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5月21日発刊!『成長企業が失速するとき、社員に"何"が起きているのか?』

2020年05月21日

『成長企業が失速するとき、社員に"何"が起きているのか?』が本日(2020年5月21日)発刊となりました。

テーマは、組織のカルチャーを変えるためのリーダーシップについて。キーワードとして、「エンゲージメント」「社員の働きがいとエネルギー」や自身のあり方を起点にする「エッセンス・ベース・リーダーシップ」「相互影響」「協働マインドセット」などが挙げられます。リサーチと実践の双方向から書かれたリーダーシップや組織開発の実務書のような位置づけです。
経営層、管理職などのマネジメント関係の方には組織における「リーダーシップ」とは何かを探求頂くために、あるいは、立場にかかわらず変化を創りたい人には、いかに仲間を集め、組織化・自己組織化するかを考えるために、お読み頂けるとよいかと思います。
以下に出版の許可を得ては、本書の"はじめに"を掲載しております。よかったら
ご覧になってみてください。


はじめに

「経営合理化」という言葉は、今やよく知られた言葉である。この言葉は1980年代頃から使われはじめ、特に私たちは、企業役員、研究者、作家として、「経営合理化」という考え方と、それが従業員や社員に及ぼす影響に関心を持ってきた。この「経営合理化」という言葉は当時、主に企業や組織が、その従業員や社員を解雇するときに用いられた。現在は、「人員削減(RIF)」計画という言葉がよく使われるかもしれない。

経営合理化」の後、今度は「チェンジ・マネジメント」という考え方が台頭した。これは、企業や組織を、将来を見据えた姿に生まれ変わらせるためのステップだ。この言葉は1982年にマッキンゼーのコンサルタントであるジュリエン・フィリップスによって、『Human Resource Management』誌で提唱されたのが最初で、その10年ほど経った頃から広く使われている。 

経営合理化やチェンジ・マネジメントに限らず、変化によって何かネガティブな影響が生じたときに、企業や組織の〝エネルギー〟がどうなるのかについては、これまで数多くの研究が行われてきた。本書の著者の一人スティーブは、ハリー・ウッドワードとの共著で『[新版]アフターショック──変化の時代の「痛み」を解決する知恵』(ダイヤモンド社)を著し、変化が従業員に与える影響と余波を明らかにした。同書は、従業員が変化を「喪失」としてとらえることがあると指摘している。そのうえで、従業員が喪失感を伴う変化を体験すると、従業員は組織に対する満足感や忠誠心、所属意識を低下させ、思い入れを持てなくなる──つまり、これから本書でいうところの「エンゲージメントが低下した状態」になる──という。

スティーブとハリーが同書を著した頃は、人々が、自分のパフォーマンス以外の理由で職を失う経験を初めて強いられた時期である。その影響は非常に大きく、多くの組織で、従業員との絆や忠誠心という〝つながり〟が断ち切れてしまうほどだった。

パフォーマンスがよい、業績をあげているということは、もはや、リストラされないことの保証ではなくなったわけだ。従業員からすれば、「会社が自分を大切にしてくれないのに、自分は会社を大切にする必要があるのだろうか?」と、疑問を感じるようになったのも無理はない。

 

1990年代になると、初めて、「エンゲージメント」という言葉が登場する。ウィリアム・カーンは、エンゲージメントを、「組織構成員としての自己をそれぞれの職務に結びつけること」と定義した。
私たちは、当時、さまざまなクライアント企業とともに研究を行うようになり、「変化によって失われた従業員のエネルギーをどう取り戻すか」に焦点を当てていた。従業員のエネルギーを取り戻し、彼らを再び仕事に打ち込ませることが求められていたからだ。しかし、研究が進むにつれて、私たちは、「エンゲージメントに対する真の理解は得られていない」という結論を出さざるをえなかった。

