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コロナ禍について考える2021 (3)ストック&フローで考える

型コロナウィルス(COVID-19)感染で亡くなられた方のご冥福を祈り、また、闘病されている方とご家族へお見舞い申し上げます。医療や保健、生活インフラのために最前線で働かれる皆様には感謝申し上げます。また、行政の要請や需要変化など事業環境変化によって、転換する苦難の中にいる事業者、正規・非正規の従業員の皆様に、今の過渡期が乗り越えられるようエールを送ります。

私は医療・公衆衛生の専門家ではありませんが、システム思考や組織学習の視点から、医療や保健関連の方たちの出している知見、提言について、わかりやすく、意思決定者や市民の方たちにコミュニケーションをすることを意図しています。人の死を数字として扱う不遜をお許し頂きたく、何よりも一人でも多くの救える命を救うためにコラムを書いています。

小田理一郎

都道府県毎に発令される新型コロナウィルスに関わる緊急事態宣言ですが、全国で4回目の宣言が本日10月1日をもって解除されます。今後コロナ感染はどのようになっていくのでしょうか? 2020年4月29日のブログで「新型コロナウィルスをストック&フローで考える」と題して記事を書きました。
https://www.change-agent.jp/news/archives/001296.html

今回はその続編で、データを2021年9月29日までアップデートしたので報告します。

まず、ストック&フローについて説明します。システム思考/システムダイナミクスでは、関心のあるシステムをモデル化する際に、そのシステム内にある主要な変数を特定します。その中でも、蓄積するモノ、ヒト、カネ、仕事などを「ストック」変数に着目します。蓄積は流れるもの(流入と流出がある)によって増減するので、その蓄積に対して流入する変数を「インフロー」、蓄積から流出する変数を「アウトフロー」と呼び、それぞれ時間当たり単位で流入・流出ペースを把握します。

例えば、世界の「人口」(ストック)は、年当たり何人生まれたかの「出生数/年」(インフロー)で増加し、年当たり何人生まれたかの「死亡数/年」(アウトフロー)で減少します。都市の人口ならば、インフローには「転入者数/年」、アウトフローには「転出者数/年」を加えることができるでしょう。

疫病では、このストック&フローに相当するものをSIRモデル、SEIRモデルなどで表現します。そのSIRモデルをストック&フローとして表現すると以下の図の通りです。

図1:SIRモデルのストック&フロー図

COVID19JapanSIRStocksAndFlows.png

私たちが、報道で日々耳にするのは、1日当たりに報告された「新規感染」あるいは「死亡」の数、そしてそれぞれの累積数です。しかし、日々「回復」した人数やその累積数は一般の報道ではされることはまれです。(それでも最近は重症者数や入院者数で正味増減数を耳にするようになりました)

また、上図の中央にある「感染者数」は、累積感染者数とは異なります。違いは、ストック変数である感染者数は、未だ回復・死亡していない感染者だけを対象とし、ひとたび回復・死亡するとその分減少させます。別の言い方をすれば、累積感染者数から累積回復者数と累積志望者数を差し引いたものが、現在の「感染者数」にあたり、この数字が入院、療養施設、自宅療養などへの影響を与え、また感染を広げる可能性がある人数でもあります。

なお、行政の発表の数字は、あくまでも統計として「報告された」もののみです。新型コロナウィルスでは、概ね半分が無症状患者であると言われ、感染していることに気づかないケース、あるいは検査体制が不十分なために検査できずにカウントされていないケースがままあります。(報告と実態の違いについては、別のブログで紹介しています)
https://www.change-agent.jp/news/archives/001316.html

新型コロナウィルスについて、ストック&フローのネットワークとして観察するとどのようなことが見えてくるでしょうか。以下、Worldmeterという情報サイトは、早期から回復者数のデータやストックとしての感染者数の統計データを紹介します。https://www.worldometers.info/coronavirus/country/japan/

なお、本分析は、発症ベースでも、実態推計ベースでもなく、報告ベースであり、また、日本全体の数字で、地域、対象年代や基礎疾患の有無、ワクチン接種の有無などは行っていません。疫学的調査も加味していませんので、あくまでも日本全体の統計値のみの分析であることをご承知おき下さい。

フローの分析

図2:報告された感染者フロー(1日当たり症例数)

COVID19JapanFlows.png

報告には曜日による変動が大きいため、上記すべてのフローについて、直近7日間の移動平均に平準化しています。(タイミングが平均で3.5日前の情報になっています)

