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News & Topics

コロナ禍について考える2021(4)サプライチェーンの供給逼迫

日本では新規感染の第5波が過ぎて、今のところ小康状態のようです。Withコロナ時代の経済活動、社会活動の再稼働を目指して動き出していますが、回復は思うようには進んでいません。今、さまざまな業界で、供給の逼迫課題を抱えているからです。

本稿では、こうした供給の逼迫がどのように起こっているのか、昨今新聞をにぎわせる半導体業界をイメージしながらループ図で考えてみました。なお、本来ループ図を書く前には、実データに基づく時系列変化パターングラフが必要となりますが、本稿では報道のナラティブをもとにしてループ図を作成しています。もし重要なトレンドを見逃しているようでしたら是非ともご教示ください。

コロナ禍による減産局面

まず、2020年3月に時を戻しますと、それまで一部の国で見られた感染が欧米日などを含む世界各国に広がってパンデミックが宣言されました。各国で行政や事業者が感染対策を本格化させたのもこの時期です。それによって、外出、人流の制限や営業の制限が導入され、経済活動や社会活動に急ブレーキがかかります。多くのモノやサービスは販売量が落ち込み、先が見えないさなかから、当面だぶついた在庫と販売見通しの下方修正によって減産の調整が始まりました。(図1、B1)減産による生産活動縮小に合わせて、労働力の調整が起こります。(B2)米国では大量の一時解雇が起こり、その他の国でも正規雇用は保ちながらも、季節労働者、非正規雇用者などを減らして労働者数と人件費の調整が事業者によってなされました。

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図1:川下産業における減産調整と労働力調整

同様の調整は、部品調達でも行われます。パーツの減産要請が川上の産業によってなされ、発注量が減少します。それによって、在庫がだぶつく(あるいは受注残が減少する)ために、川上産業においても部品生産の減産が行われます。(図2、B3)ここで、川上に上れば上るほど、「ブルウィップ効果」が生じます。つまり、川下での減産調整に加えて、だぶついた在庫の調整と需要見通しの下方修正によって、減産幅が上乗せされるため、川上では川下よりもさらに大きな減産幅となるのです。

大きな打撃を受ける川上の部品メーカーは、複数の産業顧客を相手にしているのならば、失った受注分を取り返すために、他の産業の需要開拓にシフトするのはごく当然の生き残り戦略となります。(B4)半導体メーカーにとっては幸いなことに、コロナ禍による巣ごもり需要やテレワークの増加から、IT機器やゲーム機器向けなどの需要が増加し、加えて2021年には延期されたオリンピックが開催されてTVなどの家電向け需要も増加していきました。

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図2:部品の発注量減少と代替需要の模索

コロナ禍の初期回復局面:労働市場への影響

こうして、労働と部品生産はコロナ禍による減産に応じた状況が整います。そうした中、外出制限は緩和され、また営業の制限は外食、旅行、娯楽などの一部産業に限定されていきます。その他の産業では営業を再開し、需要も徐々に戻っていきました。回復期に入ると言うことは、需要や出荷が増加局面に転じますが、そのカーブは当初の悲観的な見通しに比べると思ったよりも速いペースになっている産業が少なくありませんでした。

これまで、減産を中心とするコロナ禍の影響第一波を赤で示していましたが、増産要請の影響をは別の色で示します。出荷や受注が増えれば、絞られていた在庫はすぐに品薄になり、生産の増産調整が必須となっていきます。(図3、B5(紫)、B6ループ(緑))

減産の調整に伴う一時解雇や部品発注キャンセルなどは数日から数週間単位で可能です。しかし、それに比べて増産局面では、もっと長い調整期間が必要になってきます。急遽採用をしようとしても、一時解雇された人々は、別の仕事についていたり、帰郷していたりなど簡単には集まりません。別の業界から人を集めるにも現場に出すためには、採用期間に加えて、訓練などの期間を要しますし、また、経験者であっても操業を再開してもとの生産性レベルに戻るにはしばらくの時間が必要となります。(B7(緑))

折しも、コロナ禍による休業補償を実施した先進国では、回復に伴って職場に戻らないかと打診されたとしても、同等の収入が補償されているならば、職場には戻りたくないと考える人も出てきました。(B8(紫))この傾向は自動車産業に限ったことではなく、また賃金レベルが低かったり、やりがいを感じにくい職場だとなおさらのことです。サービス産業では、需要がもどっても店舗店員が不足したり、UBERなどのドライバー不足といった状況が米国のあちこちで見られ、労働供給の逼迫が景気回復の足かせになっています。

すでに休業補償は終わっていたりこれから終わる時期を迎えますが、景気の回復スピードはどれくらい労働力が確保できるかがポイントになりそうです。こうした時期、働き手にとっては、どのような仕事に就くか、あらためて働くことの意義や条件について転換する好機でもありますし、また、企業側にしてみると概して厳しい状況ではあるものの、Withコロナに適応した人事戦略を打ち出すことで、他社や他産業に差別化するチャンスとなる状況が現れています。



図3:減産から増産転換の労働力への影響

コロナ禍の初期回復局面:部品調達・生産への影響

さて、増産要請による部品調達への影響に目を向けてみましょう。生産計画の上方修正によるパーツ増産要請(図4、B9(緑))は、極めて厳しい状況からのスタートになります。部品メーカーは先の減産要請に応じながらもなんとか生き残りのために産業毎のウェイトを変えてしのいでいました。さらに米中の経済摩擦の影響で、生産をいち早く回復した国である中国からの部品輸入はできない状況です。減少した部品在庫(あるいは高い受注残)は、自動車などの産業の増産要請でたちまち品薄になり、品薄状況では調達確保に必死の生き残りでますます注文数を増やして品薄になる悪循環が起こりやすくなります。(R10(紫))

