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■書籍『なぜあの人の解決策はいつもうまくいくのか』のご紹介
お待たせしました。
 システム思考の入門書がついに刊行され、書店に並びました。
 メルマガでは、本の内容を序章からの抜粋・編集で、ついで目次をご紹介します。
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『なぜあの人の解決策はいつもうまくいくのか?
     ―小さな力で大きく動かす!システム思考の上手な使い方』
 枝廣 淳子・小田 理一郎(東洋経済新報社)1,600円+税
 たとえばこんなこと、ありませんか?
低迷する売上げに大規模な販促キャンペーンを張ったところ、その期間は売上げが伸びたが、そのあとの落ち込みがひどく、より大きな赤字になってしまった......。
 本社で成果をあげた社員の動機付けプログラムを全国の支社に展開したところ、逆に士気が下がって困っているという苦情が続出した......。
何かを変えよう、何かの問題を解決しようと働きかけをした結果、その問題は解決したとしても、そのせいで別の問題が生じてしまったという経験はありませんか? または、その場では問題は解決したが、数週間、数カ月、数年たったあと、その大きなツケに見舞われる、ということもよく見られます。
 システム思考ではよく「昨日の解決策が今日の問題を生んでいる」といいます。真摯に問題に取り組み、せっかく解決したのに、別の問題が起きてしまう......。これは、一生懸命問題に取り組んだ人にとっても、その問題にかかわる状況や人々にとっても、残念な結果です。しかし、どんなに一生懸命であったとしても目の前の問題に取り組むだけでは、長期的には真の問題解決になっていないことが多いのです。
これまでのビジネススキルだけで生き残れるか?
「複雑性の時代」といわれるように、社会や経済のあらゆる面で複雑さが増してきています。そして今後さらに、加速度的に複雑さを増していくと考えられています。
 企業もこれまでは、外部の環境に対して、より早くより効率的に、パターン認識をして素早く正確に対応すればよかったのですが、環境や社会が複雑性を増し、関係する人々の動機や目標が多様化するなかで、すべての人に対する明らかな正解が見えなくなっています。
 このような状況では、「こういう状況なら、こう対応すればよい」という、パターン認識に基づく対応に終始していては、予期せぬ結果にびっくりしたり、足元をすくわれることにもなりかねません。外部からの刺激を受容して対応するというスタイルではなく、変化を予期する力、先手を打って対応する力、そして、望ましい変化を自分たちの手でつくる力が必要となってきているのです。
  そのためには、「新しいものの見方」が必要です。アインシュタインが「問題を作り出したのと同じレベルの思考では、その問題を解決することはできない」と言っているように、同じ問題状況を同じ見方で考えていては、現行の延長線上の改善しかでてきません。複雑で多元的・多層的な現実や状況に対して、「ある見方」だけをしていては、その全体像をとらえ、本質的な対応や変化を創り出すことはできません。「これまでとは違う見方」で見る力をつけることによってのみ、それまで気づかなかった物事のつながりや構造的な原因がわかり、真の問題解決を見出すことができるのです。システム思考はこのような「新しい視点」を提供してくれます。
システム思考=「学習する組織」の基盤
 環境や状況が複雑になればなるほど、どの面を切り出して考えているかによって、同じ状況に対する現状認識が違ってきます。つまり、状況を見ただけで現状認識を共有する、ということができなくなってきているのです。
 これまでの世界であれば、会社の課題は社員全員にとって明らかなものでした。ところが、現在はどうでしょうか? 「我が社にとって重大な課題は何か」の認識そのものが、社員一人ひとりによって違うのではないでしょうか。「自分たちが取り組まなくてはならない本当の問題は何なのか」「自分たちは何を見ているのか」という前提自体が合っていないために、何度会議を重ねても、建設的な議論ができずに、言い合いやフラストレーションのうちに終わってしまうことも多々あります。
  システム思考が「学習する組織」にとっての「第5の学習領域」と位置づけられ、重視されているのは、グループや組織にとっての「共通言語」となるためです。システム思考は、「思い込み」と呼ばれる人々の狭い見方を広げ、新しい視点で全体像を見ようとするものです。システム思考を用いることで、組織のメンバーはまず「自分のメンタルモデル」、つまり思い込みや世界観を認識し、次に、お互いのメンタルモデルを理解して、全体像の理解を深め、その結果、効果的な働きかけをいっしょに考えることができるようになります。
 システム思考は、「しなやかに強く、進化し続ける組織」をつくるための鍵を握っているとして、デュポン、BP、フォードなど、欧米の企業を中心に、組織づくりや社員研修の基盤として広く採用されています。工場や商品開発などの現場で活用することで、組織の学習を促し、新しい発想で戦略を立案、実行するなど、目覚ましい成果を挙げている事例が広く知られています。
小さい力で大きく動かす!
