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小田理一郎×横山十祉子さん対談【3】システムアウェアネスのメリット~気づきと学習スピードを高めリーダーシップ能力を磨く

2018年05月16日

組織論のグールーであるピーター・センゲ氏曰く、学習する組織とは、「目的に向けて効果的な行動をとるための意識(アウェアネス)と能力(ケーパビリティ)を継続的に伸ばし続ける組織」です。個人及び集団としての意識を広げ、深めることは、組織システムや社会システムが目的を達成する上での大前提にあることがわかります。リーダーシップ開発や組織開発の分野では、心や身体からのアウェアネスを高めるアプローチへの注目が高まっています。そうしたアプローチの一つとして、深層心理学をベースに発展したプロセスワークを活用し、組織や社会などの集団、関係性、個人の間の相似性を見出す手法「システムアウェアネス」実践者の横山十祉子さんから話を伺いました。前回につづき、【3】ではシステムアウェアネスのメリットについてご紹介します。

小田
「身体センサー」と言う普段からわたしたちが持ち歩いているセンサーを使って、自分が新たに感じたことを起点にして新しい視点とか気づきを得ます。一方で、そこで得たことが本当に正しいのかに関して、どう確かめたり、その答えを知ることができるんでしょうか?
新しい視点や、新しい気づきが全て正しいのか、その辺はどのように考えますか?

横山
新しい視点が正しい、正しくないというより、その視点や立ち位置をどうやったら活かせるのかという風に考えています。そこには何が起きていて、ある関係の中で、その新しい気づきや視点がどう使えるのか、活かせるのか、そこをクリエイティブにさらけ出していきましょうという感じです。

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小田
よく自己マスタリーやリーダーシップの分野でも、ストレスとか緊張感をもったとき、どうそれらを解消するかについて、それぞれの人が行動レパートリーを持っていると思います。しかし、「ハンマーしかもっていなければすべてが釘にみえる」という英語のことわざがあるように、アウェアネスがないと自分がレパートリーを持つ行動を正当化するような間違った状況判断をしてしまいますよね。そのようなときに、気づけることや見えることが多く、よりくっきりしてきたら、この場合はどのツールを使おうと判断を広げられますよね。
学習する組織では意識を広げることの目的は、「意識が広がったこと=正しいこと」というよりも、自分がもっている選択肢の幅やその診断の幅を広げていくなかで、自ら選択することが基本にあると思います。

横山
さきほどのことわざを例にすると、例えば無自覚にハンマーを持っている人は、ハンマーを持っていると、気がついたら釘を叩いてしまうからとっさにひっこめますが、使っていないといいながらまた使ってしまうということを繰り返してしまうことがあります。そこに何が起きているか、例えばハンマーを振り下ろすとスカッとして気持ちいいとすると、ハンマーを振り下ろして釘をたたきたかったのではなくて、自分のパワーを使って気持ちよくなりたかったのかもしれないとわかります。
ハンマーは、使うとスカッとして気持ちよいすばらしいツールだけど、「今それを使ったほうがいいのか?どう使うといいのか?」という風に身体知や感覚も含めて、掘り下げながら理解していくことで、自分で気づいて取れる行動や選択肢を増やしていくのがシステムアウェアネスのプロセスのひとつだと思います。

小田
そうですよね、意識的に冷静に選択して、行動できるようになる以前に、わたしたちは常々無意識に、無自覚にいろんな行動をとっていますよね。とくに職場の人間関係や組織システム、のなかではよく起こります。
組織プロセスの中で無自覚にやって行動にアクセスしていくという意味では、メンタル・モデルのディシプリンと共通するところがありますね。ただメンタル・モデルのツールはどちらかというと自分の内省の意識を高めること、それを仮説として周りの人に話をしてみてフィードバックを得ること、あるいはお互いにメンタリングやコーチングをするといった行動習慣を身につけますが、これらは共通して、自分がどう言語化するかという枠をこえられないところがありますね。

人間のコミュニケーション全体のうち、言葉そのもので伝わるのは7%に過ぎないと言われます。同様に、同じものをみても気がつけることの量も、言葉で自分が理解している範囲で意味だけで一生懸命考えようとするところがあります。
だから、深層心理学で、身体知でアプローチすることは、気づきや学習のスピードをあげてくれるでしょう。あるいは考えてもわからない悩みの中にあるときというのは、この身体知のアプローチが突破口になりそうですね

横山
そうですね、そうおもいます。慣れてくると頭や言葉で考えることもしながら、身体が何を感じているかも踏まえて、どうするか知恵の幅が広がりますので、次どうするか選びやすくなる、そこのクリエイティビティがあがってくると思います。

