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気候変動をシステム思考で考える(1)

2021年04月07日

今月16日に予定されている日米首脳会談では、経済協力と気候変動での共同文書が発表される予定です。先月18日に行われた米中外交トップ会談では、人権分野などで激しく対立しながら、気候変動分野での協力が模索されました。昨年9月には、習近平が2060年までにCO2排出実質ゼロ、2030年までに05年対比GDPあたりCO2排出量65%以上削減・排出量ピーク達成する目標を打ち出し、10月には当時大統領候補だったジョー・バイデンの公約で2050年までに排出実質ゼロ、2035年電力セクターCO2排出量ネットゼロが掲げられます。日本でも、菅首相は10月に日本の温室効果ガスについて2050年までに排出実質ゼロを発表しました。そして、欧州連合は、2019年12月時点で2050年までに排出実質ゼロ、2030年に排出量90年対比55%削減を欧州グリーンディールの中で明らかにしています。

世界の主要国が続々とCO2排出ゼロの長期目標を打ち出すとともに、2030年までのピークや急激な減少を目指しています。2015年12月に採択されたパリ協定から5年が経過した今、にわかに大きく気候変動対策が動き出しているようでもあります。今回は、改めて人間の活動と気候変動の間でどのようなシステムになっているのか、基本を確認します。

グラフの推移から時系列パターンを見る

まず、どのような時系列パターンになっているのかを確認しましょう。以下のグラフは、2020年までのエネルギー由来CO2排出量、大気中のCO2濃度、平均気温の偏差の推移を示しています。

エネルギー由来CO2排出量(1990―2020年)

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(出典:IEA)

大気中のCO2濃度(1958-2020年)

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(出典:Scripps Institution of Oceanography, NOAA Global Monitoring Laboratory)

大気の平均気温(5月)の20世紀平均からの偏差(1880-2020年)

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(出典:National Centers for Environmental Information)

それぞれグラフの開始時点は異なりますが、どのグラフも20世紀後半から右肩上がりの傾向を示しています。CO2の排出量は、昨年コロナ禍の影響で一時的に下がっていますが、歴史的にも大恐慌、第二次世界大戦、オイルショック、リーマンショックなどの経済不況のあった際には落ち込んでいますが、長期的には経済成長の動向に相関しています。このことからも、エネルギー由来のCO2排出量は経済活動との関係性が深いことがわかります。

ループ図で構造を見る

下記のループ図は、それらのパターンを説明する構造を示します。人間の活動によるCO2排出量(青矢印)が、炭素循環・気候システムに与える影響(緑矢印)と、気候システムが人間の福利や経済活動に与える影響(赤矢印)となっています。矢印で結ばれた変数間の因果関係が同じ方向の影響の場合は「S(Same)」、逆の方向の影響の場合「O(Opposite)」、また、四角で囲っているのは、変数の中でもストックと呼ばれる、蓄積の傾向をもつ変数です。また、弧の印内に「R」と示されたループは自己強化型ループ、「B」と示されたループはバランス型ループです。

00135-climate_change.PNG(出典: Thomas Fiddaman, "Feedback Complexity in Integrated Climate-Economy Models"一部改変)

順を追ってループ図を解説しましょう。

私たちは工場、生産設備、サービス施設、輸送設備、建築物などの「資本」を元にモノ・サービス生産高を高め、もって人々への福利(Wellbeing)を高めてきました。生産高の一部は、工場や生産設備などを新たにつくる再投資によって、設備などの資本を高めています。(R1ループ)このループが、経済成長の基本的な駆動力でもあります。

工場であれ、自動車であれ、建物であれ、これらの設備を利用するにはエネルギーが必要となって、「一次エネルギー使用量」を増やします。需要に応じて、「エネルギー供給量」は増加を続けますが、供給が需要に追いつけず逼迫したり、油田などで資源生産量のピークを越えて減衰するとエネルギーのコスト及び「価格」を増加させたりして、エネルギー使用量に歯止めをかけます(B2ループ)。しかし、今までのところは、エネルギー生産の累積量の増加による「学習効果」によって、エネルギーの価格を下げる効果も働いています(R3ループ)。なお、2009年から2019年にかけて、太陽光発電の平均単価は89%、陸上風力発電の平均単価は70%削減し、それぞれ$40/MWh, $41/MWhとなって石炭の平均単価$109/MWhを大きく下回っていますが、これは設置容量が倍増するごとに約20%削減する学習効果によるものです。

エネルギーの種類によって、「炭素集約度」つまり、エネルギー使用量あたりのCO2排出量は異なります。石炭がもっとも高く、ついで、非在来型石油、在来型石油、天然ガスなど化石燃料の炭素集約度が高いです。一方、バイオマス、水力、風力、太陽光、地熱などの自然エネルギーや原子力は、計算の前提によって幅はあるものの、一般に炭素集約度が低いエネルギー源です。「使用量」にエネルギーミックスによる炭素集約度を掛け合わせてCO2排出量を推計できます。近年、自然エネルギーが急増しているものの、それでも世界のエネルギー供給に占める比率は11%(2019年)に過ぎず、私たちの経済は主に化石燃料に頼っています。これに、メタン、フロンガスなどの他の温室効果ガスの放出量と合わせて、年々蓄積し、「大気中の温室効果ガス」となります。

