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新型コロナウィルスについて考える(2)指数関数的な成長を生み出す構造と抑える構造

新型コロナウィルス(COVID-19)感染で亡くなられた方のご冥福を祈り、また、闘病されている、苦しんでいる、あるいは悲しんでいる方へお見舞い申し上げます。医療や保健、生活インフラのために最前線で働かれる皆様は感謝申し上げ、今つらく不安な気持ちでいる皆様には今の危機を一緒に乗り越えたくエールを送ります。

私は医療・公衆衛生の専門家ではありませんが、システム思考や組織学習の視点から、医療や保健関連の方たちの出している知見、提言についてよりわかりやすく、意思決定者や市民の方たちにコミュニケーションをすることを意図しています。

人の死を数字として扱う不遜をお許し頂きたく、何よりも一人でも多くの救える命を救うためにコラムを書いております。

成長を生み出す構造:指数関数的な成長のエンジンとなる自己強化型フィードバックループ

前回紹介した「指数関数的な成長」は、量の増加がますます増加スピードを高める構造と、その構造を強く働かせる諸条件によって起こります。例えば、人口や個体数では、「人口=>出生数=>人口」といった自己強化型のフィードバックループが働き、この人口の再生産の強さは、人口に占める出産適齢期の女性の比率や一人の女性が産む子どもの数、あるいはそれらに影響を与える諸変数によって決まります。

新型コロナウィルスのような、ヒトからヒトへ飛沫などを通じて直接伝播する感染症の場合、あえて単純化すると、「感染者数=>感染者と未感染者の接触機会=>新規感染=>感染者数」という指数関数的な成長を生み出すエンジンとも言える構造をモデル化できます。このますます感染者数が増える自己強化型ループに、感染を増やす諸条件を付け足すと以下の図のようなモデルになります。

001286-01.png

ここで、矢印は因果関係を示します。紫はウィルスに固有の要因、赤は人間や社会の行動による要因です。報告される感染確認数ではなく実際の「感染者数」としてモデル化しています。また、新型コロナウィルスでは発症前の感染性期間があることに加えて、無症状の割合が高いことから2つに分けました。

このモデル上では、新規の感染に直接影響を与える要因として、「感染性期間」「接触機会」「感染の確率」が影響を与えていることがわかります。つまり、ある感染者は、感染後のある時点から他の人にも感染させる可能性のある「感染性期間」の日数の間、1日あたりどれくらいの回数・時間で未感染者と接触機会を持ち、そして、その1回の接触機会がどれくらいの確率で感染につながるかを掛け合わせが、1日に新規に発生する感染数に影響を与えます。例えば、感染性期間を20日間として、ある一人の感染者が家族、同僚、友人など1日平均で10人・回と会い、1回の接触機会に対して感染の確率が5%だったとしたら、新たに発生する感染の数は
  20日 x 10人・回/日 x 5%/回 = 10人
が見込まれるということです。(この計算では、感染の可能性や症状に気づき、自身を隔離するといった感染拡大防止の行動はまだ考慮していません。)

「新規に感染した人が累積して感染者数を増やし、増加した感染者数はより多くの感染者と非感染者の接触機会を生み出し、それによってより多くの新規感染の発生につながる」という自己強化型のフィードバックループを形成します。言い換えれば、感染者がますます感染者を増やす悪循環が起こり、この相互作用が指数関数的な成長のエンジンとなります。

この指数関数的な成長がどこまで続くかは、一人の感染者が自分以外に何人の感染者を新たに生み出すかによって決まります。この数値が1を超えていると指数関数的な成長が起こり、数値が高ければ高いほど、その成長スピードはより速くなります。

この自己強化型ループの強さにもっとも影響を与える要因が、ウィルスの感染力の強さです。疫学では基本再生産数(R0)と呼ばれ、他の諸変数が初期の条件のままであったときに、一人の感染者から何人の二次感染者が発生するかを示します。季節性インフルエンザのR0は0.9-2.1、SARSの場合、R0は3前後(2-5)と推定されており、新型コロナウィルスの数値の推計が出るまではそちらを想定していました。つまり、一人の感染者から平均で3人の二次感染者が発生することを意味します。最近発表されているモデルでは、新型コロナウィルスの今までの統計データから推定してR0は概ね2-2.5くらいの想定をしているものが多いようです。