たとえばあるとき、スティーブが、クライアントの1社の経営幹部会議に出席し、同社のエンゲージメント・スコアについてコンサルタント会社の人からの説明を聞く機会があった。そのエンゲージメント・スコアは、コミュニケーション、チームづくり、リーダーへの敬意、支援、承認、能力開発などについて、コンサルタント会社が項目別に同社を評価したもので、そのスコアは良好だった。その結果に対して、同社の経営層も満足しているようだった。
そこでスティーブは、そのコンサルタントにこんな質問をした。
「あなたのいう〝エンゲージメント〟の定義は何ですか?」
するとコンサルタントはこのように答えた。
「これらの調査結果のスコアが高い状態が、エンゲージメントです」
たいへん興味深い回答だ。これで、エンゲージメントの定義を説明したといえるだろうか?
シュミットたちがJournal of Applied Psychology(2002)で、エンゲージメントを「従業員の仕事への没頭、コミットメント、満足」と定義したように、「仕事の満足度」という従来の概念を従業員のエンゲージメントだと受け入れるならば、これも正しいと言えるかもしれない。

しかし私たちは、この定義を受け入れることができない。仕事の満足度とエンゲージメントに相関関係が あるのは間違いないが、
「組織にエンゲージメントがあるかどうかを、どのように判断するべきか?」
「エンゲージメントとはどんなものか?」
という疑問は、解消されていないままだ。
 
本書を手に取られたあなたも、身近な経営者や従業員たちに、「エンゲージメントとは何か、エンゲージメントとはどんなものかを定義してください」と頼んでみよう。すると、「情熱」「全力を尽くす」「幸せである」「丸1日仕事に費やす」「没頭」「積極的な態度」といった言葉が返ってくるだろう。そうしたら今度は、
「エンゲージメントが低いとはどんなものかを定義してください」と頼んでみよう。「情熱がない」「不幸な人たち」「職業倫理がない」「関わりがない」「否定的な態度」といった真逆の表現が返ってくるだろう。
これらは組織の従業員にエンゲージメントがあるか、ないかを的確に定義しているだろうか?同じ人たちに、士気の高さや低さについてたずねたら、おそらく同じ表現が返ってくるのではないだろうか。

彼らが挙げた言葉や表現は、エンゲージメントの「特性」を確かに言い表してはいるだろう。しかし、それらの表現が、エンゲージメントを定義できているかどうかは別問題だ。エンゲージメントは、その定義が正しく理解されているとは言いがたいのが現状である。そこで私たちは、本書を著すにあたり、次の重要な問いにはっきりとした答えを出すことを心がけた。

  • エンゲージメントとは何か?
  • エンゲージメントを最高に引き上げるために望むこと、必要なことを聞かれたら、従業員は何と答えるか?
  • 従業員のエンゲージメントが低下してしまう主な原因は何か?
  • 組織カルチャーのどのような側面が、エンゲージメントの水準に影響を及ぼすか?
  • エンゲージメントを高めるための経営層の役割は何か?

  • どうすれば、「エンゲージメント・カルチャー(エンゲージメントの高い組織カルチャー)」をつくり出
    せるのか?

本書でこれから伝えていくことは、これまで60余年にわたってさまざまな組織と仕事をしてきた経験と蓄積に基づいている。私たちが携わってきたのは、もちろん、リーダーシップ、チェンジ・マネジメント、コミュニケーションの分野だ。
その間、大小の企業の従業員にエンゲージメントに関するアンケート調査を行い、広範な調査を実施した。
それに加え、仕事仲間、企業のリーダー、作家、学者など多くの方々からもご意見をいただいた。これらの取り組みによって、エンゲージメントに関する見識を広めることができた。
もう1つ重要な点として、私たちは2人とも、アメリカで経済界の一員として働き、過去から現在まで組織の運営と相当数の部下たちの責任を負う経験をしてきた。
よって、私たちがこれから伝えていくことは、単なる理論ではない。組織とエンゲージメントの実体験に基づいた、エンゲージメント・カルチャーを築くための実践──具体的で応用可能な方法の共有だ。