 翻って、これまで日本では、システム思考を体系的に導入し、教えるということはほとんどありませんでした。「学習する組織」というアプローチにおいて、日本企業は欧米や中国から取り残されてしまっているとも言われます。私たちは、このギャップを埋めたいと、年間約800人を対象にシステム思考トレーニングコースを実施し、約7千人を対象にシステム思考の講演やプレゼンテーションをおこなってきました。
  システム思考のトレーニングコースの受講者の多くは、
 「システム思考によって、見えなかったものが見えてきた」
 「自分のやっている働きかけや工夫が、どのポイントに介入しているのかを、目に見える形で表すことで理解できた」
 「近い所の直接の介入だけではなく、遠い所に介入できる可能性にも気がついた」
 「自分の思い込みがはっきりして、何をどうすればいいかイメージできた」
 「自分の発想を広げることに役に立つ」
 と、システム思考の有効性を実感しています。
 本書は、国内でトレーニングコースを開催してきた経験と、世界のシステム思考の第一人者たちのネットワークからの知見や洞察に基づき、「システム思考という言葉も聞いたことがない」という方々も、シンプルな形でその考え方を理解し、基本ツールを身につけ、活用できるようになるための本です。
  私たちは、問題に直面すると、その問題自体をつついたり押したりしがちですが、システム思考を用いることで、一歩引いて全体像を見ることができ、さまざまな気づきが生まれます。また、一見問題からは遠いと思えるかもしれないけど、小さな力でシステムを大きく動かせる有効なポイント(レバレッジ・ポイント)を見抜く力もついてくるでしょう。
 組織でも個人でも、システム思考を身につけることで、全体像を見る力、問題構造のツボを見抜く力、効果的な働きかけを考える力、組織内外で問題認識を共有する力を強めることができます。特に組織の中にあっては、システム思考は、問題を発見し、関係者で認識を共有することによって、真に効果的な働きかけをつくり出す力を与えてくれます。「システム思考は学習する組織の基盤」といわれるゆえんです。
さあ、システム思考を身につけ、自分自身に対し、また仕事や組織、地域、国や国際レベルで活用し、望ましい変化を生み出していきましょう。
 目次
 まえがき――小さな力で大きく動かそう!
  ある研究所の悩み/アイディア減少の悪循環/目先の解決策を追う危険
  構造を見極め、構造に働きかける/さらに新しい問題が....../ちょっとしたアイディアの妙
  改善と進歩への道――システム思考の新しい視点/二種類の複雑性
  システム思考=思い込みを排し、全体を見る
  新しいものを自由に生み出す力――右脳の時代に必須のスキル
  システム思考は究極の知恵/小さな力で大きく動かす!
 第1章 システム思考とは何か?――よいパターンを創り出す究極のツール
  たとえばこんなこと、ありませんか?/昨日の解決策が今日の問題を生む
  安易に「副作用」と言うけれど....../ロジカルだけでは不十分――こちらを立てればあちらが立たず
  世の中はルービックキューブ/渋滞を解消するには?/直線思考の限界
  「渋滞解消」のほかに何が起こるか?/真摯な意図とはうらはらに......
  自動車を脇目に、バスがスイスイ/有効な働きかけはしばしば直感に反する
  システムとは氷山――表面だけ見て一喜一憂の愚/よいパターンをつくれ
  製材所の浮沈――「困った、困った」は初めて?/構造をつかむには?
  人を責めない、自分を責めない/正しい「問い」を大事にする/レバレッジ・ポイントを探す
  システム本来の力を最大限に生かす /組織学習やコミュニケーションにも最適
 第2章 システム思考は難しくない!――世の中はシステムだらけです
  あなたもシステム、私もシステム /目に見えるもの、見えないもの
  システムの理解が必要なわけ /見えないものが見えてくる /まずは全体のパターン認識から
 第3章 最強ツール「時系列変化パターングラフ」で望ましい変化を創り出す
  何を変えたいのか――望ましい変化を書き出してみる
  ポイント①縦軸を書く――主観もグラフ化できる /ポイント②横軸を書く――必要な時間を考える
  ポイント③過去から未来を展望する /ポイント④「このままパターン」――対策をとらなかったら?
  ポイント⑤目標パターン――変数はどう変わるか /練習問題を解いてみましょう
  過去は変えられない。未来は変えられる /グループのためのツールとしても最適
 第4章 ループ図を使えば構造が見えてくる!
  まず構造を考えよう /つながり方に着目しよう /「同」と「逆」で整理する
  ループ図を活用しよう /「どんどん」「ますます」の自己強化型ループ
  安定を生み出すバランス型ループ /作ったループ図を読んでみよう
  ループ図を描いてみよう――構成要素をおさえればだれでも書ける!
  ルール① 変数は名詞で書く /ルール② 矢印は相関関係ではなく、因果関係
  ループ図作成のステップ /すべてがループになるとは限らない /スポーツジムの待ち時間
  二つのループは綱引きする /自分のループ図を書くコツ――変化を細大もらさず書いておく
  つながりからつながりへ /外からの影響に要注意 /迷ったときは分けてみる
  時間的遅れがある場合は明記する /範囲は狭すぎず、広すぎず /どこまで細かく見ればいいか
  ループ図に「正解」なし /人の意見を聞いてみよう
 第5章 強力な助っ人「システム原型」で現実の構造を見破る
  「あるある」パターンをおさえておこう /成長の頭打ち /モーレツ社員の憂鬱
  成長を加速しようとするな /制約要因を見出し弱めよ /「解決策」はなぜうまくいかないのか?
