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協働する社会システム: 私たちは真の成果を挙げているとき、どのように働いているのか?(後編)

(HPにおけるイノベーションとハイパフォーマンスを生み出す組織づくりに尽力したデニス・サンドウの理論、事例とリサーチ方法に関する紹介の続編です。)

知識とは、「行動すること」(マトゥラーナ)であり、また、「集団における行動のコーディネーション」(ピアジェ)です。それらを言語化して伝播し共有するためには、自らの行動を振り返る「学習」、あるいは、共同で行う行動を集団で振り返る「組織学習」が重要な役目をなします。メンバーたちが言語化することを学ぶことは、自己組織化の重要な手段であり、リーダーは個人と集団の学習の環境を整えることで、集団が仕事の進め方を理解し、価値創造システムの生産性と効果を高め、組織のパフォーマンスを飛躍的に高めます。そして、コラボレーションに関する最も深遠な知識は、他者と一緒に仕事をし、その行動を振り返る「実践」において生まれます。

学ぶために聴く、聴き方を学ぶ
コラボレーションの起点は「聴く」ことにあります。学ぶためには聴くことがもっとも重要であり、またそのためには聴き方を学ばなくてはいけません。私たちは自分の考えを誰かに説明、説得し、影響力を与えれば効果的なコラボレーションを与えると考えがちですが、このように他人を支配する傾向がある場合にはかえって難しくなるものです。真の「聴く」という行為は他者や集団の体験を聴き、そこから学ぼうとすることで可能となります。そして、好奇心をもって、学ぼうとするならば、他者の話をよく聴けるようになります。このことが組織の中の相互の信頼と尊敬を高め、より多くの学習につながります。私たちは皆、自分の意見を聞いてもらうこと、そして、自分の貢献が他者から認められ、受け入れられることを望んでいます。これらが実現するとき、その組織やソーシャルネットワークにおいて社会関係資本が築かれ、持続的な組織パフォーマンスの力強い駆動要因となります。
 他の人たちがどのように価値を創造しているかを聴くことは、集合的な知識の共有につながります。これが、組織リーダーの重要な役割であり、前述の品質マネジャーのGeorgeたちは、ソーシャルネットワーク内のすべての人を正当な存在として捉え、時間をとって彼らの体験を聴くことで、グループ全体から知識を集め、集団行動のコーディネートを行いました。集団パフォーマンスの本質を理解しはじめると社会システムの内部知識は共有されていきます。集団の知恵を探求することで貪欲な学習者なるのです。これは、知識時代のリーダーには必須のことであり、HPでは「歩き回るマネジメント(MBWA)」として定着していきました。
パフォーマンスの向上は、社会システムを流れる集合知のフローに比例します。その集合知のフローにアクセスするための鍵が聴くことです。しかし、ほとんどの人は、聴くことの重要性を頭で理解していても、実際には、表面的な聞き方でしかないことがしばしばです。相手の話を途中で遮ったり、効率的に話すようにせかしたり、あるいはすでにその話は知っていると思ったりすることはないでしょうか? このような疑似リスニング(U理論の「ダウンローディング」)は、集合知のフローを遅らせるだけでなく、行動上の誤解やずれを生じさせ、人間関係の悪化と社会的な分離を招き、チームの効果を低下させます。

理解することを理解する
他者から学ぶために耳を傾けることによって、他者はあなたが自分を理解してくれていると認識するようになります。これは社会システムにおける開放性を維持するために重要なことであり、開放性なくして、知識、イノベーション、コラボレーションを迅速かつ効果的に行うことはかないません。
今日の激動下にある企業社会では、組織改編、顧客対応、新しい機会、新規採用など、新しいチームが形成されていることが常となっています。新しい集団に入ると、最初は途方に暮れることもありますが、まず、「何が起きているのか」「何をすればよいのか」「どのように機能するのか」など、探索的な質問をして人に尋ねていくでしょう。やがて、その説明に夢中になって聞き入り、説明されたことに興味を持つようになり、そして説明者の話の幅や奥行きも広がります。説明者は、「もしこちらに興味があれば、Aさんに会うとよいでしょう」といい、あなたはAさんの話を聞きに行きます。あなたはAさんと協働を始めるかもしれないし、あるいは別のBさんを紹介してもらうかもしれません。その日の終わりまでに、自分がどれだけ多くのことを学んだか、そして、個人的にも集団としても、自らの知識を喜んで教えてくれるグループであることに感謝するでしょう。(このプロセスは、コロナ禍時代のオンボーディングの参考になるのではないでしょうか?)
ソーシャルネットワークの中で、学ぶために聴き、人の話を聴くことを学ぶと、ある時点で、そのグループはあなたが自分たちを理解していることを理解するようになります。これは表面的な知識ではなく、意味のある理解であることをグループが理解することであり、共有される知識が広がっていきます。聴くことは、集団的な振り返り、フロー、そして学習の空間を作り出します。
人々がどのようにコラボレーションしているのかを聞き、学び、理解する機会があったならば、複数のグループと日常的に行うとよいでしょう。何度も理解を共有することで、私たちは知識のフローが見えてきます。
意味の共有は、コラボレーションと知識のフローに不可欠なものです。言葉について合意するのは簡単ですが、言葉の意味を共有することは難しいものです。この意味の共有は、理解(=傾聴、内省、対話)の問題であり、生産性を大きく向上させます。意味が共有されれば、社会システムのアウトサイダーはいなくなり、誰もが正当に認められたメンバーとなります。ハイパフォーマンスのチームでは、「不可能を可能にする完璧な実行力」「互いの考えが理解できる」など、その共通認識と知識のフローが、並外れた成果をもたらしたと考えるのです。