また本書は、組織のあらゆるレベルのリーダー──組織全体を統括する立場から、一人から数人を束ねる役割を果たす人まで──に役立つものだ。本書の読者対象である「リーダー」には、通常は「マネジャー」や「管理職」と表現されることが多い人まで含んでいる。エンゲージメントの高い組織カルチャーは、何か特別な肩書や階層から生まれるのではない。リーダーがリードする努力によって生まれるものなのだ。本書を活用していただくことで、エンゲージメントを高めていくことができるだろう。なお、本書では随所に、重要な考え方と、本書の内容をあなた自身の状況に結びつけて考えるための質問を記載している。前者は2本の罫線で挟み、後者は罫線で四方を囲んでいる。その場面では、ぜひ一度立ち止まって、重要事項を理解し、あなた自身だったらどうするかを考えてから読み進めてほしい。

これから、エンゲージメントを主に次の2つの観点から考察していく。

  • 変化、およびその変化がエンゲージメントに及ぼす影響。どのような要素が、従業員の変化に対する反応の選択と、その変化のプロセスへの参画の仕方を決定づけるかについて考察する。
  • エンゲージメント・カルチャーを築く方法。リーダーシップをどのように実践することで、エンゲージメント・カルチャーを築くことにつながるかについて考察する。

第1章では、組織はどうしてエンゲージメントを失い、気力を失うのかについて、事例を取り上げ、その事例から学ぶ教訓や洞察を提示する。
また、エンゲージメントを明確に定義し、エンゲージメントに関連して従業員が行う選択を概説する。さらに、従業員が仕事に打ち込むために経営層に望むことについての調査結果を述べ、エンゲージメント・カルチャーを構成する5つの要素を紹介する。その5つの要素を羅列しておくと、

  • 未来の可能性
  • 当事者責任
  • つながり
  • 一体感
  • 存在価値

である。

第2章では、エンゲージメント・カルチャーを築く際にリーダーが果たす役割について述べる。エンゲージメントの文化的側面を定義する。

第3章では、エンゲージメントの第1要素、「未来の可能性」について考察する。「どうすれば従業員に、組織の未来の可能性を信じてもらえるのか」に焦点を当て、そのために重要な〝現実的な楽観主義〟に重点を置いたリーダーの取り組み方を紹介する。

第4章では、エンゲージメントの第2要素、「当事者責任」について考察する。自分の業績目標や行動について、従業員それぞれが、個々に責任を負うことを受け入れるようにするにはどうすべきかに焦点を当てる。

第5章では、エンゲージメントの第3要素、「つながり」について考察する。従業員どうしが適切な関係を築き、協働を大切にするチーム環境で仕事をするにはどうすべきかに焦点を当てる。

第6章では、エンゲージメントの第4要素、「一体感」について考察する。従業員を巻き込み、従業員に情報を伝え、活発なコミュニケーションを促すにはどうすべきかに焦点を当てる。

第7章では、エンゲージメントの第5要素、「存在価値」について考察する。従業員への関心を示し、その存在を肯定するさまざまな方法を取り上げる。従業員一人ひとりを支援し、奨励し、育成する手段を現場で応用する方法を紹介する。

第8章では、これらの5要素を組織カルチャーの一部として浸透させるプロセスを提示する。一連の実践活動を通して、組織のリーダーは、エンゲージメントの要素を組織カルチャーに根付かせる方法を確立することができる。

本書は、リーダーが今、身を置いているビジネス環境に応用できるようにまとめたつもりだ。エンゲージメントに最大の影響を及ぼすものは何かを取り上げ、それを強く実感できる事例も紹介していく。本書が、自分が身を置くビジネス環境に目を向けるきっかけとなり、それぞれに起こっている特有の状況に的確に対応することができるだろう。その結果、読者の属する組織のニーズにふさわしいエンゲージメント戦略をもてるはずだ。

そしてリーダーは、本書を通じて、「私たちの組織をエンゲージメント・カルチャーに導くものは何か?」という問いにも、答えられるようになるだろう。
エンゲージメント探究の旅を楽しんでほしい。