2020年春から夏にかけて消費者がマスク、消毒液、トイレットペーパーなどに殺到して品薄や価格高騰したことは記憶に新しいところですが、構造的に見れば産業の需要家にも同じことが起こりえます。さまざまな企業からの受注をとりまとめる卸やメーカーには、市場全体の実需要を超える発注量が集まることはざらにあります。おそらく、今回の供給逼迫の背後にはそのような状況があると推察されます。

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図4:減産から増産転換の部品調達への影響

どこまでが実需要か定かでないながらも、発注量の増加は、部品メーカーの増産への転換への圧力がかかります。今度はブルウィップ効果が反対に働き、品薄になった在庫(あるいは肥大化した受注残)を補充するための生産と発注ベースラインそのものの上昇の双方を生産計画で埋めなければならず、川下よりも大きな振れ幅での増産が必要になります。(図5、B11(緑))

自動車向けの半導体は、サイズ上は「レガシー生産」に相当して、「新タイプ生産」の向上では生産ができません。しかし、レガシー生産能力は、その名が示すとおりに生産能力の老朽化が進んでいる上に、タイミング悪く日米にある向上の一部は自然災害の被災や火災事故の影響を受けて増産どころか生産が滞る事態となりました。

そうした中で、増産のための調整期間において、優位性をもった韓国、台湾のOEMメーカーからの調達に依存することになります。(B12(緑))

積み増し発注があるとはいえ、全体としては需要が増えている時期だとしたら、根本的には生産能力そのものの増強が必要になるでしょう。日米などかつて半導体で大きなシェアをもっていたメーカーは国内生産を大幅に下げてきましたが、この状況を受けて先進国内での生産能力を増強すべきか考えていることでしょう。一方で、台湾、韓国などのOEMメーカーの産業団体は引き続き自国での生産のメリットを訴えて生産能力の増強を図ります。図では省略していますが、企業それぞれの価格競争力や技術戦略、国ごとの産業政策やマーケットへの距離など、投資にはさまざまな要因が勘案されます。そうした中、最近になって、OEMメーカーが日米などに工場建設を行う計画が新聞を賑わせました。(B13(青緑))

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図5:半導体生産の選択肢

全体像の俯瞰と吟味

ここまでの全体を示すと下図になります。赤は、コロナ禍当初の減産に伴う影響(及び一部産業の増産局面)を示し、回復局面では緑が増産のダイナミクス、紫がそれを相殺するダイナミクスを表しています。そして、青緑は、生産能力そのものの増強局面の影響です。

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図6:コロナ禍のサプライチェーンへの影響俯瞰図

かなり複雑な図で、システム思考などを学んでいない経営者や市民へ説明するプレゼンテーションには不向きです。実務者たちが検討する際には大雑把ですが、広く見渡す見取り図のたたき台にはなるでしょう。一方、実務者ならば価格やコスト、納期、品質など他にも加えたい変数が多々あることと思います。筆者は自動車業界、半導体業界とも無知ですので、重要な抜け漏れがあれば、是非このループ図を改善していただけるでしょうか。

一般の方向けには、これを見て言えるとしたら、世界は私たちが思っている以上につながっており、そのつながりを通じて駆け抜ける変化のダイナミクスは、さらに想像を超えるような複雑な挙動を示すことです。

このような複雑なシステムにおいて、出来事レベルに反応して、過剰に購買行動を絞ったり、不足していると見るや我先にと確保に走ったりする行動は、よいパフォーマンスにつながらないばかりか、長期のパフォーマンスや社会価値全体を損ねることすらありえます。さまざまなステークホルダーがいる中で、それぞれが自身にとって最善と思える行動をとることが、システム全体をバラバラの方向に引っ張り、全体としてのパフォーマンスを低下させてしまうのです。

悠々と急げ。どんなに急を要する事態でも、ちょっと待てよと立ち止まり、バルコニーに上がって、自分たちがわかっていること、わかっていないことを書き出して俯瞰すると良いでしょう。そして、行動するときには、わからないことや改善への糸口の探求を同時に行うことが肝要です。

  • 産業をまたがった実需要がどうなっているのか? 潜在供給能力と実需要はバランスしているか? サプライチェーンではほかにどのようなボトルネックがあるのか?
  • 調整や能力増強にはどれくらいの期間が必要か? 現実に短縮できるか?
    現実のスピードを無視した拙速な発注や調整行動を行っていないか?
  • それぞれのプレイヤーはどのような情報の範囲で意思決定しているか? 在庫、受注残、供給ライン、さまざまなリードタイムをリアルタイムに把握、調整しているか?
  • 増産が需要レベルに追いつき、収束することをどのように見極めるか? 今後のコロナ禍感染状況によるシナリオを踏まえると何が起こりうるのか? さまざまな遅れの中で行き過ぎ、加熱のリスクを加味しているか? どのようにモニターして、どのように適応するか?
  • 競争や交渉の相手でも、業界として、市場として、最低限のルールを共有しているか? それぞれの目標を追求しながらも全体としての善をなすような目標(またはルール)を設定できているか?

1社の立場からでは、全容をつかむことは容易ではありません。ステークホルダーが協力して実態を見極めながら、わかりうることの共通理解を築くこと、またそれぞれの主張や利益は守るものですが独りよがりなムリムラムダをつくることは避けたほうがよいでしょう。そして、複雑なシステムですから、仮説を実行しながらも、その結果の状況をモニターして評価し、適応型マネジメントをこころがけることが肝要です。システムの全体像を希求するステークホルダー間の対話と学習が今求められていると感じます。

(小田理一郎)

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