信頼すること
信頼することは、ソーシャルネットワークにおける重要な連結点です。あなたが人生で最も信頼している人について考えるとわかるように、信頼とは、誰かが自分を理解してくれているという実感とともに育まれる感情的な態度です。なぜなら、信頼する人の傾聴や観察を通じて、その人が自分自身を映し出す鏡となっていることに気づけるからです。

集団として、ひとたびあなたが自分たちのことを理解しているとグループが認識すれば、あなたと社会システム内の他の人々との間の関係的な結びつきが強まります。あなたはグループの正当な一員となり、彼らの会話のネットワークに含まれるようになります。このように信頼を築くことで、人はネットワークの外から内へと入っていきます。会話はより深くなり、より多くの知識を明らかにし、生成します。グループの全員が社会システムのメンバーとして受け入れられ、全員が共通の目的に沿って行動することが信頼されます。信頼が深まるにつれ、焦点は「私」から「私たち」へと移っていきます。相手が私から学ぶことよりも、私自身が相手から学ぶことに興味を持つようになります。私はできる限り貢献しますが、チームやシステム全体の目的に奉仕する状態となります。

コラボレーション
コラボレーションとは集団における行動のコーディネーションであり、ネットワーク内の誰もが、共有された目的への貢献者としてネットワーク内の他の人たちに受容される関係にある社会システムにおいて発生します。コラボレーションを生み出す省察的な関係のフローは、ネットワーク内のどの個体も全体の知識にアクセスすることができます。信頼性の高い環境では、ネットワーク内の人がどのように共同作業を行うかを検討し続けるため、このプロセスが継続的かつ生成的に繰り返されます。そして、下図に示すように、進化する知識に基づいて行動を起こすようになります。


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図5:信頼の自己強化型ループ

社会関係資本は、コラボレーションによって向上し、その逆もまた真なりです。社会関係資本はコラボレーションが減少すると減少します。コラボレーションがなければ、社会的分離が生じ、その結果、重複コスト、不整合、しばしば、不信とおそれにつながります。このような関係の悪化は、内部競争を強化し、社会関係資本を減少させます。つまり、コラボレーションがなければ、資源枯渇の道を歩むことになります。

先ほどの例のように、ソーシャルネットワーク図を使って、共同作業グループの関係パターンを調べてみると、全員が全員と相互関係でつながっている社会システム構造が見えてきます。もし、あるグループに自分たちが生み出した価値について質問したとき、AさんがBさんを助けたと言い、BさんがAさんを助けたと言うなど、相互的な社会関係が明らかになります。

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図6:協働する社会システムの凝集性

公式な組織チャート対非公式ネットワーク
サンドウは、この相互作用のパターンが最も結束力の強い社会構造であり、発明、継続的な業績向上、知識の創造、そして社会の幸福の源であると言います。そのような社会構造は、マネジメント階層の公式なシステムをもとに起こすことは難しいでしょう。むしろ、組織横断で水平型に、時として公式なシステム外のステークホルダーを巻き込む非公式ネットワークの形成が重要となります。

HPで見つかった非公式なネットワークの例を一つあげてみましょう。同社ではイノベーションは次々と生まれていました。中でも着目したのは、女性社員の活躍で、数多くのイノベーションの推進者の中に多くの女性の活躍がありました。しかも、これらの人たちが大変数多くの部署にまたがっていたのです。何がそうしたイノベーションの秘訣なのかを探ろうと、女性社員たちへのインタビューとソーシャルネットワークの分析が行われました。

そうしたところ、当初、公式の組織図チャートやプロジェクトメンバー表ではまったく関係性を見いだせなかった女性社員の間で、共通項が浮かび上がってきました。女性イノベーション推進者たちの多くは、キルトのクラブ活動のメンバーだったのです。アメリカの伝統で大きなキルト生地を集団で縫製することが趣味として人気です。HP社でも、仕事後や休日に一緒にキルトを織るクラブ活動が行われていました。集団での協働作業を行う傍らで、女性社員たちは仕事上の悩み相談やアイディア交換をさかんに行っていました。こうしたゆったりとした時間を過ごし、互いに耳を傾け合うことで信頼の場が生まれ、アイディアのレベルではありますが多様なメンバーによる意見交換を通じて数多くのコラボレーションを実現していたという事例です。このキルトのクラブ活動のような場と会話の行われ方を再現することで、さらなるイノベーションのヒントが組織で共有されていきました。

