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ユニリーバのサステナビリティ経営事例~リーダーシップ開発と組織学習の活かし方~(2)多国籍企業の4つの貢献

2017年03月31日

多国籍企業ユニリーバ元人事担当取締役アンドレ・ファン・ヘームストラ氏が、ODネットワークジャパン年次大会2016で行った基調講演(ビデオレター)を4回に分けて紹介
します。

ODNJ年次大会2016基調セッション

ユニリーバのサステナビリティ経営事例
~リーダーシップ開発と組織学習の活かし方~


アンドレ・ファン・ヘームストラ氏ビデオレター(全訳)
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多国籍企業の4つの貢献

私の個人的経験では、多国籍企業の貢献は次の4項目にまとめられます。

1つめは、雇用者を生み出すことです。強調したいのは「雇用者」で、「雇用」でなく「雇用者」です。

2つめに、バリューチェーンを通じてそこで操業する中小企業にスキルと技術をシェアすることです。

3つめは、バリューチェーンのサステナビリティ(持続可能性)を管理することです。そして、

4つめに、インテグリティ(言行の一貫性)が役立つと実際に示すことです。

多国籍企業の4つの貢献:①雇用者を生み出す

多国籍企業はしばしば「従業員名簿に載っているのは何人ですか?」と聞かれ、次に雇用の規模が小さすぎることを批判されます。「もっとたくさん雇用できないんですか?」と。これは間違った問いです。

ユニリーバがオックスファムのオランダ支部とインドネシアで行った共同調査から引用しますね。この調査の目的はこの国の貧困にユニリーバが与える影響を評価することでした。調査が示したのは、ユニリーバが3000人を直接雇用の従業員名簿に載せ、さらに食堂や工場の庭の維持管理などで2000人以上を間接的に雇用していることでした。しかし、バリューチェーン全体を見れば、そのチェーンで働いて生活費を得ている人は、常勤者人数(FTE)に換算すると約30万人になることがわかりました。内訳はバリューチェーンの川下の雇用者数が川上よりもやや大目です。

生活を支える給与を創り出すためには、多国籍企業はバリューチェーン内の中小企業のうちに真のリーダーシップを創り出すことに注力しなければなりません。そしてそれに実際に助けられて、中小企業の経営者たちがほんとうに効果的な雇用者になるのです。そしてそれこそが真に息の長い雇用の形につながります。

多国籍企業の4つの貢献:②スキルと技術の共有

多国籍企業の2つめの貢献であるスキルと技術の共有についてです。

中小企業を構築するには、多国籍企業がスキルと知識を惜しみなく共有することが重要です。時に企業は所有権のある知識を伝えるリスクを恐れ、それを他者が自分たちに不利な形で使うのではないかと怖れます。しかし、それは間違いです。ますます効果的になるバリューチェーンを維持運営するほうが、そして消費者に常により安いコストでより良い製品をサービスできることのほうが、もっとずっと重要だと気づくべきです。

スキルは、バリューチェーンのすべての段階で発揮できれば、とても重要な役割を果たします。消費者の要求に応えることにおいてダイナミックにリードし続けるために真に重要なのは、コストと製品パフォーマンスについてつねに改善していくことです。

多国籍企業の4つの貢献:③バリューチェーン全体のサステナビリティの管理

3つめは、多国籍企業が軸となっているバリューチェーン全体を通してサステナビリティを怠りなく管理することです。

ユニリーバとオックスファムオランダ支部の調査はバリューチェーンの両端にあった弱い部分に注目しました。このバリューチェーンは小規模農家に始まり、貧しい消費者で終わっています。

サステナブルなバリューチェーンを確実に維持するとは、バリューチェーンの参加者全員がその貢献によって生活するに十分な給与を稼げるということであり、同時に末端にいる消費者が使えて買うことができる製品を得るということです。

例えば、小規模農家は中間業者から簡単に周縁化されます。中間業者は大きな力を持ち、多国籍企業に対して素晴らしいサービスを提供できますが、供給を担う小規模農家を置き去りにして生きることになるのです。

サプライチェーンの端にいる消費者は、「ピラミッドの底」とも呼ばれる低所得層ですが、自分たちに使いやすく買える形になっていない製品デザインに苦しむことになります。私はピラミッドの底にいた個人的な経験から、ピラミッドの底にいる消費者が自分たちのニーズに合わない製品を突き付けられたのを決して許さない場合があることを深く知っています。一度でも劣悪な製品を提供しただけで彼らを傷つけることとなり、消費者はそれを決して忘れません。私にとって真の教訓となったのは、貧しい人たちは貧しい品質の商品が耐え難いことです。

ですから、ピラミッドの底の消費者とコミュニケーションする能力をマーケティング部門が高めることが大変重要です。彼らはまったく違う言葉を話していることが多いので、それが可能になるように特別な努力を払う必要があるのです。

ヘルナンド・デ・ソト (Hernando De Soto)は『資本の神秘』という素晴らしい著書の中で、スラムを囲む壁の種類について、それがコミュニケーションを実に難しくするということについて、大変説得力のある記述をしています。

