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アダム・カヘン氏講演 「合意できない人たちと未来を共創するには(前編)」

2018年11月06日

Adam Lecture181101.JPG2018年11月1日(木)アダム・カヘン氏の新著『敵とのコラボレーションーー賛同できない人、好きではない人、信頼できない人と協働する方法ーー』出版記念講演会を開催しました。平日夜の開催にもかかわらず、300名近いみなさまに足をお運びいただき、大変ありがとうございました。

以下、講演書き起こしをお届けします。


私の初来日は1986年、日本エネルギー経済研究所との仕事のためだった。以来32年間、定期的に日本を訪れている。今回は妻が初めて東京を訪ねることができたことを嬉しく思っている。

この度、新しい書籍が発売された。ここに書かれているモデルやアイデアが、日本の文脈でどのように役立つか知りたい。疑問に思うことや「おや?」と思うことなど、ぜひ知りたいと思う。

メキシコの事例

2014年9月、メキシコで43人の生徒が殺される事件があった。犯人のギャングをサポートしていたのは地元の政治家。同時期に現在の大統領が関係業者に700万ドルを費やして豪邸を建てさせたとして汚職で訴えられた。これにより50万人が抗議の行進に参加。自国の悪い治安、違法性、不平等をどうにかしようと長年取り組んできた人たちに、ついに分かったことがあった。この状態は、どんな一個人にも、どんな一団体にも変えられないのだ。変化に必要なのは、複数のプレイヤーによる合意、あるいはディールだった。

こうして33人のリーダーが集まった。男性と女性、右派と左派、与党や野党勢力、企業経営者、ジャーナリスト、アカデミア、教会の関係者や原住民の代表者など、意見も思想も全く違う人たちが集結した。お互いに賛同できず、好きにはなれず、信用もできない人たちだった。

2015年の9月、メキシコシティの郊外の街での集まりに、レオス・パートナーズが参加して準備を進めていた。参加者は皆、疑いの気持ちや自己防衛の気持ちを抱えて集結した。場をコントロールして、自分たちの望む変化を実現したいという気持ちと、同時にそれは不可能だという理解を抱えていた。敵対者、つまり「敵」とコラボレーションしなければならないことが分かっていたのだ。

金曜日に長く真剣な話し合いが行われた。今何が起きているのか、そして、何が起こりうるのか、皆がともに時間を過ごし、食事を共にして、いろいろなことを話し合った。土曜日の会議が終わる頃には何か共通の土壌が生まれつつあった。この国に何か変化をもたらすことができるかもしれないと、多くのメンバーは幸福な気持ちだった。しかし、運営チームのコアメンバーは満足していなかった。

日曜の朝、運営チームのカウンターパートはとても不満を抱えていて、私に対してその怒りを向けた。私は危険を感じた。これまでの実績や評判に傷がつく危険があると感じた私は、自己防衛的になった。彼らをプロジェクトの「敵」として見るようになった。彼らとはただ意見が合わないだけではなく、彼らは悪い人間で、彼らに消えて欲しい!と思ったのだ。

しかし、一週間ほどして落ち着いてきて考えた。何が起きていたのか? 私は、メキシコという国のマクロコズム(大きな環境)で起きていることとまるで同じものを、コアチームと言うマイクロコズム(小さな環境)に作り出していたのだ。私たちが創り出したダイナミクスはこうだ。違いが対立に、対立が二極化につながり、身動きが取れなくなり、そしてイライラが募る。結果として「敵化」が増幅されるばかりになっていった。

現在では、このメキシコのサポートチームは順調だ。これを支えていた人たちもいろいろな取り組みを進めている。LINEグループも活発だ。彼らの活動が知りたくて、私も毎日やり取りを見ている。気づいたことには、彼らはお互いに2年前と比べれば合意できているわけではない。しかし、お互いのことを以前よりも好きであり、信頼し合っている。このコラボレーションを通して、メキシコでの変化を可能にしたのだ。

この集団としてのキャパシティーの高まりが、1年前によく分かった。2017年9月の大地震の時だ。メキシコで私が参加している仕事のLINEグループが2つあった。1つは結成されて1ヶ月のチーム、もう1つが、今お話しした2年前から続いているチームだ。地震のあと、私は両方の会話を見ることができたのだが、同じ状況において、その会話の内容が全く違った。結成1ヶ月のチームがやりとりしていたのは、誰が悪いとか対応がお粗末だとか誰の汚職が原因だとか、誰が罰せられるべきだということ。一方で、2年間続いているチームでは、何トンの資材がどこにあるから、いつどこへ運べば良いとか、誰に声をかけようとか、協力と助け合いのための話し合いが、速く、そして効果的に行われていた。