  短期と長期のアンバランス /急がば回れ! /「問題のすり替わり」――対症療法に注意
  「わかっちゃいるけど」をどう正す? /「ちょっと待てよ。本当の問題は何なんだ?」
  ある優良企業の悲劇 /ゆでガエル症候群――「じわじわ」の恐怖
  絶対的な目標を持ちましょう! /「勝ち組」はますます強くなる
  男性のほうが昇進しやすいのはなぜ? /機会の平等を確保せよ
  居酒屋のしゃべり声はなぜ大きい?――ものごとはエスカレートする
  100円バーガー戦略の無謀 /一点へのこだわりを捨てよ /仮説として利用しよう
 第6章 絶妙のツボ「レバレッジ・ポイント」を探せ!――小さな力で大きく変える
  どこに働きかけるか――レバレッジ・ポイントの妙味
  ニューヨーク市の治安改善はいかにしてなされたか? /地下鉄の落書きを清掃せよ!
  意外なところに答えが......――割れた窓理論 /レバレッジ・ポイントは多種多様
  1 変数(パラメータ)――数値を定める
  2 物理的なフローとストックの構造――計画段階が決め手
  3 情報のフローの構造――現実を見える化する
  4 ルールやインセンティブ――行動の促進と抑制 /5 目的――「何のために?」を自問する
  6 前提となっているパラダイム――「社会通念」や「常識」 /要するに「ツボ」のこと
 第7章 いざ、問題解決へ!――望ましい構造を創りだす
  目標パターンへの飛翔 /環境破壊はなぜ進む? /一通の目録から環境負荷が激減
  すでにある成功を探す /これからうまくいきそうなものを探す
  タコツボ克服は一杯のコーヒーから /「足を引っ張る構造」はないか
  悪循環を好循環にひっくり返す /デュポン社のムダとり戦略 /修理ループと予防保全ループ
  修理は問題のすり替わり /あるべき組織風土の希薄化
  火消しモードからの脱却を――「メンテナンス・ゲーム」の成果 /指令だけでは動かない
  システム思考自己実現バージョン /「やりがいループ」と「生活ループ」の確執
  成長の好循環づくりに成功
 第8章 システム思考の効用と実践手法――こんな場面で役に立つ!
  システム思考の効用① 「人や状況を責めない、自分を責めない」アプローチ /人を信じる
  自分観察のメリット /「メールどつぼループ」よ、さようなら /気分が楽になる
  システム思考の効用② 視野を広げ、従来の「思考の境界」を乗り越えられる
  長蛇の列、原因は? /「あちら側」に行く道は...... /認知の大切さ――「あの会は楽しいよ」
  「できなかったこと」を反省しない /理性だけでは動きません!
  システム思考の効用③ 無意識の前提を問い直すことができる
  「べき論」の悪循環 /過去の呪縛を解き放て――「自分との対話」を促す
  システム思考の効用④ 問題解決に役立つ時間軸を考えることができる
  すべてに時がある  /良くなる前に悪くなる /同志を増やそう
  システム思考の効用⑤ 問題解決につながるコミュニケーションが可能に
  「言い方」の問題は難しい /人よりも問題に集中
 第9章 最強の組織をつくる!――変化の時代に必須のスキル
  学習する組織の世界的潮流 /変化に適応するコンセプト
  シングルループ学習――フィードバック手法は効果絶大
  ダブルループ学習――創造的な変化を引き出す /聴くことが基本 /「脇におく」技術
  海のすばらしさを教えよ――心を揺さぶる志 /組織の外を見よ
  既存のリーダー像は通用しない /「船長」ではなく「設計者」
 第10章 システム思考を使いこなすコツ――実践のための七ヶ条 
  習うより慣れよ /最後に......
 システム思考をより深く知りたい人のために――システムの特徴
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2005年4月の会社設立以来、システム思考の講演やワークショップを全国2万人近くの人に紹介してきた内容が今回一冊の本という形になったことをとてもうれしく思っています。本書が、たくさんの方にシステム思考を知ってもらうきっかけになればと切に願っています。
昨日は、新コース「システム思考でエコな商品・アイディアを広げるマーケティング講座」を開催し、好評をいただいて終えることができました。今後も、新コースを開発、追加し、さまざまな目的でシステム思考を活用していただけるようにラインアップを充実させていきます。
来週には北米に出張して『学習する組織』に関する国際会議に参加し、その後メキシコでシステム思考のワークショップを開催します。日本で培った経験を、海外でもどんどん紹介していきたいと思っています。
『学習する組織』は、このメルマガでも随時紹介していきますので、どうぞお楽しみに!
                         チェンジ・エージェント
                          小田理一郎・枝廣淳子







