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システム思考のプロセス~体験事例から考える~

2018年06月25日

 システム思考は、今ある現実を深く探求する思考法です。そのプロセスは、ループ図を書いて終わりではありません。ループ図を書いてからの対話や内省に価値があります。私自身の例を用いてそのプロセスを紹介します。

 私は幼少期からアレルギー症状に悩まされてきました。アレルギー症状を緩和するために20年以上にわたって飲み薬を服用してきました。しかし、書店で食生活に関する書籍をたまたま発見した事をきっかけに、日常の食生活に注意を払い、改善に取り組んだところ、長年にわたって服用してきた飲み薬を服用しなくても日常生活を送れるようになったのです。

 私の体験を簡単にループ図で表現するとこのようになります。私の場合、アレルギー症状の発生を抑制するための根本治療は食生活の質を改善する事でした。しかし、その根本治療は効果が出るまでに"遅れ"がある事で効果を認識しづらいため、そこに注意を払う事なく、医療機関に通い、薬を服用する事でアレルギー症状を緩和するというバランス型ループを20年以上にわたって回してきました。

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 改めて自分自身を振り返ってみると、対症療法ループの副作用は、「自分が病気を治す」という気持ち、「病気の原因は何だろう?」という探求の気持ちがなくなっていくことだったと思います。それによって、根本治療は私から増々遠のき、長年にわたって医療機関にお世話にならなければ日常生活を送れない状況になっていました。

 ただ、私は以前から心のどこかで食生活の改善が根本治療だという事は薄々認識していました。しかし、なぜそれをしなかったのでしょうか?アレルギー症状はとても苦しいにも関わらず。

 掘り下げて考えてみると対症療法ループを20年以上にわたって回し続ける事で、私は「私の身体は正常ではなく壊れている」という無意識の前提(メンタル・モデル)を抱くようになっていたように思います。その前提が薬への依存を生み、「自分が治す」という問題の当事者としての気持ちを失わせていたような気がしています。

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 その私自身の前提(メンタル・モデル)に光を当てた途端にある事に気づきました。それは、アレルギー症状は私の身体の正常な反応だったのかもしれないという事です。私の食生活に問題があるが故に私の身体は私に「食生活を改善しなさい!」というメッセージを正しく発信してくれていたのかもしれません。しかし、私はその兆候をそのようなメッセージとしては認識せず、私の身体は壊れていると解釈し、薬を服用する事で、その重要なメッセージを抑え込んでいたのだろうと思います。

 「正しい」という字は、一に止まると書きます。つまり、どこで止まるかを知っている事が正しいという事の意味だと聞いたことがあります。私のアレルギー症状は、食生活の乱れに対して、「それ以上はダメだ、止まれ」と教えてくれていたのです。しかし、薬に依存し、問題と自分を切り離す事で食生活の悪化をどこで止めるのかわからなくなっていたのではないかと振り返って思います。

 ここまで書くと、薬を使う対症療法を否定しているような印象を受けるかもしれませんが、それは意図していません。今も私は短期的に症状を抑えるために薬を使う事はありますし、薬のおかげで人と同じような生活を送ることができた事も紛れもない事実です。短期的な解決策は、必要だし重要であり、それを否定する事は自責で自分自身を痛めつける事にしかなりません。問題は、それに依存する事で問題と自分を切り離す事です。私はこの一連のプロセスで私自身の身体というシステムに対する信頼を取り戻しました。

 このようにシステム思考のプロセスは、問題の構造に着目した上で、そこから対話や内省を通じて、その構造への関与を見出す事に価値があります。構造への関与を見出すとは、悪いのは自分だと考える事ではありません。それは人生の手綱を握る事です。それによって、未来を切り拓く力を手にする事が出来ると思います。ループ図は書いて終わりではありません。『学習する組織』が、複雑性を理解する力としてのシステム思考と内省的に対話する力、志を育成する力の三位一体で説明されている意味はここにあると考えています。

(江口潤)

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