オレンジの線がインフローである「新規」感染数です。アウトフローの大半は緑色の「回復」であり、緑色の線がオレンジの線から遅れて生じている様子がわかります。全体としては、平均11日間程度の遅れですが、最近この日数が短縮する傾向があるようです。上のグラフでは目立ちませんが、黄色の線が「死亡」(アウトフロー)です。これら3つのフローを合計した「正味」フローが朱色です。この正味がプラス側の時にストックである感染者数は増加し、マイナス側の時に減少します。また、絶対値が大きいときほどストックの変化が急速になります。

第一波から第五波まで、新規感染は指数関数的な成長のパターンをとりながら、その急速な増加ゆえに市民、事業者、そして行政が対策を強化し、新規感染の伸びが鈍る間に回復のピークが遅れて訪れ、「アウトフロー>インフロー」になる頃から新規感染は低下していきます。

ストックの分析

ついで、ストックのグラフを見てみましょう。

図3:報告された感染者ストック(人)対新規感染(人/日)

COVID19JapanStock.png

青の縦棒が、報告された感染者数のストックを示します。軸は左側で、その日時点での人数が単位です。オレンジの折れ線は、新規感染数、軸は右側で人/日となっています。ぱっと見ですぐにわかることは、極めて相関が高いことであり、相関係数はr=.989(R2=97.8%)にもなります。これは、「新規感染が感染者数に追加され、感染者数が感受性人口との接触でさらなる新規感染を生み出す」という自己強化型のフィードバックによるものです。平均すると、ストック感染者一人1日当たり、0.09人の新規感染を生み出しています。(概念的には、この数字に、一人の感染者がストックとして滞留する日数を掛け合わせると、実効再生産数、つまり一人の感染者が新たな感染者数を再生産する人数となります)

図4:感染の再生産

InfectionReinforcing.png

よくグラフを精査してみると、先行するのは新規感染数だとわかります。新規感染のピークが来てから遅れて、感染者ストックのピークが来ています。また、下降傾向から反転して上昇に転ずる谷に関しても新規感染が先になります。

新規感染の先行指標を探る

感染者数の推移を見るに当たっては、この新規感染と感染者ストックが異なる動きをしている時期が鍵を握ることになりそうです。そこで、再生産の度合いを示す「感染者ストック当たりの新規感染数」を計算してグラフにして、新規感染数の対数グラフと並べてみました。

  新規感染数 = 感染者ストック x 感染者ストック当たりの新規感染数

図5:報告された新規感染数 対 感染者ストック当たりの新規感染数(日/人)

COVID19JapanReproduction1.png

感染者1人1日当たりの再生産数を示す赤の折れ線が上下動しています。新規感染数が急速に伸びる期間がしばらく続くと感染者ストック当たり新規感染数は減少に転じます。概ね、感染者ストック当たり0.1人/日以上だと急成長を見せますが、0.09人/程度まで下がると回復者数のピークが追いついてきて、以降ストック数の減少自体が新規感染数を下げる力になっています。一方、新規感染数が減少する期間がしばらく続くと、感染者ストック当たり新規感染数は上昇している様子がわかります。今までの傾向で言えば、底を打った状態から0.075人/日程度まであがってくると、新規感染数が反転して増加に向かいます。

行政の緊急事態宣言のタイミングやワクチン接種の普及状況と重ねるとどうなるでしょうか。

図6:感染者ストック当たりの新規感染数(日/人)と緊急事態宣言(上グラフ)・ワクチン接種状況(下グラフ)

COVID19JapanReproduction2.pngCOVID19JapanRepAndVaccine.png

グラフから読み取るに、第三波、第四波では、ストックの上昇局面かつ再生産しやすい状態がしばらく続いてからの宣言であり、あいにく後手に回った宣言となっていたようです。それでも、自然減とまでなっていなかった市民の反応を後押しして、そこから再生産する数を減少に向かわせています。

図7:再生産の抑制

InfectionBalancing.png

第五波に関しては、それまでの波よりピークが高くなっていますが、これは変異種デルタ株の影響もあったと言えるでしょう。従来の1.5倍とも2倍とも言われるデルタ株の感染力に対して、第四波対比でも2割増し程度で済んでいるのは、先手を打った宣言とワクチン接種の普及の影響(9月29日現在国民の59.4%が2回接種)があったのだろうと推察しますが、専門家はどのように見ているか伺ってみたいです。