ソーシャル・アクション・リサーチ
サンドウの研究者としての原点は、障がい者施設における研究にありました。そこでは、いかに優生学時代の悪しき習慣を根絶させるために適応型の学習を用い、人の尊厳やウェルビーイングを大切にする社会システムを築くかに向き合いました。機械論的な世界観や同化と言われる自身のメンタルモデルを保った学習方法は効果的ではありません。彼は、人中心におき、問題ではなくウェルビーイングに焦点をあてて、データに基づく意思決定を行うアプローチを実践しました。そのアプローチが、社会アクションリサーチ(SAR)です。

このアプローチでは、研究者を外部からの客観的な観察者として置くのではなく、研究者もまた社会システムの参加者であることを前提とします。また、研究者としての彼の貢献は、データを適切かつタイムリーに言語化する手段をメンバーに与えることです。言語を学んだメンバーたちは、自ら行動し、学び、適応していきます。こうした自己組織的な広がりの中で、ソーシャルネットワーク図やウェルビーイング指標、パフォーマンス指標などを見える化してフィードバックし、さらに有効な学びを拡大再生産していきます。

例えば、彼自身の会社では、精神障害をもつ人の雇用を積極的に行っていました。Kさんは自閉症をもつ人でしたが、入社から1年半ほど経過して、その社員のパフォーマンスは徐々に上がっていたものの、標準の2-3割くらいしか達成していませんでした。そこでサンドウは、Kさんの会社でのウェルビーイングについて、誰のおかげで改善、向上があったかを尋ねました。また、そこで名前の挙がった人に、どのようなことがウェルビーイングの改善につながったかなどを尋ねました。

最初は、ごく一部の共感性の高い人が関係性をつくり、仕事やウェルビーイングについてのサポートをもらっていることがわかりました。このデータや対話を他の社員たちとも共有することで、それまで、自閉症の人とどのように接してよいかわからなかったほかの社員たちは、具体的なエピソードをヒントに、何をすればKさんのウェルビーイングが高まるのか、自分にできることは何かを理解していきます。それから、Kさんにとってのソーシャルネットワークは加速的に広がっていき、それに比例するようにKさんの生産性もそれから1年3ヶ月の間に標準の8割のレベルまで高まっていきました。

このように、メンタルモデルそのものを新たに生成していくような学習を適応学習と呼びます。「適応」学習は探求的、発見的なものであり、既存のメンタルモデルにとらわれず、対話を中心にして行われるものです。これは既存のメンタルモデルを前提としてあてはめたり、追加したりして学ぶ「同化」とは対照的です。
 サンドウは、しばしばこのように問いかけます。「集団がそのウェルビーイングやパフォーマンスを高めているとき、その集団はどんなことを、どのように行っていますか?」と。それがうまくできない人にとっては未知であり、うまくできる人には暗黙知となっていて説明できないことに対して、問いを尋ね、その答えに耳を傾けることが基本プロセスとなっています。加えて、そうした会話の輪に誰がいれば、集合知を言語化し、フローを生み出すことが可能かを、ソーシャルネットワーク図によって構造化することで明らかにしていきます。彼のソーシャル・アクション・リサーチとそれを支える知識と学習の理論は、知識時代の自己組織化する組織システムの設計でとても有益な示唆を与えてくれます。

サンドウは、その研究を通じて、協働型社会システムが大きな価値創造の源であるだけでなく、価値創造を加速させる源であることを証明してきました。協調的な社会システムが自然な社会秩序であり、人間性の本質であるとも言います。
また、大きな価値と幸福を生み出す自然な社会構造なのに、なぜ私たちはそれを育んだり、理解したりすることにほとんど時間をかけないのかとも問いかけます。今、私たちは、認識の歴史において変革期を迎えているのです。機械論的な見方によって、私たちは組織を静的なものとして見てきましたが、実際には、人生そのものと同様に、組織は常に変化しているのです。また、組織のパフォーマンスは個人の貢献度によって決まると考えてきましたが、実際には、真の貢献は生命論的な社会システムにおける社会的な現象です。

そして最後に、歴史的にマネジメントは、組織の中で何を守るかよりも、むしろ組織の中で何を変えるかということだけに焦点を合わせてきたということを見てきました。今、変化の激しい時代において、組織が何を保全すべきか、何がイノベーションや価値創造の源泉になるのかについての再考を問いかけています。私自身もまた、デニス・サンドウとのコラボレーションを通じて、生きているシステムにおける集合知のフローについてじっくり考えたいと思っています。


以上

(前編はこちら)

Sandow and Allen, "The Nature of Social Collaboration: How Work Really Gets Done"
Sandow, "Introduction of Social Action Research"より編集

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