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新型コロナウィルスについて考える(4)社会的距離拡大施策の効果(前半)

新型コロナウィルス(COVID-19)感染で亡くなられた方のご冥福を祈り、また、闘病されている、苦しんでいる、あるいは悲しんでいる方へお見舞い申し上げます。医療や保健、生活インフラのために最前線で働かれる皆様は感謝申し上げ、今つらく不安な気持ちでいる皆様には今の危機を一緒に乗り越えたくエールを送ります。

私は医療・公衆衛生の専門家ではありませんが、システム思考や組織学習の視点から、医療や保健関連の方たちの出している知見、提言についてよりわかりやすく、意思決定者や市民の方たちにコミュニケーションをすることを意図しています。

人の死を数字として扱う不遜をお許し頂きたく、何よりも一人でも多くの救える命を救うためにコラムを書いております。

社会的距離拡大施策の効果(前半)

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ウィルスと人間の相互作用を示すシステム図。紫はウィルス固有の性質、赤は人間の行動関連、黒はその他の要素を表す。矢印は因果関係を表し、青は変化の影響が同じ方向に、赤は変化の影響が逆の方向に現れる。また、矢印に二本線がある場合は、長い時間を必要とすることを表す。緑の要素と矢印が自然の構造への介入(働きかけ、行動変容、施策)を示す。また、因果関係が循環している部位に示されるR、Bはそれぞれ自己強化型フィードバックループ、バランス型フィードバックループを意味する。

前回、感染拡大と抑制の成り行きの構造に対する介入施策として、リスク行動を抑止する「個人の予防行動」、事業者らが行える「リスク環境改善施策」、そして接触回数を下げるための「社会的距離拡大施策」について、国の専門家会議の提言を中心に紹介しました。4月7日、日本でも7都府県で緊急事態宣言が発令されましたが、今回は、社会的距離拡大施策によってどのような効果が、どのようなプロセスで得られるのかについて紹介していきたいと思います。

海外の一部の国で行われている「ロックダウン(都市封鎖)」であれ、外出自粛要請であれ、目的は「感染者と未感染者の接触回数を極力減らす」ことを通じて、新規感染の発生を抑えることです。また、新型コロナウィルスの文脈では、医療機関の対応が必要となる患者数(新患、罹患含む)、入院を必要とする患者数、とりわけ重篤で集中医療を必要とする患者数を減らすことが重要な社会的アウトカムになります。

新規感染者数が、新規の回復・死亡する患者数の合計を上回っている間は、ストックとしての患者数は増え続けます。新規患者数が、新規回復・死亡数を下回って初めて、患者数が減少します。今、社会的距離拡大施策を強化する目的は、各地域の医療機関のキャパシティで対応しきれる範囲内で新規患者発生数と治療を必要とする累積の患者数(罹患患者数)を減らすことにあると言えるでしょう。適切な医療的な介入を行うことは、「重症化」、「回復期間」、「実効致死率」にもインパクトを与えます。蔓延のリスクが高まる今日、一人でも多くの救える命を救う上で、社会的距離拡大施策は上述のシステムモデル上でとても重要な役割を果たします。

 世界各地では、この接触回数を減らす社会的距離拡大施策によって、どれくらいの効果を、どれくらいの期間で挙げられるのでしょうか? 実際に封じ込めあるいは安定化に成功した地域のデータを見ていきましょう。

中国における封じ込め

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図:中国における新型コロナウィルス検査陽性症例のの疫学カーブ(発症日別、2020年2月20日現在)
出典:WHO, "Report of the WHO-China Joint Mission on Coronavirus Disease 2019 (COVID-19)"(赤い□は都市封鎖開始のタイミングを筆者が挿入)

中国政府が武漢(人口1100万人)を封鎖したのは、1月23日(総感染数830人、死者数25人)のことでした。武漢の対応が後手に回る状況に、中央政府が都市全体が検疫状態として外出禁止令が命じ、人の出入りも封鎖しました。その後、湖北州の計17の地域に対して、1月27日までに順次都市封鎖を命じ、5900万人がその対象となりました。このグラフは、私たちがよく目にする報告日ベースではなく、発症日ベースであることに注目ください。都市封鎖の前日までは、指数関数的な成長を見せていた新規患者発生数は、絶対値でこそ4日間ほど微増していますが既存患者数に対する新規の比率は下がり始めて指数関数的な成長は止まり、潜伏期間と重なりますが5日目から新規患者数は下がり始めています。2月1日にスパイクが見られるのは、患者認定の統計の定義を変えたためです。

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図:中国における新型コロナウィルス検査陽性症例のの疫学カーブ(発症日別<青>及び報告日別<朱色>、2020年2月20日現在)
出典:WHO, "Report of the WHO-China Joint Mission on Coronavirus Disease 2019 (COVID-19)" (赤い□と矢印は都市封鎖開始のタイミングを筆者が挿入、また、3つのグラフのうち中国本土のグラフのみ掲載)

