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(社)熊谷青年会議所は、まもなく創立55周年を迎えます。また、市町村合併で大きくまちの未来が変わろうとしています。創立60周年をにらみ、まちづくり運動の方向性とアクションプランを定めよう!--そのために、海外でまちづくりや組織作りの基盤として実績のある「システム思考」のワークショップによるまちづくりを企画しました。
熊谷青年会議所では、メンバーがシステム思考を身につけ、システム思考の強みを活かしてまちづくりを進める全6回のワークショップをおこなうことにしました。ほぼ1カ月ごとに1回のペースで、メンバーが集まって全体でのワークショップを開催し、その間には各グループで宿題を進めます。そうして、6カ月間で熊谷青年会議所全体の行動計画を策定しよう、というものです。私たちチェンジ・エージェントが、そのプロセスをお手伝いしていきます。
今年最初の例会では、講師として呼ばれた枝廣が、150名を超える参加者に、システム思考の重要性とその考え方、システム思考で成功した事例などをお話し、その意義や基本を伝えました。
今回は、それから2週間後に開催された「明るく豊かな熊谷を創る行動計画づくり」ワークショップの第1回です。さまざまな事業に携わっているメンバー約25名が、仕事を終えてから集まりました。
システム思考のワークショップでは、「望ましい変化を創りだすプロセス」として、以下の流れを紹介します。
ビジョン策定 → 問題診断 → 解決策 → 戦略策定 → 実行
第1回のワークショップでは、このうちの「ビジョン策定」の部分に取り組みました。ここからの流れは小田が担当します。
このワークショップを始めるにあたり、メンバーは「自然環境」「人間環境」「地域環境」「教育環境」の4つのカテゴリーグループに分かれ、それぞれ熊谷市での現況について調査をおこないました。
ワークショップの冒頭は、この現況に関する情報共有に始まりました。各グループがそれぞれ、自分たちのカテゴリーに関する熊谷の現状をまとめて発表しました。詳細なデータをもとに30枚ものパワーポイント資料を作成して説明してくれたグループもあるなど、事前の準備にしっかりと時間をかけたようすが伝わり、真剣に今回のワークショップに取り組む姿勢がうかがえて嬉しかったです。
宿題発表の後、システム思考について話をしました。まず、恒例のゲームです。システム思考のワークショップでは、その論理を身体で実感するためにさまざまなゲームを行います。今回のゲームは「6本のつまようじ」です。(ゲームの内容は実際にやってみる機会のお楽しみに!
このゲームで皆さんに伝えたかったのは、「Out-of-Boxで考えよう」ということです。私たちが何かを行おうとするときには、前提をもって始めることが多いのですが、私たちが常識だと思っていることは実は常識ではない、ということも多いのです。Out-of-Boxで考える、つまり、そういう前提の箱から飛び出して考えるために、システム思考がたいへん役に立ちます。
今回のワークショップを通じて、箱の外に出て空間的・時間的広がりをもち、深く掘り下げた考え方ができるように、そして、そうした考え方をもとにしたまちづくりができるようにお手伝いしていきたいとお話しました。
それから、第1回のテーマである「ビジョンづくり」について説明しました。「よいビジョン」とは、
・具体的な目的地を示す
・手段ではなくより高次の目的につながる
・否定や他との比較ではない
・刺激的で行動を誘発する
という条件を備えているものです。
たとえば、自動車王ヘンリー・フォードは、「すべての人が車を持てるようにする」というビジョンのもとに、T型フォード車と現代的な生産システムの基礎を作り出しましたし、ジョン・F・ケネディは「1960年代が終わるまでに、人を月に送り込み無事に地球に帰還させる」というビジョンを掲げ、アポロ計画を成功させました。計画そのものの是非は別にして、ビジョンとしては非常にすぐれたものだったわけで、これが目的達成につながったのです。
まちづくりのビジョンの例もいくつか紹介しながら、それらに共通する「まちの役割とシステム」のモデルについて説明しました。
