です。組織も人も、生き物であり、その動きは複雑で予測不能です。しかし、組織内外で互いに尊敬と信頼する関係をつくり、心の中で共鳴しあう理念とビジョンと現実の全体像が共有されたとき、人々は単なる要素の集合体以上の目覚しい成果を生み始めます。このようなシステムのパフォーマンスは、リーダーの心の状態によって大きく左右されます。

 そういった最新の科学の知見やマネジメントの実践を踏まえれば、「シンクロニシティ」(共時性)も単なる偶然ではなく、デザインされた中で起こるものであることが読み解けるでしょう。

 著者のリーダーシップの旅は39歳で始まっていますが、この本はこれから人生の正午を迎える方と、すでに人生の午後を迎えながらまだ迷いのある方々に是非お勧めします。組織デザインに悩まれる経営者にも是非読んでほしいと思います。監修をした金井壽宏氏の解説もとてもわかりやすく、またリーダーシップ論の背景が読み解けるので最後まで読むことをお勧めします。なお、ジョセフ・ジャウォースキーの他の著書に、センゲ他との共著で『出現する未来』があります。

 ところで、私が人生で感銘を受けた本は、諸葛亮孔明『誡子書』、ドネラ・メドウズ『Global Citizens』、ピーター・センゲ『The Fifth Discipline 2nd Edition』の3冊ですが、邦訳されてはいません。それらの本の意図するところは、この『シンクロニシティ』に部分的に描かれています。

*** *** 以上が掲載文(全文)です *** ***

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