今年の3月21日、メキシコシティで大規模な公開イベントがあり、彼らは連携をアナウンスした。この70名のメンバー全員が集まった。この(スライドの)メンバーだ。多様な人のチームだ。みなさんにとっては、それほどの意味を持たないかもしれない。しかし、メキシコの人たちにとって、この多様な人が集まり、メキシコの複雑な問題に取り組むことができていることは、今とは違う、より良いメキシコを作るためのコラボレーションが可能だという、生きた事例だ。

今日は、このメキシコの事例が象徴するような、私たちがレオスとそのパートナーたちと25年間にわたって取り組んできた中で学んできたことをお話ししたい。私たちは、南北アメリカや中東、アフリカ、アジアやオーストラリア、世界中の様々な場所で、企業、政府や市民団体、治安やエネルギーなどのリーダーたちと、長年にわたって活動してきた。多くの試行錯誤の機会があった。この学びを共有したい。

コラボレーションは簡単ではない

この25年間に私が学んだ最も大切なことは、コラボレーションが、私が思っていたほど単純ではないことだ。私が初の著作『手ごわい問題は対話で解決する』に書いた対話は、今となれば、非現実的なアイデアだったと言わざるを得ない。歴史的には、興味深いものだが。

私がメキシコで経験したことは"普通ではない"状況でのことだった。しかし、"普通の"状況においても同じダイナミクスが起きていると気づいた。組織の中でも、コミュニティ、家族においても起きている。ただ、"普通ではない"状況では明らかになることも、"普通の"状況では気づかない、当たり前のようになっている。そして、どちらにも共通して言えることは、コラボレーションの必要性は増し続けている。しかし、その困難さも増し続けている。

私たちの世界では、よく知られている現象として、さまざまな相互依存性が高まり続けていて、その中でヒエラルキーの持つ力は失われ続けている。より多くの人が声を上げることができ、一方的なアプローチはうまくいかなくなっている。他者の意図にかかわらず、強制によってモノゴトを思うように進めることが難しくなっている。これは、もっと多様な協力が、もっと頻繁に必要だということ、つまり、友人や仲間だけでなく「敵」との協力が必要になっているということだ。

コラボレーションの中心には、あるテンション(緊張関係)が存在する。協力という言葉は2つの意味を持つ。ここにある緊張構造に留意して欲しい。英語で「Collaborator(協力者)」というとき、辞書を引けば2つの意味がある。1つは、誰かと共にはたらくということ。グーグルの画像検索をかければ、素敵な画像が返ってくる。安全で、お互いに話を聞き合っていて、若い人たちがパステルカラーのシャツを着ている。しかし、この言葉、「Collaborator(協力者)」にはもう1つの画像、意味がある。裏切り者として敵に協力する人だ。検索結果の画像に、恐ろしいものがある。フランスやイギリスでナチスに関係していた者、服を破られ、髪を剃られ、裸足で道を歩いている。コラボレーションの、こうした画像が示す意味がある。コラボレーションとは、あなたにとって最も危険な行為でもあるのだ。

コラボレーションには2つの意味があり、そこには緊張関係がある。私が言いたいのは、 多様な人たちとコラボレーションするときに、この緊張関係が必然的に存在しているということだ。最も困難な問題を前進させるためには、多様なコラボレーションが必要だ。そして、同時に、裏切りを行いたくないならば、他者とコラボレーションしてはいけないということだ。

国際的にも、国内でも、コミュニティや職場、家庭の中でも、このコラボレーションの2つの側面の緊張関係が解消されなければ、そこから生まれるものは、断片化や鬼畜扱い、そして"敵化"だ。この中で、どのように多様な他者と協働し、緊張関係を解消していけば良いのだろう? これが私の問いだ。


中編:コラボレーションは唯一のオプションではない?


アダム・カヘン氏の新著『敵とのコラボレーションーー賛同できない人、好きではない人、信頼できない人と協働する方法ーー』好評発売中です。

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アダム・カヘン氏は、南アフリカでの白人政権や黒人政権へのスムースな移行、さまざまな派閥間で暴力的抗争や政治腐敗の続いたコロンビアの近年の復活、互いに敵対しがちなセクター横断でのサプライチェーン規模の取り組みなど、対立や葛藤状態にある複雑な課題を、対話ファシリテーションという平和的なアプローチで取り組み、成果を残してきました。

世界50カ国以上で企業の役員、政治家、軍人、ゲリラ、市民リーダー、コミュニティ活動家、国連職員など多岐に渡る人々と対話をかさねてきた、世界的ファシリテーターが直面した従来型の対話の限界。彼が試行錯誤のすえに編み出した新しいコラボレーションとは?

職場から、社会変革、家庭まで、意見の合わない人と協働して成し遂げなくてはならないことのある、すべての人へ。相手と「合意」はできなくても、異なる正義を抱えたままでも、共に前に進む方法を記した新著です。

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