小田
なるほど、システムアウェアネスを身につけた人の実践のメリットとしては、1つは思考と身体知その行き来、往来が自由になるという感じかもしれませんね。

横山
そうですね、変な無理がなくなるというか、無理をするとしても自分が無理をする理由が何かわかってきますね。意味のない無理なのか、意味のある無理なのか、うまく選択しながらよりストレスの少ない生き方ができるようになります。
何かを直線的に達成するために無駄なく生きましょうっていう意味では、いっぱい無駄をしているようにみえるかもしれません。ただし、絶対まっすぐ行けないのに固執して無理をしてやり続けるということはなくなりますよね。

小田
目の前に大きな壁があってその壁を必死で昇ろうとするのではなくて、ちょっと横に回ればすぐに向こう側にいけると気づける感覚ですね。
意味なく固執したり、無駄に自分を縛ってしまったりしていることもありますものね。
壁に気がついてないと、必至にもがいて昇っているのに自分のそうした状態すら気がついてないことも(!)
そういった意味では、リーダーの能力として、アウェアネスを広げる能力や、センサーの数を増やしたり、センサーをつかっていろいろ周りを感知できたり、システムの全体性を理解したり、何よりもそれを統合していけるという能力はこれからの複雑で不確実な時代に必要だと改めて感じます。リーダーシップ能力高めるということに密接に関係していると思いますが、どういうステージの人、どういう課題をもった人に奨めたいと思いますか?

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横山
様々な場面やレベルでのリーダーシップがありますが、本来リーダーシップのない人はいないと思っていますので、その能力が開いていけばいいなと思います。明らかに能力があるのに、何かのところでとまっているというのは、本人や組織自身が勝手に何かの型や過去の体験、風土のようなものに囚われている場合もあるので、そういう場合はメンタル・モデルを外すことでその能力が伸びることも多いのでお奨めしたいですね。

小田
話が少し変わるかもしれないのですが、最近は、リーダーシップの文脈でもマインドフルネスがアウェアネスを高めるのに有効と言われたりもしますね。マインドフルネスとシステムアウェアネスの関わりがあれば教えてください。

横山
マインドフルネスをどう定義してくかによりますが、マインドフルな状態は、禅の悟りや、瞑想状態、すごく落ち着いたいい状態を指すことがありますよね。
1つは、システムアウェアネスでは、その"状態"が自分にとってどんなものなのかというところにも同時にアウェアネスをもっていきます。単に、「今すごく落ち着いた静かでいい状態で、身体がリセットされているから明日からまたがんばって働こう」というだけではなくて、この静かな状態が自分にとって何なのか、を感じてみます。例えばそのすごくいい状態が「海みたいです」となったらじゃあその海(のロール)になってみます。その海は何をしたいのか海のようであるってことは何に使えるのか?それが生き方とどう関わっているか深掘りし感じて理解していきます。見方を変えるだけでなく、"状態"自体にも目を向けていきます。

もう1つは、マインドフルな状態への入っていき方も少し違います、一般的には執着や固執を手放して入っていきますが、逆に葛藤の中に入ってそこで見ていく方法をとります。いわゆる禅で言う悟りのような状態とか、瞑想のような状態を否定するつもりはまったくありませんが、システムアウェアネスでは手放していくかわりに飛び込んでいきます。葛藤の下にあるものはなんだろう?というところみていくっていうのが少し違うのかなと思いますね。葛藤の中に答えがあるという風に考えていますよね。

小田
気づき方にも色々ありますね。今伺ってとくに葛藤や紛争、対立等にありがちな人は、そういうリーダーシップを磨くのは、一つ面白いかもしれないですよね。
目の前の葛藤により効果的に対処できるという効果ともうひとつ、"状態"として葛藤ということへの向き合うとすると、また違った見方で葛藤を見られますね。

*** 最後に ***

小田
今回は、色々お話しをありがとうございました。アウェアネスを広げる事は、間違いなく、システム思考の視野や、視座を広げるし、メンタル・モデルに関しても広げたり、変容したりすることを助けると思いました。頭で考えていて、腑に落ちないっていうことってすごく多いあるいは何か後ろ髪引かれるようなことがあったりしますけれど、そういう構造に置かれている人が本当の選択肢をみるのはとっても大事だなと思います。
職場や組織開発の実践でシステムアウェアネスをつかってみたいと考えている方にメッセージがあればお願いします。

横山
一見「身体センサー」っていうと、すこし不思議に聞こえるかもしれませんが、本来みんな持っていて色々なものを感じています。それに少しだけ目を向け、感じてみるだけで、こんなに見えていなかったものが見えるということや、自分が本来これだけの知恵を持っているということが、すこしずつわかるきっかけになる体験になればと思います。私自身が何かするというよりその体験やプロセスを通じて、みなさんの知が華やぐ助けになれば嬉しいという思いでいます。

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横山さん、貴重なお話しをありがとうございました!

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