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システム思考入門(9) 「システム思考と非システム思考の違い(1)」

2006年07月26日

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(image photo by Jeff Turner on flicker)


システム思考は、しばしば論理的思考などと比較されますが、どこが違うのでしょうか?

デニス・メドウズとドネラ・メドウズの教え子であるバリー・リッチモンドは、他の思考と比べてのシステム思考の特徴を次のようにまとめています。

1. 木ではなく森を見る
2. 静的ではなく、動的である
3. 一方通行の因果関係ではなく、循環(フィードバック・ループ)を重視する
4. システムの外部からの影響ではなく、内部で起こることに焦点をあてる
5. 要素の羅列ではなく、実際に起こるプロセスに注目する
6. 「測れるもの」ではなく、「大事なもの」に注目する
7. 何かを証明することではなく、目標の達成に役立つことを重視する

 今回と次回の2回に分けて、それぞれを詳しく見ていきましょう。

1. 木ではなく森を見る

システム思考は、「ビッグ・ピクチャー」(大局、全体像)を見る思考です。

私たちは困難な問題を目の前にしたとき、問題の起こった部分を虫眼鏡で細かく精査するようなことをしていないでしょうか? しかし、実際には、組織や社会のような複雑なシステムでは、原因は問題の近くにあるとは限りません。だとしたら、問題の近くを一生懸命探しても、ほんとうの原因や解決策は見つからないかもしれません。そういうときには、まず一歩下がって全体像を見てみることです。

森の中で1メートル先の木を見るのと、10km離れたところから森を眺めるのでは、見えるものがずいぶんと違います。また、木を一本ずつ見てすべてを足し合わせても、森の全体像を見ることにはなりません。「全体は部分の総和にあらず」と言いますが、森の営みは一本一本の木ではなく、そういった要素の関係性の全体が作り出しているからです。

私たちの身の回りや職場での問題も同じです。個々の顧客や商品にばかり目をやっていても、大きな変化を起こすことはできません。複雑な問題の解決には、部分にだけ注目するのではなく、全体と部分、部分と部分の関係性に注目することのほうがより大きな効果を生み出します。

2.静的ではなく、動的である

「複雑性」には、2つのタイプがあることをご存知ですか? 一方の複雑性は、「種類の複雑性」です。たとえば、森にはとてもたくさんの種類の木や植物があって、さまざまな種類の動物が暮らしています。土の中のバクテリアも森の一部です。たくさんの種類があることが複雑性を作りだしています。

ビジネスでも、マーケティングの視点から考えると、たくさんの異なるニーズやプロフィールをもった顧客がいます。また倉庫や工場には何千、何万もの種類の商品や部品・原材料があります。このようなタイプの複雑性に対して、私たちはしばしば「分類」をして整理します。そして特徴の異なるそれぞれのグループに対して、どのように対応するかを考えるのです。

しかし、この思考では、その時点でのスナップショットの状況に対応することができても、システムの中で起こる変化のパターンを予測するのには役立ちません。せいぜいグループごとにトレンドを分析して、その延長線を引いてみることしかできないでしょう。それでは、しばしば突然非線形の変化を起こすシステムには対応できません。

システム思考では、「種類の複雑性」を重視するのではなく、もうひとつのタイプの複雑性、「ダイナミックな複雑性」を重視します。「ダイナミックな複雑性」とはどのような複雑性なのでしょうか?

世の中のさまざまな変化は、いくつもの変化を引き起こす力の組み合わせから生じます。森には、新しく成長する木もあれば、枯れていく木もあります。一見、森全体は同じように見えても、その中では実はさまざまな力が働き、常に代謝を繰り返して、入れ変わっているのです。また、木同士、木と植物、そして動物など、あらゆる森の要素がお互いに影響を与え合って、ひとつの森という営みを作りだしています。このような営みの複雑性は種類を分類しても理解できません。

システム思考では、このような「ダイナミックな複雑性」を理解することによって、未来はどのようなパターンが起こりうつるかを考え、望ましい変化を引き起こすための働きかけを考えていきます。

3.一方通行の因果関係ではなく、循環(フィードバック・ループ)を重視する

論理的思考では、「原因Aによって、結果Bが起こる」と考えます。論理的思考を意識しなくても、学校でも会社でも、私たちはほとんどの場合、ものごとをこのように直線的に理解しようとしがちです。

しかし、これは"実験室の思考"といえるでしょう。時間の経過の全体像の中から、ごく一部分だけを切り出して見ているからです。人生にせよ、事業にせよ、継続するものごとにおいては、一方通行の因果関係で終わることはほとんどないといえるでしょう。

システム思考のもっとも大きな特徴は、循環(フィードバック・ループ)です。循環とは、「Aの結果、Bが起こり、Bの結果、Aが起こる」ということです。日本には、昔から「風が吹けば桶屋が儲かる」ということわざがありますが、システムの中で、ものごとは玉突きのように互いに影響を与え合って連鎖していきます。そして、その連鎖は、しばしば自分自身に帰ってくるのです。まさに、因果応報ですね。

東洋的、仏教的ともいえるこの循環の考え方は、システム思考の根幹をなしているといっても過言ではありません。そもそもシステム思考は、循環を続ける自然界の観察から得た洞察を、社会科学の分野に応用実践したものです。そして、自然界だけでなく、私たちのまわりの社会や組織にも、このような循環する現象は数多く見られます。

新しい細胞が生まれて、古い細胞が死んでいく。親が子を生み、その子がまた親となって子を生む。成功が失敗を生み、失敗が成功を生み出す(「禍福はあざなえる縄のごとし」という言葉もありますね)。目標との差が現実を変える行動につながり、目標が達成されたとき、あらたな理想が生まれる。――変化を生み出す力は、このような循環によって生み出されるのです。

(つづく  >システム思考と非システム思考の違い(2)


 

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