この再生産数Rは、いつでもどこでも同じというわけではありません。感染の進行フェーズや個人・社会の行動、取り組みによって、実効的な再生産数Rは変化します。例えば、専門家会議の発表した日本の実効再生産数Rは3月15日時点1を超えていて、その後3月21日から3月30日のデータによる東京都の推計値は1.7でした。「封じ込め」戦略(Rを1未満にする)でなかったとしても、「ピークを下げる」緩和戦略として十分かどうかは医療体制のキャパシティとの兼ね合いで見て、まだ下げが足りない状況であろうことが推察されます。

成長を抑える構造:成長スピードを鈍らせ、減少に向かわせるバランス型フィードバックループ

先ほど、指数関数的な成長のエンジンとなる自己強化型フィードバックループを紹介しましたが、その成長スピードを鈍らせ、あるいは、感染者数を減少に向かわせる構造も存在します。システム思考では、バランス型フィードバックループと呼んでいます。

001286-02.png

図右下部分に「回復者数」「回復期間」「重症化」「死亡者数」「実効致死率」と新たな因果関係の矢印を加えました。赤い矢印は、負の相関を示す因果関係を表す―例:新規の感染が増えると未感染者数は減少する、回復者数が増えると感染者数は減少する。B1、B2、B3と示されている周辺にある矢印のループがバランス型ループです。

一つ目のバランス型フィードバックループ(B1)は、「回復」によるものです。無症状の感染者であれば、ある時点でいつの間にか自然治癒をしていることでしょう。発症している感染者は、軽症であれば自宅やその他の隔離場所(注記:日本では4月3日まで入院でした)で安静にして治癒を待ちます。一部の患者は、重症化し、集中治療室に入ったり、人工呼吸器、人工心肺などによるサポートを必要とし、対症療法を施しながら、最終的に自身でウィルスへの抗体ができれば治癒して回復者となります。WHOによれば発症後、回復まで必要とする期間は症例によって幅がありますが、軽症例で平均2週間、重症から重篤の例で平均3-6週間と既存データから推定しています。4月2日時点で世界の感染確認数1,014,943症例中、26%に相当する212,018症例が回復しています(出典:Worldometers)。

新型コロナウィルスを、他のインフルエンザの流行と単純に同列におけない大きな理由のには、このウィルスに効果的であると認められた治療ワクチンも治療薬もないために治療は対症療法に限られること、また高リスクのある高齢者や医療従事者を護る予防ワクチンが存在しないことなどが上げられます。

感染者が残念ながら治癒できず最終的に死に至る場合が、二つ目のバランス型フィードバックループ(B2)です。感染者は重症化を経て死亡者数を増加させ、感染者数は減少します。致死率がどれくらと見積もるか、特に多くの地域で感染が拡大期にある現時点で見積もるのは難しいものです。(SARSの際も、拡大中は概ね3%と見積もりながら感染終息後には10%前後と報告されています。)新型コロナウィルスについて、WHOは当初2%と見積もっていましたが、3月3日に3.4%の見積もりを示しています。Robert Verity氏らは中国のそれまでの症例致死率(CFR)3.6%前後とするデータに対して諸条件の補正をした症例致死率(CFR)は1.38%前後、さらに症例として報告されていない感染数を見積もって調整した感染症致死率(IFR)は0.66%前後としています。

現在までの調査で、症例の年齢、性別、基礎疾患の有無によって大きく致死率が違うことが報告されており、各国でどれくらい死亡する確率があるかを見積もりをする際には、人口構成によって調整がなされます。ここで疑問が起こるのは、現在の報告された世界の感染確認数に対する死亡数の割合は5%を超え、報告から死亡までの時間の遅れを考慮するとさらに高い数値になること、また、イタリアでは4月2日現在で報告感染総数110,574人に対して死亡13,115人と12%近い割合になっていることです。その理由について、WHOの専門家は、イタリアの高齢者比率が高いことに加えて医療体制のキャパシティを超える患者数の急増があったとの見方を示しています。Tom Fiddaman氏のモデルでは、症例として通院・入院する感染者数に対して、人口構成の調整に加えて、治療を受けた場合の致死率と治療を受けられなかった場合の致死率を分け、後者は前者の10倍に見積もっています。このことは、いわゆる「オーバーシュート(患者の爆発的増加)」あるいは医療体制の崩壊を避けることの重要性につながります。