上図は、検査で陽性がでた症例のみを対象に、青の発症日ベースのグラフと朱色の報告日ベースのグラフを重ね合わせたものです。施策を打った後、発症日ベースで下がり始めても、報告される感染数はすぐに下がるわけではありません。むしろ、報告日別ベース見る患者数は結果的に見るとまた初期の段階にあったと見えます。発症後に通院して検査を行い結果が出るまでの期間があるためです。ピーク部分を比べると、当時の中国では発症から報告まで8~9日間の遅れがあったと見て取れます。(日本でも、専門家会議の報告では8日間の遅れと分析されていました。)報告日ベースの新規患者発生数ピークは2月4日、都市封鎖が始まってから12日後のことでした。

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図:中国の新型コロナウィルス新規患者発生数と累積患者数(治療中、回復、死亡別、2020年)

出典:中国国家衛生健康委員会(赤い矢印は都市封鎖開始のタイミングを筆者が挿入)

こちらのグラフは、折れ線が新規患者数(目盛り右側)を示し、黄色の棒グラフが累積患者数、青は累積回復数、赤は累積死者数(以上、目盛り左側)を積み上げで示しています。2月4日時点では、まだ回復する患者数は新規発生に比べ少なかったため、感染性をもっているであろう治療中の既存患者数は増加を続けています。しかし、その伸びはもはや指数関数的な成長ではなくなり、少しずつ傾きが緩やかになり始めます。そして、新規患者数と新規回復数がほぼ同じになって、2月17日(58,016人;都市封鎖から25日後)に既存患者数がピークを迎えます。そこからは、新規患者数は加速的に減少を始めます。指数関数的な成長をしているときに働いていた力が、今度は新規感染を抑える方向に、つまり悪循環から好循環の作用へと変わり始めます。

こうして新規感染数は、3月7日頃(都市封鎖から44日後)には極めて低い水準(大半は外国から入国した感染)で推移し、軽症で2週間、中度から重症で3~6週間の遅れを経て、次々と患者が回復をしていき、治療を要する患者の数は4月7日現在1190人まで減少しました。さて、この統計に関しては、途中から除外され始めた検査陽性だが無症状の約4万人と言われる感染者が含まれておらず、実際どれくらいの統計外の患者が残っているか定かでない部分がありますが、医療上の負担を示す症例数が大幅に減っていること、そして、対策を打ってからどれくらいの日数で効果が現れるかを示しています。中国が都市封鎖を発動したのは報告ベースで累積患者数830人、新規患者数257人でした。潜在期間+検査報告期間を足した12日後にはピークの新規患者数は3887人と約15倍に増え、倍増期間がほぼ3日間、再生産数は2-2.5と極めて加速的に成長をしていたことがうかがえます。(但し、途中定義を変えて統計が増えている効果も含まれていますので修正が必要になる分析です。)その背景には、WHOの分析では、都市封鎖が行われる以前に狭い地域に人が密集した病院、介護施設、牢獄などでの集団感染、祭事による感染、加えて極めて多くの家族への二次感染があったと見られています。

世界の感染症対策のインパクト概観

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図:新型コロナウィルス症例数の国別軌道(4月6日現在)
出典: https://aatishb.com/covidtrends/

こちらのグラフは、指数関数的な成長を遂げる感染に対して、どれくらい各国の対策がその成長スピードを抑制する効果を出しているかを見極めるためにつくられたものです。横軸は、報告ベースの感染総数をログスケールで表しています。縦軸は、それぞれの時点での7日間の新規感染数を同じくログスケールで示しています。黒い線が1月29日ないしはそれぞれの地域で5人超の患者数を超えた時点から4月6日までの軌道を国毎に示します。例えばUS(米国)は横軸の感染総数は366千人、縦軸の新規感染数は週あたり204千人であったことを示します。通常、新規感染数は1日あたりで見ますが、このグラフはあえて7日間の"移動合計値"をとることで、グラフの波を平準化してトレンドを追いやすくしています。(最新数値は平均で約3.5日、反転期にはさらに遅れることに留意が必要です。また、倍増期間が7日間を下回り、さらに加速的な指数関数的な成長に入っている国も多くありますが、ログスケールのグラフの仕組み上、こうした加速による悪化を見分けることは難しいことにも注意ください。つまりよい方向に効果を出しているところを見ることに特化しています。)

このグラフを一見してすぐにわかることは、ほとんどの国において、ログスケールで比較した感染総数に対する新規感染数の比率は大半が同じような軌道と傾きをとっています。これが指数関数的な成長の特徴、つまり、新規の増加がそれまでの累積総数に比例するということです。もし、感染症対策をとり、この指数関数的な成長の循環を遅くすることができると、グラフは下に向かってそれていきます。先ほど紹介した中国本土の数値が、100K(10万人)の手前の8万人くらいで成長が遅くなり、新規発生数がログスケールで見ても大幅に下がっているのがわかります。

中国以外では、中国ほど下がり方は急激ではありませんが、韓国、香港、オーストラリア、台湾の軌道が下に向かっているほか、重なって読みにくく恐縮ですが、イタリア、ドイツ、スペイン、イラン、ニュージーランドなどは新規発生数のピークを超えて、累積患者数の伸びが減速に向かっていると言えるでしょう。また、米国、フランス、英国、カナダ、インドなども、それまでの比例の直線から少しずつ下に軌道が向き始めて、新規発生数のピークは起こっているかもうすぐであることがうかがえます。

