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GNHの国、ブータンを訪ねて

2008年12月15日

先月下旬、ブータンという国を訪ねました。第4回GNH国際会議に参加するためです。ブータンにとってはとても重要な位置づけの国際会議で、初日は首相が開会のスピーチをされました。また3日目には王宮を訪ねて第5代国王と謁見する機会もえました。ブータンの人たちは質素ですが、とても親切で、思いやりにあふれ、国土は美しい自然に恵まれています。まるで、40~50年前の日本のよいところがそのまま残っているような国なのではないかと思いながら、すがすがしい時を過ごしました。

戦後、先進諸国はGNP(Gross National Products)またはGDP(Gross Domestic Products)と派生する経済指標群をもって、国の経済の動向を測り、その成長率を国政の目標の柱に据えてきました。今も、世界のGDP成長が減速したと大騒ぎで、「景気対策」の話ばかりになっています。

しかし、やみくもにお金を投入すれば、私たちの生活がよくなるのか、こころもとありません。日本では、最近の景気後退までは、ここ数年史上最長の好景気だったというのですが、それが生活の質の向上や幸せにつながっているという実感はほとんどなかったのではないでしょうか?

実は、GNPに基づく経済運営の問題点は早くから指摘されていました。故ロバート・ケネディ元米大統領候補は、GNPには中毒物質、交通事故、犯罪、環境汚染、環境破壊、戦争兵器や武器などが含まれるのに、健康、教育の質、楽しさ、美しさ、知恵、勇気、誠実さ、慈悲深さなどは含まれず、要は私たちの「生きがい」につながるものがすっぽり抜け落ちていると指摘しました。

実際、研究では日本でもアメリカでもイギリスでも、負の側面に流れるお金を差し引くと、経済はこの30~40年まったく成長していないと報告されています。そもそも、GNPを開発したサイモン・クズネッツ自身が、GNP(GDP)は国の経済の善し悪しを測る指標としては適さないと断じているのです。

その問題に早くから気づいたブータンの第4代国王は、1976年、近代化政策の舵取りを進めるにあたって、お金の流れではなく、国民がどれだけ幸福になったかの総量で国の政策の善し悪しを測ろうと提唱したのがGNH(Gross National Happiness;国民総幸福)だったのです。「公正な社会経済発展」に加え、「文化保存」、「自然保護」、そして「よい統治」を柱に据えた政策の下、所得は世界の平均に比べれば低いにもかかわらず、国民の97%が幸せだと答えています。日本で満足しているのは4割ほどの状況とは対照的です。

今回の会議で注目したのは、ブータンだけでなく、OECD、EUおよびその加盟国、あるいは北米の州レベルにおいても、GDPに基づく政策運営には限界があるとして代替指標の開発や政策が進められているということでした。結局、伸びているのはお金のやりとりだけで、私たちの経済の負の面を差し引くと実は成長していないことや、先般の金融危機を予見することにGDP関連指標群は役に立たなかったことなどが背景のようです。

「目的を省みずに、お金が動けばいい」という発想から、「国政も経済も本来、人々の福利や幸せのためにある」と目的を見直し、他の幸せに重要な影響を与える社会や文化、自然も含めて全体像を見ようとするGNHは、日本の国政のみならず、あらゆる組織にとって貴重な教えとなるのではないでしょうか。

企業の文脈で言えば、最近の大きな投資銀行や機関投資家たちは、企業評価にあたって、経済だけでなく、ESG(環境、社会、ガバナンス)を見るようになってきました。GNHの4本柱にそっくりです。そして、「私たちは何のために存在するのか?」「誰の幸せを創り出すのか?」――そんな問いを、トップから全社員にいたるまで常に考え、共有ビジョンを描ける会社こそが、永く存続できるのだろうと思います。

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