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新年のご挨拶2023

2023年01月05日

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新年あけましておめでとうございます
年頭に際し皆様のご健勝とご多幸を祈念申し上げます
本年もどうぞよろしくお願いします

さて、皆様にとって2022年はどのような年でしたでしょうか?
世界に目を向けると、昨年は新型コロナウィルスの変異種以外にもかく乱の多い年でした。大規模な山火事や洪水など気候変動の爪痕が多くの人の生命や生活に影響を与えた様子は記憶に残ります。プーチン政権によるウクライナ侵攻の影響は、直接的な武力衝突にとどまらず、世界の食糧問題やエネルギー問題に大きな余波を投げかけました。中国ではようやくゼロコロナ政策の見直したものの感染爆発が起きているように見受けますが、コロナ禍時代の労働状況ではさまざまな形で生産や物流のボトルネックが世界のここかしこに起こり、資源争奪やインフレに拍車をかけて世界の緊張感は高まり続けています。とりわけ、核や武力を背後に独裁政権がその領土や利権の主張を強めるパターンは世界で強化しており、日本においてもその余波を感じる年となりました。

昨年は戦地と地続きの欧州各国へ海外出張する機会があり、エネルギー問題や気候危機への対応に緊張感が強まっているのとは対照的に、高い免疫獲得率を背景に新型コロナウィルス対策は緩和され、飛行機やレストランでもマスク着用義務はなくなりました。これによって多くの同僚がコロナ感染を報告しながらも、数日で快復するパターンが増えています。

私が役員を務める2つの国際ネットワーク団体はそれぞれ、6月にはスウェーデン、9月はハンガリーで3年ぶりとなる国際会議を主催しました。70-80歳代の古参メンバーたちが自衛策を講じながら若者たちと盛んに議論をする様子を目の当たりにして、コロナ前とまったく同じではないにしても、今世界の多様な人たちが違いを越えて集い、本気で対話し、新しい動きを広める機運が高まっているのを肌で感じました。

昨年は、1972年の国連環境人間会議から50年、そして私たちの師であるデニス・メドウズ、ドネラ・メドウズらが『成長の限界』レポートから50年目の年でありました。実は下一桁が2の年には、文明を考える上での節目の年となっています。1992年リオで国連の環境サミットが開かれ気候変動枠組み条約や生物多様性条約が締結されました。2012年にはリオ+20サミットが行われてポストMDGsとして後の『持続可能な開発目標2030(SDGs)』の策定プロセスを開始する年でした。そして、2022年、ついに世界の人口が80億人に達して、未だ人口や経済の成長のために環境破壊や資源争奪などに歯止めがかからない状況に対する危機感から、不退転の決意で社会システムの変容(トランスフォーメーション)へ取り組む意気込みを強く実感しました。

世界だけでなく、日本でもまた、個人や組織の変容のうねりが着実に広がり始めています。関わらせていただいた企業、NPO・NGO、社会人大学院などの個人や組織が注目され、活躍する機会が増えてきました。喜ばしい限りであると共に、チェンジ・エージェント社が設立より普及啓発を図ってきたシステム思考、組織学習、対話、ビジョンなどの方法論がますますもって活用され、その必要性の認識が広まっていくのを感じています。

22世紀の歴史を振り返るとき、2020年代はもっとも重要な10年と位置づけられることでしょう。その鍵を握るのは、社会システムそのものの変容を導くような「ソーシャル・イノベーション」の広がりだと考えます。ソーシャル・イノベーションの一つの定義は、「その目的と手段に両方において社会的であるイノベーション」、つまり、社会によって認識された社会的ニーズに他の選択肢よりも効果的に対応することと、社会の行動する能力を強化し、また社会にとって善である、新たな社会的関係性や協働を創り出すことを同時に目指す新たなアイディア、製品、サービス、モデルなどです。近年の例としては、ウィキペディア、フェアトレード、マイクロクレジット、カーボンクレジット、MOOCなどが挙げられます。

ソーシャル・イノベーションの中でも注目したいのが、機会や課題からアイディア創出へ、そして開発と実験を経て実装され、さらには成長と普及を経て、その課題分野にとどまらず広く社会横断的な「システムチェンジ」にいたるイノベーションです。

私たちは、ソーシャル・イノベーションが、公共政策やビジネスの向社会的な取り組みが未だ十分な成果を出し切れていない分野で、これらに代替するのではなく、相乗的にシステム規模の変化を築く可能性を秘めており、今こそその価値を顕在化するときだと考えています。

このような変容をもたらす上で、チェンジ・エージェント社に何ができるかを考えたとき、私たちの強みを活かすのは、個人、組織、地域の変容がより大きなシステム規模の変容を導く集合的なリーダーシップ、つまり「システム・リーダーシップ」を広げることだと考えています。

ピーター・センゲは、システム・リーダーシップに求められる中核的な能力として、次の3つを掲げます。

  1. 自分たちを含めたより大きなシステムについて、見えやすいところだけでなく、他者の視点を含めて全体性を見ることを助ける能力(複雑性の理解)
  2. 互いに異なる立場をもつ関係者たちが、互いに内省的・生成的に聴き、話すことを促す能力(共創的な対話の展開)
  3. 集団の意識の焦点を、受け身・反応的な問題解決ではなく未来の共創へあてて、共有ビジョンがそれぞれの個人の志と重なり合うことを助ける能力(志の育成)

弊社がこれまでのシステム思考の実績を活かしつつ本年注力するのが、共創的な対話のためのファシリテーションです。1月には、アダム・カヘン『共に変容するファシリテーション』の日本語版を上梓します。3月には、アダムを招聘して同士の30年以上にわたるファシリテーションの極意をまとめた「変容型ファシリテーション」の講演とセミナーを開催します。さらには、アダムがCOP27に向けて気候変動アクションを促進するためにとりまとめた「ラディカル・コラボレーション」についての講演と対話イベントを開きます。これらの一連の活動が、日本に多様なプレイヤーたちがシステム規模の変容を図る一助になればと願っています。

環境問題や社会問題の多くは、誰かが悪者であるというよりも、それぞれの善意にかかわらず、システムの構造によって引き起こされています。そして、これらのあまたの問題、例えばSDGsの169のターゲットに個別に取り組んでいたのでは、十分なリソースは行き渡りません。これらの問題に共通の根本原因に焦点をあてて、システム横断で取り組まなければ、2030年までに十分な成果はままならないでしょう。

また、こうした問題が進まない一つの要因がリーダーシップの欠如です。しかし、多様な価値観のある社会の中で、トップが機関車のように牽引するリーダーシップは期待できないだけでなくむしろ害悪となるリスクがあります。これからは一人の英雄によるリーダーシップではなく、多くの人が違いを越えて協働を導くリーダーシップが未来を切り拓いていくと考えています。いわば、ファシリテーター型のリーダーが、異なる強みや役割をもつ多様なリーダーたちをつなげ、場を耕し、共に進化する生態系を築いていく時代となるでしょう。アダム・カヘンやピーター・センゲらから学んだファシリテーションの技法を、日本の文化に合わせながら実践、普及していくことに努めます。

至極当然ながら、社会の変容は、私どもだけで為しうることではありません。皆様もどうぞご一緒に、未来の可能性のビジョンを描き、粘り強く、実践、探求、学習を重ねる旅路に応援、ご参画いただけたら幸甚です。

本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

小田理一郎

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