スティーブ・バッコルツ
トム・ロス

5月21日発刊

『成長企業が失速するとき、社員に何が起こっているのか?――職場に「働きがい」と』「エネルギー」を取り戻す方法』(日経BP社


『成長企業が失速するとき、社員に"何"が起こっているのか――職場に「働きがい」と「エネルギー」を取り戻す方法 目次

はじめに

第1章 〝プラグ抜け状態〟――「組織で働く人」がエネルギーを失ってしまうのはなぜか

  • 一人ひとりの「仕事にかけるエネルギー」を高める方法 
  • エンゲージメントとは何か? 
  • エンゲージメント低下――組織が〝プラグ抜け状態〟になる原因は? 
  • エンゲージメント低下企業の事例から学ぶべき教訓とは? 
  • 「仕事の満足度」と「エンゲージメント」 
  • リーダーシップの役割 
  • エネルギーを取り戻す――組織のエンゲージメントを回復させる方法 
  • 本章のまとめ  

第2章 リーダーシップが果たすべき「真の役割」とは?

  • 「職場のエネルギーがリーダーによって決まる」理由 
  • 「ついていきたくなるリーダー」とはどんな存在か?
  • これが、リーダーシップの真の役割だ 
  • 開拓者としてのリーダー・執事としてのリーダー 
  • リーダーシップにおける「勇気」の意味
  • あなたは部下と「相互に影響を与え合っている」と言えますか? 
  • 本章のまとめ 

第3章 最高レベルの「未来の可能性」を生み出す方法

  • 「未来の可能性」がなぜ、重要なのか? 
  • 問題を正しく共有するための「現実的な楽観主義」とは 
  • 未来志向をつくる「現実的な楽観主義」を実現するための4つのポイント 
  • 現実的な楽観主義と戦略開発 
  • 実的な楽観主義のカギを握る「コミュニケーション」のとり方 
  • 「組織のストーリー」の語り方――めざすべき「タイプ3」とは? 
  • 組織化の原則を確立する 
  • 本章のまとめ 

第4章 ベストを尽くす文化をはぐくむ「当事者責任」とは?

  • 働く人一人ひとりに「当事者」としての責任意識をはぐくむ 
  • 従業員はみな、心の奥底で「自分に何を求めているかをはっきりさせてほしい」と願っている 
  • 活力につながる「当事者責任」とは何か? 
  • 当事者責任モデル 
  • 「ベストを求める」――すると従業員はどう変わるのか? 
  • 本章のまとめ 

第5章 「つながり」の強い企業が最後に勝つ理由

  • 「つながりを保つ」というシンプルなことに、なぜ多くの組織は失敗するのか? 
  • 組織の「分断」 
  • あなたの組織につながりを築く方法
  • 職務による分断を乗り越える
  • 協働を大切にするマインドセットを養う
  • 相互影響と協働を「当たり前」にするために
  • 「チーム」をうまく活用する
  • 価値観と信条 
  • 本章のまとめ 

第6章 潜在能力のさらなる発揮に繋がる「一体感」の高め方

  • 人はみな、「関わっていたい」と感じている 
  • あなたの組織が「ひっそりと」してしまう、意外な原因 
  • 一体感を感じられるカルチャー――事例と実践方法 
  • オープンドアに招き入れる 
  • 本章のまとめ 

第7章 「存在価値」―― 組織内に、その人が輝く居場所をつくる

  • 一人ひとりが「存在意義」を感じるために
  • 「存在価値を認める」とは?
  • 従業員が「会社を辞めよう」と思わないときの心境
  • 存在価値を認めるための「関心」はどうやって示したらよいのか?
  • 心からの喜びを生む「自然報酬」の使い方
  • 学びと成長――従業員が辞めない会社の秘訣 
  • 速効で「居場所」をつくるための、今すぐ使える22の問いかけ
  • 本章のまとめ

第8章 企業に「エンゲージメント」のカルチャーを築く

  • 組織のカルチャーを変えるには?
  • エンゲージメントは「カルチャーに重きを置くリーダーシップ」から生まれる
  • あなたの職場のカルチャーを創る
  • アクションプラン1:「未来の可能性」を高める
  • アクションプラン2:「当事者責任」を高める 
  • アクションプラン3:「つながり」を高める 
  • アクションプラン4:「一体感」を高める 
  • アクションプラン5:「存在価値」を高める

エピローグ――これまでを振り返って 

謝辞

参考文献 

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