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システム構造からみる、気候変動と経済社会

2015年10月22日

000764-02.png(photo by Philippe 2009 on flicker)

「自然のバランス型フィードバック機能」への異変

今回は、地球規模での気候変動と経済社会についてシステム的な視点で考えてみましょう。

地球の大気圏の空気の成分は、長い歴史を見てたゆまず調整が続けられています。炭素、酸素、窒素などの基本的な原子の量は変わっていませんが、その化学的な状態を変えながら、海、陸、大気の間を移動しているのです。

たとえば、大気中の二酸化炭素が増えると、二酸化炭素の温室効果によって地球の温度が上昇します。温度が上昇すると植物がさかんに光合成をするなどして陸や海に吸収されます。大気中の二酸化炭素が減れば、今度は温度が減少しますので、植物の吸収は減って二酸化炭素があまり吸収されなくなるのです。ここでは、自然のバランス型フィードバックが二酸化炭素の濃度を調整しています。

実際地球は過去40万年にわたって、二酸化炭素の濃度が180ppmから280ppmの間を行ったりきたりして、濃度の低いときには温度が減少していわゆる氷河期となり、また二酸化炭素の濃度が高いときには温度が上昇して温暖な気候となっていました。

しかし、この自然のフィードバック調整に異変がおき始めています。いわゆる温暖化問題です。2013年9月に発表された、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書でも、気候システムに人が影響を与えていることは明らかだとしたうえで、この影響が世界のほとんどの地域ではっきりと表れていると結論付けています。

気候変動により、現在起こっていることは何か

産業革命以降、人間の経済活動が石炭や石油など化石燃料と言われるエネルギーを燃焼することによって、二酸化炭素が大気へと放出されます。その量が、森や海の自然の吸収できる能力を上回ってしまっているために、もともと地中深くにあった二酸化炭素が次々と大気中へたまり、今では過去40万年の最高を更新する400ppmまで濃度が上がってきました。2014年の平均気温は史上最高を記録しました。エルニーニョ現象をはじめ、気候変動により、平均気温が上がることは、洪水、干ばつ、台風、集中豪雨など極端現象の頻度や度合いを高めるおそれが強く、食料生産の場面においては直接的な被害が多く報告されています。気候変動が、人間社会の生活へと大きな影響を与え始めているのです。

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(図 : 混合層と、バイオマスのCO2の吸収量を上回ると、大気中のCO2の量は増加します。)

元世界銀行のチーフ・エコノミストであるニコラス・スターン氏は、今の温暖化の構造を続けると、今世紀の終わりには気温が産業革命以前に比べ4度以上上昇し、食糧・水・海面上昇・天災・感染症被害などから世界のGDPの5~20%を失い、数十万人が命を失うと試算しています。一方で、経済システムの再構築を行えば、回避するための投資はGDPの1%程度と考えられます。

私たちの文明は、産業革命を迎えて、多くの国では石炭、石油、天然ガスなどのいわゆる化石燃料をエネルギー源として、大量生産やグローバルな移動が可能な社会経済システムを構築しましたが、化石燃料をベースにしたエネルギーシステムは、温暖化問題と、石油および天然ガスの生産量が減少傾向に転じるピーク・減耗問題という2つの大きな問題を引き起こす原因となっているため、転換に迫られています。

新しい経済システムの模索

今日、化石燃料以外で資源供給の問題も、排出物の問題もない、新しいエネルギーを求め、世界の各地では太陽光や風力などの自然エネルギー、省エネルギー化への転換がはじまり、新しい経済システムが生まれつつあります。

しかし、その新しい社会経済システムが、どのようなものになっていくかは、まだはっきりしているとはいえません。長く繁栄するだけのしなやかさを保ちながら、一部の人に偏ることなくたくさんの人々が幸せを享受できるような社会経済システムを構築するには、できるだけの多くの人が共有ビジョンを持って、意見や立場の異なる人たちとの対話を重ねながら、複雑なシステムの問題を解決していく必要があるのは間違いないでしょう。

多様な人種や立場の人で構成される私たちの文明もまた、複雑なシステムであり、こうした未曾有の難題にどのように対処できるか、その進化・真価が問われているときかもしれません。

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