三つ目のバランス型フィードバックループ(B3)は、感染によって未感染者が減少する飽和ループです。何であれ、物理的なものが永遠に指数関数的な成長をし続けることはありません。必ず何らかの制約が存在するからです。ウィルスがどれだけ成長しようとも、宿主としての未感染の人間が残り少なくなるに従って、感染者と未感染者の接触機会が減少するために、感染は起こりにくくなります。指数関数的な成長を支配する再生産数Rは、未感染者数が減少するに従い数値が下がり始め、新規感染のピークを迎えた後は、Rが1未満となって減少を始めます。新規感染ペースが下回る一方で、遅れてピークを迎える新規回復ペースが上回ると、感染性のある感染者数そのものが減少してさらに減少に向かいます。どれくらいが潜在的な「感染の可能性のある(Susceptible)」未感染者数を構成するかについて、現時点でのシステム的なモデル構築では除外対象となる人口群は見つかっていないように見受けます。つまり、新型コロナウィルスに対して感染者と接触しながらも確率的に絶対にかからないという人は存在しないということです。なお、詳述は避けますが、このモデルでは、回復者が再び未感染者に戻ることは想定していません。

ある意味、感染はいつかは自然に終息するわけですが、人間社会から見たとき、これほど強い感染力をもち、急激に感染者数を増加させる新型コロナウィルスに関して、何も対策をとらず自然に任せるのは望ましいことではありません。それゆえに、私たちは個人としても社会としても対策を早急にとることが望まれます。

下の図表は、Neil Ferguson氏らが行った分析で、3月中旬から現状以上の対策をとらなかった場合にイギリス、アメリカで何が起こりうるかのシミュレーションです。前提は基本再生産数(R0)=2.4、倍増期間=5日間、全体の感染症致死率(IFR)=0.9%として、さらに人口構成毎に入院を必要とする割合、ICU治療を必要とする割合、感染症致死率について下表のような前提をおいて、日付毎に人口10万人あたりどれくらい死者が発生するかのグラフを示しています。その結果、死亡者数のピークを6月に迎え、両国とも人口の81%が感染し、累積の死亡者数はイギリスで51万人、アメリカで220万人と見積もっています。

シミュレーションの前提の一部

年齢群(通常)入院を必要とする割合(%)ICU治療入院を必要とするの割合(%)感染症致死率(IFR)
0 to 90.10%5.00%0.002%
10 to 190.30%5.00%0.006%
20 to 291.20%5.00%0.03%
30 to 393.20%5.00%0.08%
40 to 494.90%6.30%0.15%
50 to 5910.20%12.20%0.60%
60 to 6916.60%27.40%2.20%
70 to 7924.30%43.20%5.10%
80+27.30%70.90%9.30%

(注記:このシミュレーションの目的の一つは、医療体制のキャパシティへの負担度合いを見ることを含むため、症例数の爆発的な増加した場合の入院割合や致死率への悪影響は含まれていない)
(追記:上記の表では、年齢が高くなるにつれて重症化の割合が高まることが読み取れるが、最近の研究から10歳未満に関しては年齢が低くなるほど重症化の割合が高まることが報告された。4/4/2020)

シミュレーションの結果(何も対策をとらないベースライン)

001286-03.png

(出典: Ferguson他"Impact of non-pharmaceutical interventions (NPIs) to reduce COVID-19 mortality and healthcare demand")

この分析の意図は、上記のような何も対策をしなければ起こりうるベースラインに対して、感染を抑え込むためにはどのような働きかけが必要・有効か、また、医療体制のキャパシティの上限を超えないために、いつ、どのように施策を組み合わせるかを論じることです。

次回、日本と世界でとられている働きかけについて、下図のモデルをもとに紹介します。

001286-04.png

(つづく)

執筆:小田理一郎

▼前回の記事はこちら

第1回では、ウィルス感染な指数関数的な成長の傾向とそのスピードがいかに私たちの想像を超えやすいものかを紹介しました。
指数関数的な成長と倍増期間

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