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国際システム・ダイナミックス学会報告(1)

2009年08月07日

7月27日から30日まで、米国ニューメキシコ州のアルバカーキーで、第27回システム・ダイナミックス学会にチェンジ・エージェントの小田が参加してきました。今年のシステム・ダイナミックス学会で印象に残った発表やワークショップを、何回かに分けて紹介します。今号では、175もの企業で実施されている経営戦略演習「The Manufacturing Game(生産ゲーム)」についてです。

MITのジェイ・フォレスターがこの分野を開拓して以来、システム・ダイナミックス学会は、マッカーサー・フェロー受賞者のドネラ・メドウズ、日本国際賞受賞者のデニス・メドウズ、「20世紀のビジネス戦略に最も大きな影響を与えた一人」と言われるピーター・センゲなど、数多くのシステム思考家を輩出してきました。

もともとはビジネス分野の景気変動や成長などのダイナミクスを扱っていましたが、国家レベルやグローバルレベルでの大規模な課題も多く扱っています。これは創設者のジェイ・フォレスターがその著書の『インダストリアル・ダイナミックス』で、「(複雑な問題に取り組む努力の必要量は問題の大小に関わらずさほど変わりないのに対して、)ささいな問題を解決しても得るものは少ない。より大きな成功を導く経営方針や組織構造を見出すことを目標とすべきなのだ」と述べていることに由来します。

今回の学会では、現在起こっている経済危機、安全保障・テロ問題、地球温暖化対策、国家及びグローバルレベルでのエネルギー政策、米国の医療政策などの発表が目立ちました。次回以降、印象に残った発表をこのメルマガでも報告していきます。

まず今回は、トラブルだらけの工場から「ワールド・クラス」の工場への変化を促すために開発された「The Manufacturing Game(生産ゲーム)」を用いたワークショップをご紹介します。

このゲームはもともと、デュポンの生産サービス担当マネージャーであるウィストン・レデットが、相次ぐ装置トラブルで工場が面した深刻な危機を乗り越え、その成果を他の工場にも広げるために開発されたものです。デュポンでは、このゲームを使って工場の変革を促し、工場の稼働率をめざましく改善して、年間3億5000万ドルもの付加価値を創造しました。(デュポンの事例の詳細は、『なぜあの人の解決策はいつもうまくいくのか』(東洋経済新報社)をご覧ください。)

ウィストン・レデットは、その後ゲームの権利をデュポンから買い取り、独立起業してデュポン以外の企業にもワークショップを実施するようになりました。クライアントは、過去14年間でBP、シェル、エクソンモービル、モンサント、ホンダ米国法人など175社以上に及びます。

このゲームでは、1つの工場につき6人が、生産部門、保守点検部門、管理部門の3つの役割に分かれて、それぞれが人員配置やオペレーション計画について1週間毎に意思決定を行い、長期にわたっていかに工場の累積利益を高めるかを競います。

例えば、生産部門は操業、修理、定期点検、改善活動にどのように人員を配置し、何台の装置を稼働させ、どれくらいの生産高を上げるかを決定します。管理部門は、経理全般を担当するほか、スペア・パーツの在庫を管理し、その週の人員配置を決定します。また、保守点検部門は、人員を修理、定期点検、改善活動の3つの作業に配分し、必要に応じて契約社員を雇います。生産部門の合意を得て、何台定期点検を行うかについての決定も行います。

主要なテーマは、一義的には生産設備装置を操業する企業がしばしば直面するメンテナンスの課題ですが、より大きくは、「工場で働く全ての人がどのような視座で仕事をするか」という従業員の働き方、工場のあり方(ドメイン)についての変革を促すものです。

かつてのデュポンはじめ、多くの工場が経験するのは、問題が発生したら対応する「火消し型/対応型」のドメインです。このありがちなドメインでは、多くの人たちが一生懸命働くのですが、問題が絶えることなく次々と発生していきます。相次ぐ故障トラブルのために多くの人員が割かれ、スペア・パーツの調達コストは増加し、そして生産は注文に見合うことができず多大な機会損失コストを招きます。

ゲームの典型的なセッションでは、参加者たちはまさにこの状況を体感し、当初火消しに追われます。しかし、そこからどうすれば「対応型」のドメインを離れ、計画的に予防保全を実施し、徹底的にトラブルのもととなる「不具合(バグ)」を源流からなくして、「ワールドクラス」のドメインに近づいていくかを体験的に学んでいくのです。

とりわけ重要なのは、ゲーム後の振り返りのセッションです。参加者は、ゲーム実施後に、自らの発言や行動、意思決定について振り返ります。この振り返りを通じて、参加者は自らのメンタルモデルを内省し、メンタルモデルを変容させることで新しい行動パターンを身につけていきます。

例えば、3つの役割に分かれてゲームを開始すると、ほとんどのプレイヤーが自部門の目標達成にばかり目がいって、ほかの部門に対してなかなか協力的にはなれません。しかし、徐々に他部門と協力することで、それが工場全体、ひいては、自部門にとっても大きな恩恵となることを学びます。

もうひとつ典型的な学びは、短期的な利益と長期的な利益のトレードオフについてです。ほとんどのプレイヤーは、長期的には別の行動がよいとわかっていながら、短期的に目標未達になったり、場合によっては損失を増やすことになるため、その行動がとれません。しかし、あらためて振り返って見ると、「毎週、毎月、毎四半期の目標は必ず見合わなければならない」という強いメンタルモデルが、長期的(ゲームでは2~3ヶ月)な成果の阻害要因になっていることがわかります。長期的な成功には、「一度悪くなってからよくなる」V字型のパターンがつきものであることを学びます。

また、このゲームでは、作業員の安全性や環境パフォーマンスの重要性についても学べるようになっています。結局、品質問題、故障、事故、環境問題のいずれをとっても、工場全体が一体感をもって、その原因となる要因や不具合を徹底的に減らし、精度の高いオペレーションを実行するというホリスティックなマネジメントを必要とします。

TQM(総合的品質管理)などのホリスティックなマネジメント手法はなかなか導入が難しいと言われていますが、「The Manufacturing Game」などの経営戦略演習は、その導入段階の障壁を取り除くことに有効な手段であることが、実施した多くの工場の報告からもわかります。

もうひとつ重要なのが、成果の循環です。全社が一丸となって、全体像を俯瞰し、長期的な視野に立って問題解決を進めることで、やがてその大きな成果を享受できます。そのとき、その成果をどのように再投資するかがとても重要な課題です。

コスト最適化ができた時点で投資をやめると、その分利益となって株主に還元され、株価も一時的には上がるでしょう。気をつけなくてはいけないのは、コスト最適化で満足してしまうと、そこで進化が止まり、逆方向に戻る「リバウンド」状態に陥ってしまいがちだということです。このような「コスト最適化メンタリティ」による問題は、デュポンでもなかなか越えられなかったチャレンジです。

もし「ワールド・クラスの工場」を目指すのであれば、さらなる改善のレバレッジを見出し、そこに再投資するべきでしょう。それによって、コスト最適化ではなしえないような、新しい付加価値の創造が可能になります。変化の激しい時代においては、技術革新、高い品質、コスト競争力、信頼性、安全性、サービス、環境・社会パフォーマンスが次々と否応なく求められることとなります。

このゲームに参加することを通じて、「いかに多様な利害関係者への価値創造を希求し、継続的に改善し続けるか」のパラダイムへとシフトできるかが、これからのメーカー工場に課されている課題ではないかとあらためて感じました。

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