日本は図中ピンク色の線で示されています。図では読みづらいかもしれませんが、日本は独特の動きを示しています。2月22日から傾きが下がって成長スピードが弱まり、その後2月29日、3月19日に顕著に新規発生のペースが低下します。3月中旬までは実は国際的によく抑制の効いている国の一つでした。しかし、グラフの3月22日データポイントから急激に患者数は加速、ここ10日間ほどは倍増期間7日間ほどの傾きで推移して患者数を伸ばしていきました。他国に比べ、当初こそ成長スピードを緩めて時間稼ぎができていたのですが、3月下旬からは「自粛疲れ」か元の指数関数的な成長のペースに戻っていく様子が現れてきます。

いくつかの代表的な国の、外出禁止例などの社会的距離拡大対策の開始と新規発生数のピークは以下の通りです。

表:国別社会的距離拡大施策の開始日と新規患者発生数ピーク

社会的距離拡大施策日

開始時
総感染数

新規発生ピーク

ピークまで日数

開始した施策

中国

1月23日

830人

2月4日

12日間

都市封鎖

イラン

2月26日

139人

3月30日

33日間

個人の隔離のみ

イタリア

3月8日

7375人

3月21日

13日間

国規模封鎖

ドイツ

3月13日

3675人

3月27日

14日間

学校閉鎖、介護施設アクセス禁止(15日国境閉鎖開始、22日外出禁止例)

スペイン

3月14日

6,391人

3月26日

12日間

国規模封鎖

アメリカ

3月19日

13779人

CA1067人、NY7102人

4月4日

16日間

CA州, その後NY州など外出禁止例・非必須事業の閉鎖

ニュージーランド

3月16日

8人

3月28日

12日間

大規模集会禁止、入国後検疫義務など

(筆者調べ、出所:Wikipedia、Worldometer.info)

※何をもって開始日とするかについては筆者の主観ですので、見直しが必要な場合もでてきます。韓国、台湾、香港などにも関心がありますが、客観的に施策のタイムラインを書いた資料がリサーチが追いつかず現時点では割愛しています。

ファーストカットの分析ですが、概ね効果的な社会的距離拡大施策を行ってから12~13日間で新規患者発生数のピークを迎えるところが多く見られます。しかし、イランのように、社会的距離拡大施策としては効果の弱い施策にとどまったため、新患ピーク到達まで長期にかかったところもあります。また、アメリカはカリフォルニア州が先んじて外出禁止例を始めましたが、ニューヨーク州は1日遅れての発令で、また他の州の患者ののびもあってピークが遅れています。

もう一つの洞察は、概して人数が少ないときに始めるほど効果は大きいと見て取れます。ニュージーランド、台湾、香港は、いずれも日本や他の諸国よりも人口が少ないとは言え、かなり患者数の少ない段階で行動をとり、伸びも抑えられています。迅速な対応が肝心といえども、感染者数が少ないほど経済への影響を不安に考える反対意見の抵抗も強いものでしょう。中国のような実質一党支配の国家ではそれを乗り切りやすかったとも言えるでしょう。それとは対極に、ニュージーランドの民主的な国家にあってのリーダーシップは特筆するものがありそうです。また、表にはまとめていませんが、台湾、香港なども国のリーダーシップ以上にSARSなどを体験している市民のまとまりが強かったことも、少ない患者数で安定化に向かっている秘訣と言えるかもしれません。

なお、治療・入院などを必要とする患者数や死者数のピークは、新規患者発生数のピークを迎えた後に遅れてくるため、未だ患者数が増えている国は多くあります。また、ピークを迎えてもすぐに緩めるのではなく、十分正味患者数や医療体制への負担を下げるまで、しっかりと下げておくことが必要でしょう。また、上述の国別データから、「効果的な施策」を打てば、報告日ベースで効果を確認できるのは2週間弱とわかりましたが、何をもって効果的な施策と言えるのでしょうか。また、多くの国では最初の施策後も追加的な施策を組み合わせて新患発生のピークを迎えました。どのような組み合わせが望ましいのでしょうか?

(つづく)

執筆:小田理一郎

▼前回までの記事はこちら

第1回では、ウィルス感染な指数関数的な成長の傾向とそのスピードがいかに私たちの想像を超えやすいものかを紹介しました。
指数関数的な成長と倍増期間

第2回では、その指数関数的な成長を生み出すシステム的な構造としての自己強化型ループ、そして拡大に対して抑止の働きをもつ回復、死亡、感染の実質飽和という3つのバランス型ループを紹介しました。
指数関数的な成長を生み出す構造と抑える構造

第3回では、市民、事業者、自治体・国政府などの行動変容や施策がどのようにその構造に介入することによって、未来の状態(特にアウトカム)を変えることができるのかについて考えました。
感染拡大と抑止の構造への介入

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