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ニーズをシステムの観点から捉える

2011年06月06日

3月11日の東日本大地震で被災されたみなさまに心よりお見舞い申し上げます。
今回は震災から学んでいることをメルマガのあとがきに代えて少し紹介させていただきます。

震災などの緊急時に支援を行う際には、専門機関によって「ニーズ・アセスメント(ニーズ評価)」が行われます。支援ニーズの存在が、支援の実施や内容を決める根幹となるからです。緊急支援の専門機関に関わらせていただいた中で、このニーズとはまさにシステムとして捉えるものだということを実感しました。

まず支援ニーズは、発生からの期間の経過と共に移り替わっていくものです。震災直後であれば、人命救助や緊急医療、さらなるリスク障害要因の除去や緩和などが求められる主要な活動となるでしょう(第一期)。引き続き、水や食料、衣服、シェルター、医療物資やサービスなどが不足し、週替わりのようにさまざまなモノやサービスが必要になってきます(第二期)。そして、より中長期には、失われた生計手段を取り戻し、コミュニティ機能を再生していくなど、回復や復興に関わるニーズを対象とした活動へと移っていきます(第三期)。

この第一期から第三期への移行は、被害の程度や回復の度合い、それぞれどのような資源を有しているかなどによって異なってくるでしょう。ある地域では、第三期に入り始めているかもしれませんが、特に被害の大きかった地域や遠隔の地域では、未だ第二期の初期のような状況であったりする場合もあるでしょう。こうした、時間や地域によって独特のニーズが現れるのは複雑なシステムにはよくあることです。十把一絡げに扱ってしまうと、それぞれの地域の持つ異なるニーズを見失います。

さらに、システムには遅れがつきものです。ある被災地で、「○○が必要」という情報が発信されてから、実際にものが届くまでに数日から数週間の遅れがある場合もあるでしょう。ずっと足りなかった物資が突如山のように押し寄せて、倉庫に眠り処分に困っているといった事態が起こっています。中には、ほかの地域に持って行けば役立つものもあるでしょう。需給のマッチング機能も役に立ちますが、システム的な観点での遅れの対処法は大きく2つあります。まず、リードタイムを極力短くして、スピードアップを図ること、つまり支援ネットワークの資源と協働を充実させることです。そして、もうひとつは、けっしてゼロにはならないリードタイムをはじめから見込んで、「届けられる頃には何が必要か?」と常に一歩先のニーズを考えることです。

別の観点で、ニーズといったときについ私たちが着目しがちなのは、「何がないか」です。例えば、「野菜や肉類がない」「常備薬がない」「なかなか入浴できない」などです。被災当初であれば、今ないものをシステムの外部から輸送したり、提供することが急務になります。しかし、真のニーズを掴む上では、「何がないか」という発想から、「どんな能力を補う必要があるのか」に視点を移す必要があるでしょう。

こうした震災などの外的な強い衝撃が起こる以前は、衣食住・交通・通信から生計手段まで、あらゆるニーズがそれぞれの地域で、程度の差はあれ、充足されていました。つまり、自らニーズを充足する能力や資源を自ら有するのが本来の姿です。それが、地震、津波や放射線の影響などによって、今まで有していた資源や能力が損なわれてしまったわけです。その失った能力の回復にこそ、真のニーズの手がかりがあります。まさに、魚を提供するのではなく、釣り竿を提供する支援が必要です。

さらに、保有する資源や能力からさまざまな「対処戦略」が採られます。例えば、水道がなくなれば、長年使わなかった井戸の水を汲む、裏山のわき水を使う、トイレが使えなくなれば手作りの共同トイレをつくる、などです。実際、被災された方たちは、機転を利かせて実にさまざまな対処戦略をとったとの話を聴きました。特に、人々の団結というのは、コミュニティの持つもっとも有効な対処戦略の一つです

しかし、対処戦略の中には望ましくない不可逆的な影響が出てくる場合もあるでしょう。私たちの体は、水は絶対に必要ですが、食べ物はある程度の期間はとらなくとも、体がエネルギーを保持して一時的に適応できます。しかし、一部の避難所がそうなっているように、水とごはん、菓子パン、カップ麺といった生活を数週間、数ヶ月間も続けるのは健康に対して長期に、不可逆的な大きな影響を与える場合も出てくるでしょう。

また、居所や仕事、生計手段を失った方は数十万人に及ぶといいますが、中には住み慣れた土地を離れたり、近縁の人同士が離れて暮らすことを余儀なくされる方もいます。今まで培った生活の基盤を失うというのは、対処戦略の上でもとりわけダメージが大きなものです。長期間にわたって、不可逆的に自らの資源や能力を失う状況は、もっとも深刻な支援ニーズを有している状況です。

その地域の人達が、再び自らの力でニーズを充足できるようなシステムを取り戻すことが目指す姿です。そして、そのような姿に戻るに当たって、それぞれのコミュニティが「対処戦略や回復のためにその土地や今残っている人達がもつ『あるもの』が何か」「今の対処戦略が中長期に持続可能なものであるかどうか」といった問いが真のニーズを掴む上で重要なポイントです。それらの問いから、地元主導の、自立型の発展のアプローチを展開する上で重要な示唆が生まれてくるからです。

こうした観点までニーズを掘り下げて考えたとき、被災地以外のコミュニティでも、同じように潜在的なニーズを評価することができます。私たちは、震災や大規模な生活インフラの停止に直面したとき、どのような対処戦略を有しているでしょうか? 身を削るしかない対処戦略に依存することなく、衝撃をやり過ごし、回復を早期に図れるような、内外の「対応の多様性」を有しているでしょうか? つまり、システムの用語で言う、「レジリエンス」(外部からの衝撃に耐え、回復あるいは適応するために、自らを創造・再生する能力)を十分有しているかどうかが、あらゆるコミュニティに問われているのではないかと考えています。

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