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システム思考で視点を変えよう(7)「ある日突然のできごと」

2012年04月16日

Rさんのプロジェクトに遅れが出始めました。責任感が強く体育会系のRさんは、ここはふんばりどころと、一生懸命働いて遅れを取り戻そうとしました。何週間にもわたって長時間労働の日々が続き、週に1~2度は徹夜に近い日もありました。

そんなある日、Rさんは突然倒れてしまったのです。病院に担ぎこまれると、「このまま入院しなさい」とお医者さんに言われました。さすがのRさんも、これには観念せざるを得ません。「あんなに身を粉にして働いたのに、なんで思うようにはかどらなかったのだろう?」 仕事の進め方のどこが悪かったのかとRさんは悩んでしまいました。

健康な人は優れた回復力を持っています。一晩がんばったくらいの疲労はすぐに回復し、また元のように働ける人もいるでしょう。しかし、どんなに頑丈な人でも、延々と続く過労にはそうそう耐えられるものではありません。

疲労の蓄積が続き、ティッピング・ポイント(閾値)に到達すると、回復力が急激に低下し始めます。すると、それまでは機能していた疲労回復のバランス型フィードバック・プロセスが失われ、むしろ「疲労の蓄積>体力低下>疲労回復の激減>疲労のさらなる蓄積」という悪循環が働き始めます。

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こうなると、ストレスを吸収できる余地はありませんから、ふとしたことがきっかけで突然の崩壊を迎えやすくなってしまうのです。体力自慢のRさんにとっても、数週間にわたる疲労の蓄積と回復力の低下が、閾値を超えた瞬間、急激に悪化するダイナミクスには勝てませんでした。

衝撃を吸収できる能力をレジリエンスと呼びます。レジリエンスが十分あるかどうかは、ティッピング・ポイントとなる悪循環のスイッチが入るポイントから、どの程度の余裕があるかで決まります。

疲労蓄積の状態が閾値から遠く離れていれば、ちょっとくらいの無理をしても肉体は回復します。しかし、閾値に近い状態では、ちょっと無理をするだけで、悪循環による崩壊を迎えやすくなってしまいます。システムの健全性を保つには、レジリエンスの元となる十分なバッファーが必要です。

レジリエンスは、いざというときの救命ボートや避難階段のようなものです。その価値は平常時にはわかりにくいものですが、レジリエンスを失ってしまうと、いざというときにも救命ボートがなく、船から海へと飛び込まざるを得ない事態になってしまいます。

私たちは、急な変化は気がつきやすいのですが、疲労の蓄積や回復力の低下のような、ゆっくりした変化には気がつきにくいものです。ゆっくりと蓄積するものに注意を向ける一方で、回復・再生する力を十分に残し、いざというときに衝撃を吸収できる余裕をもった状態でいることを心がけたいものです。

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