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「『変化を創り出す』ということ」(1)「Tempered Radicalへ愛を込めて」

2010年05月31日

(2010年4月に開催したチェンジ・エージェント社5周年記念講演の講演録「『変化を創り出す』ということ~その技、そして思い~」を数回に分けてお届けします。プレゼンテーションのスライドは、こちらからご覧いただけます。)


皆さん、おはようございます。今日は皆さんとお会いできて、とてもうれしいです。

チェンジ・エージェントをつくって5年。その前から、どうやったら変化をつくり出せるのか。そもそも自分をどう変えるかというところから、私はスタートしているのですが、自分も変え、そして周りや、今は社会や環境問題など、ずっと試行錯誤してきた中で―もちろん失敗もたくさんありますし、思うようにならないことも日々たくさんありますけど―、でも、こういう活動を始めて、ほんとによかったなと、毎日思っています。

すごく手応えがあるし、楽しいし、わくわくするし。そして今は、政府でも自治体でも企業でも、NGOでも学生さんでも、同じような「何とか変えたい!」という人たちがすごく増えている。こういう時代に、この変化をつくり出すお手伝いを少しでもできること、チェンジ・エージェントという会社をつくって、そういうお手伝いができることをすごくうれしく思っています。

私たちがこの会社をつくって2年ほどたったあと、ペガサスという国際会議に出ました。ペガサスというのは、アメリカで毎年行われている会議で、世界中のシステム思考の研究者、実践家が何百人も集まる、そういった国際会議です。

日本ではまだ、システム思考そのものが、私たちが会社をつくって一生懸命広げようとしているのが先駆者の1社といわれるぐらいですから、そんなにまだ広がっていませんが、アメリカ、ヨーロッパでは、システム思考の研究者、実践家というのがもうたくさんいて、毎年そういった会議を開いています。

3年前に出たそのペガサスの会議の時に、最初の全体会のプレゼンテーションで、Tempered Radicalという言葉が出てきました。これをテーマに講演してくれた人がいたのです。

最初、言葉を見た時、すごく不思議気がしました。Radicalというのは急進主義者とか、過激派とか、そういう意味なんですよね。Temperというのは、和らげるとか加減するという意味です。なので、そのまま受け取ると、「やわらかい過激派」(?)とか、「手加減した急進派」(?)とか、そんなイメージなんですね。「何のこっちゃ」というふうに思いました。

実は『Tempered Radical』(Debra Meyerson著)という本がアメリカでは出ていて、その研究をしているデブラ・メイヤーソン氏の話だったんですが、とても面白かったので、皆さんにご紹介します。

このTempered Radicalというのはどういう人たちかと言うと、メイヤーソン氏の定義ですが、まず―おそらく皆さんの多くがそうだと思いますが―、企業や組織で働いている人たちです。

そして、職場の環境や、自分の会社のビジネスのやり方に、よい方向への変化をつくり出そうとしている人たちです。外から働きかけをする変化のつくり方もありますが、そうではなくて、組織の中から変えていこう。そういう思いを持った人たちなのです。

こういう人たちは、往々にして、辞めさせられるギリギリのradicalな行動を取ることがある。きっと皆さんの中にも、そういう方がいらっしゃるんじゃないかと思います。極めてradicalな動を取ってクビになったら、元も子もないですよね。組織の中から変えられなくなっちゃいます。なので、ギリギリ辞めさせられないかどうかというぐらいのとこで、いろいろな働きかけを中からしていく。そういう人たちだと言うんですね。

メイヤーソン氏が言うには、「変化をつくり出すには2つのやり方があります」。1つは、変化というのは、計画されてきちんとプログラムに沿ってやっていくものだという考え方。そういった変化は、戦略とかプログラムとか、トップダウン式で、上の人が、「こういう変化をつくろう。だからこういうふうなやり方をやるぞ」と、トップダウンでつくる変化。これは企業の中でもときどき見られるものだと思います。

ただ、メイヤーソン氏が言っていたのは、「今見られる変化というのは、もう1つの変化だ」ということです。これは、プログラム化されたり、上から下りてくるのではなくて、もっとオーガニックな、有機的なもので、少しずつ変化をしていくものだと。小さな動きとか、局所的な動きとか、そういった変化をつくりながら、学びながら、次の変化へ続けていく。そんな有機的な変化のつくり方があるんだと。

これはトップダウンではなくて、あちこちに分散された形でのリーダーシップとなります。ですから、「社長が」「幹部が」、ではなくて、○○部の1人の社員がその変化をつくり出す。

実は、それを知ってか知らずか、別の部署でも変化をつくり出す人がいて、それがお互いに学び合ったり影響し合って、組織を少しずつ変えていく。そういった考え方だと言うんですね。Tempered Radicalというのは、この後者のほうの変化のつくり手たちのことを言います。

物事を、例えば会社のやり方とか、もっと働きやすい職場にしたいとか、もしくは、もっと持続可能な方向に合った事業内容にしたいとか、そのように物事を変えようとしつつ、自分の置かれた現状も大事にする。

つまり、先ほども言いましたが、「変えたい」という気持はあっても、それだけで突っ走ってクビになったり、もしくはほかの人に聞いてもらえなくなったり、影響を与えられなくなったら、変化をつくり出せませんよね。なので、あくまで組織の中で変化をつくり出せる影響力を保ちつつ、だけど組織を変えていこうとする。そういった人たちです。

メイヤーソン氏によると、そのTempered Radicalさんたちが変化をつくり出すには、5つのステップ、プロセスがありますと。これはおそらく、意識・無意識を問わず、皆さんの中にもやっていらっしゃる方が多いと思います。

1つは、「インフォーマルな構造を変える」こと。一番わかりやすいのは、どういう情報を誰に伝えるかという構造です。なので、たとえば、いろいろなことを、会社でもメールで伝えることがあると思いますが、誰にCCを入れるか。これだけでも結構、インフォーマルな構造が変わるんですね。

ある情報を誰かに伝えるようにしたり、全然、指揮系統とは違う人たちとのいろいろな会をつくっていくとか。

そして2つめは、「組織とか社会の中で小さな動きを見つけて、それを見逃さない」。3つめは、大きく最初から変えるというよりも、自分のいる所で少しずつ交渉して条件を変えていく。

それによって、これが一番大事なことだと、彼女は言っていましたが、4つめに、小さな勝利―「ほら、ちっちゃいけど、ここが変わったよね」というのをつくっていく。そこに重ねる形で、小さな勝利を、小さな変化を組み合わせて、変化のプログラムにしていく。

そして、5つめは、自分たちだけ、自分だけではなくて、社内、社外で連携をつくって、いろいろな所から同時多発的に変化のうねりをつくっていく。こんな感じだと。

今日のプレゼンテーションの内容をいろいろ考えていた時に、おそらく今日来てくださっている多くの方が、Tempered Radicalと呼んでいいかわかりませんが、企業の中で、もしくは組織の中で、もしくは、たとえば自分とか家族とかを念頭に、何とか変化をつくり出そうとしていらっしゃる。そういった方々だと思うので、ぜひこの話をしてみたいなと思いました。

(つづく)

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