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9月16日、組織学習協会(SoL)コミュニティの催しにて、ピーター・センゲが話しました。集まったのは、世界に広がるSoLコミュニティのメンバーとその呼びかけに応じた人たち約100人です。

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ピーターは、SoLの歴史から語り始めました。1990年『学習する組織(The Fifth Discipline)』を発刊して、翌年SoLの前進となる組織学習センターを立ち上げ、経営者、アカデミック、実践者たちが横断的に活動する場をつくります。最初の10年はもっぱらビジネスでの仕事でしたが、2000年頃から社会課題へのセクター横断的な取り組みに活動を広げていきます。

SoL及びGlobal SoLの共同設立者であり、多国籍企業シェルで長く経営の要職を務めた故アリー・デ・グースは、現状のパラダイムにおける資本主義や企業は環境問題や格差・分断による社会問題がその問題を強化していることを鋭く看破しました。生命システムのパラダイムに基づく資本主義や企業のあり方を探究していました。しかし、1990年代はもっぱら、企業内の志をもった個人の活動に頼る側面が多かったとピーターは振り返っています。

2000年から、ピーターはこうした志ある経営者たちとNGOセクターの経営者たちを集めたワークショップを開催し、セクター横断の深い対話を進めます。そうした活動の成果の一つが、2001年10月に出された「マーブルヘッドレター」でした。「社会の格差」「成長の再定義」「多様性と包摂性」「才能ある人材の獲得と潜在能力の開花」など、グローバルに活動する企業が取り組むべき課題を掲げ、それを進める上での企業のアカウンタビリティを問い直し、いかに経済社会システムとその構成要素が自らを見つめ、自己抑制に向けて調整するかについての課題意識をまとめたものでした。

リーマンショックが起こる以前の当時、そのレターはとても斬新的だったと言えるでしょう。しかし、ピーターはそれから2年ほどたっても、企業の経営者は、サステナビリティやCSRについて話したり、小規模なプロジェクトを行うばかりで、システム規模の変容にはほど遠い状況を嘆きます。そこで、中でも先進的な動きを図っていたユニリーバの役員、貧困に取り組むNGOオックスファムの代表の二人を、システム変容に取り組むシンクタンク機関のサステナビリティ研究所ハル・ハミルトンの元へと誘い、一緒に食料サプライチェーンシステムの変容についてできることを話し合います。この4人にさらに、資金を提供する財団と、ファシリテーターのアダム・カヘン、オットー・シャーマーらを加えて、「サステナブル・フード・ラボ(SFL)」を立ち上げます。

このラボでは、さまざまなセクターからシステム変容のために共に学び、革新的な活動に取り組もうとする40ほどの組織を五大陸横断で集め、中でも年間に20%以上の時間を使うコミットメントを持った人たちとワークショップやラーニング・ジャーニーを1年以上にわたって重ねていきます。このチームでは、大きな問題を抱えた食料システムの課題を徹底的に観察し、飽くことなく全体像を追求し、そしてシステム変容のレバレッジ・ポイントを希求しました。そのプロセスの中で重要視されたのが、社会課題に取り組む個人自身の変容であり、そのプロセスの設計を通じてU理論(Uプロセス)が誕生しました。

先日のピーターのトークにおいても、ピーターは今の文明が抱える社会問題、環境問題、悪化するにもかかわらず、やむことなく大量生産・消費・廃棄を加速する経済の問題について多く語りました。コロナ禍はこうした私たちの経済社会システムのもつ構造的な課題を明らかにすると共に、新型コロナウィルスすらも私たちが自然生態系を浸食する人の経済活動圏の広がりによってもたらされた現実を直視します。コロナ禍への対応による一連の問題も、気候変動も問題の症状であり、こうした問題を生み出す内在的な構造を見つめることが必要です。そしてその構造を創り出す根本には、私たちの内面が精神を軽視し、物質に過度に依存する私たちのパラダイムにあることを見つめる必要があります。

ピーターは、90分ほどのセッションの後半をもっぱら内省と対話に使いました。「嵐の中で、いかに立ち止まり、心の静けさを保つか?」「私たちは習慣化した思考や行動によって、ますます過去のパターンを繰り返す。なぜ今のように振る舞うのか、あるいは、取り巻く環境がどのように変化しているのか?」ピーターは、チリのマトゥラーナの言葉を引用し、「内省は、(今ここ)の瞬間に起こるものである」と内省の意義を語ります。

システムの全体像を観る、そして、そのシステムの一部を構築する自分たち自身を見つめるうえで、ピーターは、頭で考えるだけでなく、体と心を使う重要性を心得ています。単にシステムについて考えるだけでなく、システムを心と体で感じること。当事者としてのアウェアネスを広げ、高めていく「システム・アウェアネス」を重視します。

ピーターのファシリテーションでは、参加者たちに深呼吸や瞑想をすることで、自身の体とつながり、そして感情など、心が感じていることを見つめるように促します。リーダーシップ開発に取り組む上で、感情に流されてしまうのは望ましくない一方、感情をありのままに見つめることは、その奥にある自分自身のニーズや望ましい未来のかけらを見出し、自分自身の統合を図る重要な手かがりとなります。

「私たちはどこへ向かおうとしているのか?」 ピーターの投げかけた問いについて個々人が考えた後、4人ほどの小グループで一人1-2分で共有し、互いに聴きあい、残った時間で対話することを促します。

10分ほどのブレークアウトセッションを終えて、話したい人から一人ひとり共有していきます。ピーターは、頭をうなだれて聴きながらうなずき、共有することを促していきます。

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・「意図的にスローダウンすること」
・「今共に、息を吸い、息を吐いている、という気づき」
・「アウェアネスを高めて、みなとそこにいるという体験」
・「今何が起こっているかのアウェアネスを共同で高めることが共創につながる」
・「集合的な苦しみがある。まだ表層的にしか見れていない」
・「多くの抵抗は、聴いてもらえないことから生じる。互いの声を聴きあうことでつながる準備ができる」
・「大切なことにつながる」「互いにつながることは、調和をもたらす」
・「5つのディシプリンの実践は、私たちが努力して生命システムの出現させるレバレッジだ。しかし、まだそこに至るだけの社会の認識、イマジネーションが足りない」
・「目的はすべての生きとし生けるものへ貢献すること。社会のアライメントがまだされていない」
・「予測不可能なこと(への恐れ)を手放す」
・「人は生物種として制御する意志はあっても自らを制御する能力を身につけていない。制御は、他の生物種と共に、エコシステムを通じてなされるだろう」

二十数人ほどがコメント共有を終えて、ピーターは問いました。「もし今ここで生じていることが、ただの偶然ではないとしたら、あなたはどうする?」

30年ほど前に、「学習する組織」が体系化され、書籍として出版されたことも、また、世界に組織学習が広がったことも、偶然ではなかったでしょう。それは、単に時代が必要としているだけでなく、これからの新しい未来を共創していく上で、私たち一人ひとりが変容していく意味を見出し、紐解くガイドとなっていくのではないかと思います。

日々とっている私たちの行動は何か、なぜそれを行うのか? 私たちを取り巻く環境や創り出す結果はどう変化しているか? 内省し、互いにその内省を聴きあいながら、私たち個人が、組織が、国が、今起きている問題をありのままに見つめた上で、いかなる意味を見出すのか、どんな新しい価値を共創していくのか? 
改めて学習する組織の実践を深めていきたいと感じました。

(小田理一郎)

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