大気中のCO2濃度が高まると、森林などのバイオマス及び腐植土や海洋中へと吸収されるCO2が増え、大気中のCO2増加を一部相殺します(B4ループ)。但し、森林を伐採すると、それらの炭素は固定化されず、大気中のCO2は増加させます。農業などで化学肥料の利用や土壌への負荷をかけ、あるいは腐敗が進むことで、陸上からのCO2放出量が増加します。反対に植林や森林の生長によって、CO2を固定化する量を増やすこともできます。

さて、大気中にCO2などの温室効果ガスがたまるとなぜ温暖化が起こるのでしょうか? まず、表面温度が400度を超える金星や水星(昼側)、あるいは氷点下の火星に対して、地球がなぜほどよい温度にあるのかを確認しましょう。地球は、宇宙の冷気に囲まれた温かい塊です。地球の表面の温度は主に、太陽光が地球に入射して吸収されるエネルギーと地球から宇宙へ放射するエネルギーのバランスによって決まります。入射と放射のバランスによって、どれくらいのエネルギーが地球の表面に追加されるかを測る指標が「放射強制力(対流圏の上端における平均的な正味の放射の変化)」であり、この放射強制力が大きいほど大気・海洋表層の貯熱量が増加します。大気・海洋表層の平均温度が上昇すると、地球から宇宙に放射されるエネルギーも大きくなり、バランス型ループを構成します(B5ループ)。このループが支配的な場合、入射する太陽エネルギーと宇宙に放射されるエネルギーとがちょうど均衡するところで温度変化が止まります。

ここに温室効果ガスの影響が追加されます。宇宙に放射されるエネルギー量は、大気の組成の影響も受けるのです。二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスは、地球が放射したエネルギーの一部を宇宙に逃がさずに地球の表面にとどめます。ビニールハウス内が外気に比して温かいのと同様、大気中の温室効果ガスが増えると、地球が温暖化するのです。もし地球に温室効果ガスがまったくなかったら、地球は平均気温が約-17℃となりますが、温室効果ガスが大気の放射率を下げて地球の表面を約15℃(産業革命以前の数百年間)という生命を維持しやすい平均気温に温めています。大気・海洋表面層の貯熱量が相対的に高まると、熱は海洋深海へと移動することで、上昇分を一部相殺します(B6ループ)。その正味として、大気と海洋の表面層の平均温度上昇傾向にあります。先ほどのグラフにあったとおり、人間活動によってその温室効果ガスが急激に上昇を続け、平均気温の増加傾向が続いているのです。

気候の変化は、平均気温・海温の上昇にとどまらず、猛暑日・熱帯夜などの増加、大雨日数・無降雨日数の増加、大雨・暴風雨の強度化、暖冬化、積雪・降雪パターン変化と積雪・降雪期間の短縮、氷河・棚氷・氷土の融解、海面水位の上昇、海氷面積の減少、ジェット気流・海流・海洋大循環などの変化、気団・暖気団配置の変化などにつながります。こうした気候の変化は、桜の開花の全国平均がこの50年間で5日間早まったり、あるいは、本来30年度に一度と定義される異常気象が頻繁に起こったり、と実感することが多くなってきました。

とりわけ、懸念されているのは、平均気温・海温の上昇がもたらす地形変化の不可逆的な「正のフィードバック効果」です(R7ループ;簡易に平均温度に戻していますが、効果によってループ状の異なる要因へフィードバックします)。例えば、北極の氷面積やヒマラヤの氷河などが溶けると、海面や山肌のより黒色の表面が増えます。光を反射しやすい氷に対して、熱を吸収しやすい色の地表や海面の面積が増えることによって温度上昇は加速的に増加しやすくなります(アルベド効果)。気候変動による地形の変化には、ツンドラ氷土の融解によるメタン放出、より乾燥した森林の火事によるCO2排出増加と吸収効果の減少など、数多くの自己強化型ループが潜在的に存在し、すでに一部は作動し始めています。こうした効果の発動する閾値を超えないために、産業革命以前からの温度上昇を1.5度以内にとどめることが求められています。

これらの気候及び地形の変化から、人間の経済あるいは社会活動の中でさまざまな影響を通じて、人間の福利が損なわれることが懸念されています(B8ループ)。実際、気候関連の災害と被害額は20世紀の終わり頃から急増しており、さらに農業、観光などの気候に依存しやすい産業や一般でも熱中症、労働災害、疫病のシフトなどが身近に迫ってきました。一部、寒冷地域などでの温暖化によるメリットも考えられるようですが、正味ではデメリットのほうが大きいと評価されています。

パリ協定で合意された目標は、こうした悪影響の程度に歯止めをかけるには、平均気温の上昇を多くとも2度以内、できれば1.5度以内に抑えるということでした。すでに、1度上昇している状況においてなお、CO2排出量や大気中の温室効果ガス濃度の上昇に歯止めがかかっておらず、効果的な対策を打つための残りの猶予期間が刻一刻と減少しています。こうした危機感が、世界の首脳、政府、企業、NGO、国際機関などによる、より踏み込んだ議論や対策へとつながっています。

(執筆:小田理一郎)

(続く)

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