まちには、社会のアセット、経済のアセット、自然のアセット、ガバナンスの仕組みといった「アセット」(つまり資産、宝物)があり、それを使って、社会的幸福ニーズ、経済のニーズ、自然のニーズ、エンパワメントなどの「ニーズを充足」するという役割があります。
アセットをもとに行動を起こし、ニーズを充足して、その結果がまた新たにアセットを積み上げていく。いわゆる好循環です。こういう好循環を生み出すことがまちづくりにはとても重要なことなのです。システム思考ワークショップでは「望ましい変化を起こすために、どこにどのような好循環をつくりだせばよいか」を
考えていきます。
いよいよグループワークに入りました。さきほどの4つのグループに分かれ、模造紙やマジックペン、付箋紙などの置かれたテーブルを囲んで座ります。
まず1つめの課題です。各自が、自分たちのグループの担当するカテゴリーに関して、「理想の姿になると、○○○○が~~~になる」という文の○○○○に当てはまるものを考えてください、とお願いしました。
できるだけたくさん考えて、1つずつ付箋紙に書いてもらいました。5分間という時間制限を設けましたが、多いところではこの短い時間に20ぐらいの○○○○が出ました。理想の姿が具体的にたくさん浮かぶというのは、大切なことですね。
次に2つめの課題です。今度はその中から、大事に思うもの、ワクワクするものを選んでください、と言いました。各グループ3つずつを選んでもらいました。また、なぜそれを選んだのか、理由も説明できるように、とお願いしました。
どのグループも、この3つを選ぶのにかなり時間がかかったようです。3つを選ぶにあたって、ほとんどすべてのグループが、まず○○○○を書いた付箋紙を3つぐらいのテーマに分け、その中から重要なものを1つ選ぶ、という形を自然にとっていたのが興味深かったです。
次に、今選んだ3つの要素のうち1つについて、時系列変化を表したグラフを模造紙に描いてもらいました。縦軸に選んだ要素、横軸に時間をとり、時間の変化とともにその要素がどのように変化するかを描くもので、システム思考の基本ツールのひとつです。
過去から現在までの動きは実際にわかっていますから、現在地点までは、過去を表すグラフが描けます。現在から未来へは、2本の線を描きます。1本は、「このまま何もしなかった場合、将来どのような道をたどるか」を表した線です。もう1本は、「これまでの流れを変えようと努力した結果として、こうなってほしい」という動きを表す線です。このグラフを、システム思考では「時系列変化パターングラフ」と呼んでいます。
どのグループでも、どの指標のグラフを描くか、そしてどんな変化を望むのかについて、活発な話し合いが行われていました。もともとメンバーの皆さんは、このカテゴリーグループの中で精力的に活動してきているので、一人ひとりがこの理想の姿にはひとかたならぬ思い入れがあり、それが自然と活発な意見交換を生んでいるのでしょう。正しいビジョンを描くためには、この段階での活発な議論は不可欠です。各グループに自由に進めてもらいました。
その後、各グループのグラフの発表を行いました。自然環境グループの指標は、熊谷市の「ダイオキシンの量」です。教育環境グループは「つながり度」、地域環境グループは「人口」、人間環境グループは「コミュニケーション」を指標に選び、それぞれ、「このままいくとどうなるか」と「それをどう変えたいか」を描いたグラフを発表してくれました。
各グループの発表の後に、指標の選び方や、指標を選ぶ際やグラフを描く際のグループ内の認識や合意過程などについて確認をし、講評をしました。
最後に、来月のワークショップまでの宿題を出して、今回のワークショップは終了となりました。宿題は、次の3つです。
・残りの指標から3~5つを選んで、時系列変化パターングラフを描く。
・指標を理想のパターにするには、何が変わる必要があるかを考える
(できるだけたくさん)。
・指標が理想のパターンになると、どんなことが起こるかを考えてくる
(できるだけたくさん)。
次回のワークショップは、この宿題の発表から始めます。どんな発表が聞けるか、そのあとに、どのように展開して「まちづくり」につながっていくか、とても楽しみです。