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News & Topics

学習する組織入門(10)「学習する組織の実践事例(3)」

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食料の供給量の伸びが鈍っている

(前回までは、それぞれの会社で「学習する組織」を導入した事例2つを紹介しましたが、今回はマルチ・ステークホルダーによる「学習する組織」の事例を紹介します。)

みなさんも食糧の価格高騰のニュースは新聞などでよくご存知のことかと思います。世界の投資マネーが商品市場に入ってきていること、あるいは原油価格の高騰と連動して穀物生産がバイオ燃料向けに転換していることなどが原因として挙げられています。しかし、その背景には、世界の人口増加とライフスタイルの変化から需要が伸び続けているのに対して、食糧の供給量の伸びが鈍っているという状況があります。そのために、構造的に需給のギャップが生じはじめ、世界の穀物在庫量はかろうじて物流パイプラインに必要な量ぎりぎりの状態になっているのです。

食糧供給量はかろうじて増加していますが、そのほとんどは作付面積あたりの収量増加によるものです。農地の開拓を新たに行っても、その面積と同じくらいの農地が砂漠化しており、農地面積は増えていません。収量増加のために、多くの農家は化学肥料や農薬の利用、あるいは灌漑を行います。ところが、短期的な収量増加策はほとんどが砂漠化をかえって加速してしまいます。加えて世界的な水不足、そして温暖化による正味収量効率の減少がこの問題に拍車をかけていきます。

「サステナブル・フード・ラボ」

一方で、世界の多くの農家は苦しい状況にあります。自由化の結果、この50年間で価格は大幅に低下し、ほとんどの農家は農業からは利益があがられない状態にあります。そのため、世界の各地で農村コミュニティの崩壊と都市部への人口流入によるスラム化の問題を作り出しています。

果たして世界の農業は、増え続ける人口を養うことができるのか? どうすれば持続可能な形で供給できるのか? 文明の存続を左右しかねないこの重要な問題を、食糧需給に詳しい研究者は以前から指摘してきました。しかし、多くの企業にとってはこの問題の規模があまりにも大きすぎるため、全体には影響の及ぼしようもないきわめて小規模のパイロットプロジェクトを行うか、手をこまねいて見ているしかなかったのです。

一企業としては大きなことはできない。しかし、ほかの企業や政府、NGO、生産者たちと一緒ならば、大きな変化が作れるのではないか? 2004年に、志をもつ人たちが集まり、自分たちの思いを呼びかけ文に託して、「サステナブル・フード・ラボ」という新しいプロジェクトを立ち上げたのです。当初さまざまなセクターから32名がこのプロジェクトに参加しました。

U理論の実践:48時間砂漠で過ごす、思索の旅~アイデアの提案、実行まで

途方もない大きな課題を前に、今までの思考で解決できるものならとうに誰かが解決していることでしょう。今までにない発想と行動を起こすためのクリエイティブなプロセスが必要です。このプロセスをデザインしたのが、システム思考でグローバルな問題解決を図るシンクタンクのサステナビリティ研究所と、「学習する組織」の普及をすすめるSoL(組織学習協会)でした。彼らは、アダム・カヘン氏とともに学習理論として注目されていたU理論を、このプロジェクトを通じて実践に移していきます。

このプロジェクトが最初に行ったのは、徹底的に観察することでした。システム思考を用いて、食糧にかかわるさまざまなプレイヤーの行動が、どのように全体を悪化させていくかを分析しました。さらに、「ラーニング・ジャーニー(学びの旅)」を行い、ブラジルの生産者たちのもとを訪ね、世界の食糧生産の問題を目の当たりにします。

多くの企業マネジャーや投資家にとって、生産の現場を見るのは初めてでした。現実の問題を前にして、さまざまな意見や感情が錯綜し、カオス的な状況に入っていきます。同時に、関係者の間でさまざまな視点の見方を共有することで、システムの全体像を理解しはじめます。

システム全体として破滅に向かうとわかっていながら、それぞれの利害関係者が自己の目の前の利益に執着している状況において、いかに自分たちの思い込みや固定観念を捨て、変われるかが最大のチャレンジとなります。ファシリテーターは、メンバーを米国アリゾナ州の砂漠に連れていき、それぞれが48時間を孤独に過ごす思索の旅へと送り出します。

そして、メンバーが孤独な旅から戻り、再びチームメンバーと一緒になったとき、一同で輪を作ってのダイアログが行われました。このプロセスを経て、多くのメンバーが自分の思い込みや固定観念から、自分を解き放ち、そして自ら変わる勇気をもつことができました。そして、そこには、自分は何のために働いているのか、自分は何をすべきかが明確になっていきます。

自分のなすべきことが明らかになったとき、仲間との対話は次々と創造的な思考を生み出します。チームは課題別のワーキンググループを作り、次々と今までになかったような新しいビジョンとコラボレーションのアイディアを提案し、実行に移していきます。

複雑な現実を受け入れ、自らを思い込みから解き放ったとき、情熱と創造性が浮かび上がる

ある大手小売に勤める社内弁護士は、いかに生産者への公正な支払いを行うかを課題として、サプライチェーン全体での損益状況の互いに開示するプロジェクトに取り組んでいました。交渉相手に損益状況を見せることは、どの会社にとっても簡単なことではありません。そこで法務担当者は、自分の会社を説得して、まっさきに開示し、ほかの会社の開示をとりつけます。その結果、生産者への支払額を見直して、「フェアトレード」といえるような取引構造を創り出しました。

法務担当者の熱意と創造性が、高いレベルでの会社のコミットメントを引き出すことに成功しました。この担当者は、このときの体験が原体験となって、会社の反対を押し切り、さまざまな品目の購買に責任を持つ仕事に変わりました。

これらのプロジェクトは、世界の食糧問題の大きさに比べると、いまだその成果は微々たるものですが、組織の改革という意味では着実な成果をあげ、現在でも進行中です。カルフール、コスコ、ユニリーバ、ハインツ、シスコなど、欧米の主要な食品を扱う業者たちがプロジェクトに参加し、食糧の明日のために、具体的なアクションに着手しています。今、これらの動きに刺激されて、世界最大の小売のウォルマートら中国の企業もこのプロジェクトへの参加を検討しています。

学習する組織の原動力は、つまるところ組織の一人ひとりの熱意、思いにあるといって差し支えないでしょう。複雑なシステムの現実を知ったとき、多くの人や企業は問題を否定したり、ほかの人がなんとかしてくれるだろうと考えがちです。しかし、その構造の中でとる行動は、かえって状況を悪化する悪循環に陥るばかりです。逆に、複雑な現実を受け入れ、自らを思い込みから解き放ったとき、底知れないほどの情熱と創造性が浮かび上がってきます。

学習する組織とは、意図的に人々の情熱と創造性に働きかけ、そこから生じた行動を省察することで学習し、変化の激しい時代に適応するとともに、しなやかさを創りだす組織なのです。


参考記事

サステナブル・フード・ラボの紹介
http://www.japanfs.org/ja/aboutus/event/pages/009530.html

世界の食糧システムに関するループ図
http://change-agent.jp/systemsthinking/casestudy_id000206.html
http://change-agent.jp/systemsthinking/casestudy_id000207.html

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