ブラジルのユニリーバの例

大変印象的なブラジルのユニリーバの例をお話ししましょう。スラムのすばらしく優秀な子どもたちの採用に成功したのです。高校でとても優秀で、しかし大学に近寄ったことさえないような子たちでしたが、その多くに大学での約5年間の学びを提供しました。その後半には、学びを終えた後も働き続けてもらうという全体構想の下に、週に何時間かユニリーバで働いてもらう予定です。

これは、これまでのところ大変成功した実験で、スラムへの架け橋となる人たちを会社に採用することができたのです。

ブラジルのユニリーバが行っているもう一つの大変興味深い実験は、全マネジャーに、その家族とともに、中流以下の消費者と同じ1週間の予算で暮らしてもらうことです。これによって自分たちの消費者がどのような制限の中にいるか、そしてどのようにコミュニケーションしなくてはならないかが本当によくわかったのです。

サステナビリティへの取り組み事例ー海洋管理協議会

私が個人的に関わったサステナビリティへの取り組みは2つあります。

1つめは「海洋管理協議会」です。当時私はドイツでアイスクリームと冷凍食品の会社を経営していました。1995年、ブレント円柱ブイ(訳注:北海油田の採掘プラットフォーム。深海に廃棄する計画をグリーンピースの反対でシェル石油が断念)の年です。覚えている人はみな、このシェルとの件でグリーンピースの活動がどれほど活発だったかよくおわかりだと思います。この時にグリーンピースは、彼らが次に狙いを定めるプロジェクトの1つが水産資源の枯渇だと宣言したのです。

そして彼らは論理的に大変実用的な結論に達しました。漁業者や政治家と話そうとするのはあまりにも複雑すぎるので、サプライチェーンを下流に向かって水産加工業者を狙うことにしたのです。彼らはちゃんと宿題をこなして、ユニリーバがヨーロッパで首位の水産加工業者であり、中でも最大の水産加工会社は私たちのドイツの会社だということを発見しました――そして気づいた時にはグリーンピースのピストルが私の頭に向けられていたのです。

幸運なことに、私はサイモン・ブライソンという、並外れて優秀なコンサルタントを雇うことができました。日中はコンサルタントですが、夜は実はエコロジーに注力しその領域のリーダーとなっていた人でした。

彼がもたらしたことが正にゲームを先制しました。私たちはドイツ国内で水産資源の枯渇について、公的セクター、アカデミア、漁業者、労働組合、競合他社など多様な立場の人たちを招いて、私たちが直面していた脅威について話し合うダイアログを開始したのです。

そんなある日、サイモン・ブライソンはWWFのマイク・サットンを連れて来ました。マイク・サットンはすでに、サステナブルな森林認証の領域で積極的に活動していた、いわゆる「森林管理協議会」の立ち上げを経験していました。そして彼は、魚でも同じことが「海洋管理協議会」という名前で応用できると強く確信していました。

彼が私を説得するのに30分もかかりませんでした。翌日私は朝一番の飛行機でハンブルグからロッテルダムに飛んで、当時の私の上司アントニー・バーグマンスを説得して、この取り組みに巻き込みました。それが海洋管理協議会の始まりとなったのです。今日海洋管理協議会は非常に効果の高い、成功した認証機関になっています。その結果として、アントニー・バーグマンスはオランダWWFの会長を長年続けています。

サステナビリティへの取り組み事例ーサステナブル・フード・ラボ

私が関わった2つめの取組みが、「サステナブル・フード・ラボ」です。これは2001年にピーター・センゲがバーモント州で開催した「エグゼクティブ・チャンピオン・ワークショップ」ですべてが始まりました。そこで私たちは集い、食物生産への脅威について、また多様なセクターの人々を集めていかに食物の維持可能性を改善できるかを話すことで何ができるのかについて、話し合いました。

ここからサステナブル・フード・ラボが設立されました。この14年間ずっとハル・ハミルトンがリードし、今日のもう一人のスピーカーであるアダム・カヘンが多様なセクターにまたがるダイアログをリードして実に見事な役割を果たしましたが、私にとっては、サステナビリティの領域で大変効果的な解決策を生み出すために多様な立場の人々を集めることについて、初めて体験することばかりでした。

多国籍企業の4つの貢献:④インテグリティの効果の提示

では、多国籍企業ができる貢献の4つめについて話します。インテグリティ(言行の一貫性)は効果があると証明して見せることです。甘い考えに聞こえるかもしれませんが、実際に利益が出るのです。逆に人から人に感染する汚職ほどサステナビリティを破壊するものはまずありません。

バリューチェーンを導く軸、つまり大企業は、岩のごとく堅牢なポリシーを貫く模範例となるべきです。そうすればポリシーは組織全体に貫かれます。そこで働く人たちは、インテグリティの重要さを確信できるようにサポートされねばなりません。またその鍵は、内部告発者が首を失うことなく伝達できるような効果的な内部告発メカニズムを持つことです。

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講演者:アンドレ・ファン・ヘームストラ氏
グローバル・コンパクト・ネットワーク・オランダ会長。ユニリーバ取締役・人事ディレクターを経て、サステナブル・フード・ラボ運営委員などビジネスが関わる向社会的組織での要職を多数歴任。

翻訳者:桑原香苗・小田理一郎

本記事は、アンドレ・ファン・ヘームストラ氏より許可を得て翻訳、掲載しております。
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