しかし余談を許さない点が、宣言解除時点でのストック当たりの再生産の度合いを示すストック当たりの新規感染数が0.075人/日前後と十分下がり切っていないことです。このグラフを見る限りワクチン効果は新規感染数には現れておらず、変異種の感染力強化や自粛疲れと拮抗してしまっているように見受けます。第三波や第四波では、解除後同じくらいの数値レベルですぐに新規感染数が上昇に転じていました。ただし、今回違う点はいまだ1日当たりの回復者数が1000人を超えるペースがしばらく続くので、9月29日現在32,000人を超えるストックは減少基調にあることです。この感染者ストックの人数をどこまで減らせるかは次の緊急事態宣言がいつ頃になるかの一つの分かれ目になるでしょう。

アウトフローに関する考察

さて、ワクチンの効果は新規感染には正味では現れていませんでしたが、回復サイドには効果が出ているようです。まず、図8にあるように、アウトフローまでの滞留期間について当初2週間以上、平均で11日間ほどだった感染者としての滞留期間が第5波に関しては減少に向かっています。第五波の新規感染数が前週に比べて減少幅が大きく推移しているのは、この回復ペースの加速にあるのではないかと考えています。医療従事者の皆さんの努力による治療法の工夫、改善の積み重ねの効果は当然あるかと思います。この分析では、重症度に応じた区分をしていないのではっきりは言えませんが、感染者の中での軽症の割合が増加していることによって、平均ペースが上がっていることも考えられます。

図8:アウトフロー(人/日)と平均滞留日数(日)

COVID19JapanOutFlows.png

下記は日別の死亡数と、そしてアウトフローの合計(回復+死亡)に占める死亡の割合です。症例致死率(CFR)は、感染者数を母数にして死亡の割合を見る指標ですが、ここでは単純に出口時点で回復か死亡かの割合を見ています。継続中の疫病に関しての速報値の指標として示しました。

図9:死亡数(人)およびアウトフローに占める死亡比率(%)

COVID19JapanFatality.png

当初、分母が小さい頃はばらつきながらも15%前後で推移しました。これはパンデミックの初期であることに加えて、検査が追いつかず回復者数の人数が低く見積もられていることも要因でしょう。その後、20年夏頃までには2%前後に落ち着き、さらに高齢者向けのワクチン接種が進んだ21年8月以降では0.5%前後まで下がっています。世界各国の調査でも、症例致死率は0.5%と考えられていることとも合致します。

気がかりなのは、時よりその割合に高い山が生じることです。回復の期間の方が死亡に至る期間よりも短いので、新規感染のピークからより遅れのある死亡数がなかなか減らないことに対して回復は速いペースで減少していることが一因でしょう。それでも、前後のへこみを考慮しても山の部分の面積が大きいことを考えるならば、医療体制が逼迫していた時期に発症している人たちに対して、相対的に死亡の割合が高くなってしまっていることを伺わせます。

施策に関する考察

ここまで、ストック&フローの指標を用いて、日本での新型コロナウィルスの推移を見てきましたが、こうした指標の動きを見ながら、施策に関しても新しい展開を期待します。今まで、新規感染や感染者の移入を防ぎ隔離するインフロー側の施策に重点が置かれていましたが、今後はよりアウトフロー側を重視する施策が必要でしょう。

下図は、インフロー、アウトフローのそれぞれのサイドで展開されてきた主要な施策を、ストック&フロー図上に書き出したものです。黒は、昨年の春実施していた主要施策、緑は現在展開している施策、そして赤は今まで実施されていることはあるものも含めて今後特に強化されたい施策です。

図10:ストック&フロー図と考えうる主要な施策

COVID19JapanPolicyAnalysis.png

ワクチンが治験で確認した効能を考えるならば、接種後も感染者数は増える可能性が大きく、また、経済対策から人流を増やそうとする圧力も高まり、新規感染サイドは今のままなら増減の拮抗する可能性が高いです。欧州に見られる衛生パスなど、検査体制の拡充と合わせて、人流が高くなっても、増加を抑制する施策を合わせて打つ必要があるでしょう。今回のようなマクロな数理分析では、そうした施策の効果を評価するのは難しく、実証実験ないしはベースラインとの比較が望まれます。

その一方で、追加的なレバレッジはアウトフロー側に多く、医療体制の充実で死亡率を低く抑えることと加えて、治療薬・治療法のさらなる改善を行えば、致死率の低下や回復期間などの減少などの効果も確かめやすく、感染者数ストックの増加を抑えることで、結果的に新規感染数の抑制にもつながります。

個人の感想的なコメントではありますが、新型コロナウィルスに対峙する医療従事者の献身的な努力で多く助けられており、感謝の念に堪えません。日本のお家芸の現場力がここでも活かされていると実感します。そうした現場の頑張りに応えるべく、地域医療体制などより構造的、大局的な施策の展開に期待したいところです。

小田理一郎

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