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社会的インパクトを共創する連続講座を開催しました― システム思考 × 変化の理論 × アウトカムと指標
2025年12月から2026年2月にかけて、「社会的インパクトを共創する連続講座 ― システム思考 × 変化の理論 × アウトカムと指標」を開催しました。企業、NPO、研究機関など多様な分野から参加者が集まり、社会課題や組織課題の背後にある構造を読み解き、望ましい変化を設計し、その成果を測定する方法を学びました。
本講座は、複雑な社会課題に向き合うための実践的な方法論として、システム思考、変化の理論(Theory of Change)、社会的インパクト測定という3つのアプローチを体系的に学ぶ連続プログラムとして企画されたものです。
社会変革の基盤となるシステム思考
チェンジ・エージェントでは2005年の創業以来、変化の激しい時代において望ましい変化を生み出すためのものの見方・考え方として、システム思考のセミナーを提供してきました。システム思考は、複雑な社会や組織の中で問題の「症状」に対処するだけでなく、その背後にある「構造」を理解し、より効果的な変化を生み出すための重要な視点です。今回の講座では、社会的インパクト創出の取り組みにおいて、システム思考を出発点として活用する方法を紹介しました。

ロジックモデルだけでは捉えきれない社会システム
社会課題の解決に関わるプレイヤーは近年大きく広がっています。従来は政府やNGO・NPOなど行政・市民セクターが中心でしたが、気候変動や社会情勢の変化の影響は企業や投資家にも広がり、社会課題への取り組みは多様な主体の協働によって進められるようになっています。
こうした背景の中で重要になるのが、問題の理解や目指す変化についての共通理解をつくることです。そのための方法論として広く活用されているのが「変化の理論(Theory of Change)」です。変化の理論は、望ましい変化がなぜ、どのように起こるのかを整理することで、関係者の共通理解を生み出し、協働の基盤をつくる方法です。しばしばロジックモデルという形式で表現されます。
ロジックモデルでは、
投入(インプット) → 活動(アクティビティ) → 産出(アウトプット) → 成果(アウトカム)
という因果関係を整理することで、活動がどのように成果につながるかを明示します。
一方で、現実の社会課題はこのような線形の因果関係だけでは説明できない複雑さを持っています。複数の利害関係者が存在し、さまざまな要因が相互作用しながら変化が生まれるからです。そこで重要になるのがシステム思考です。
システム思考は、社会システムの中に存在するフィードバックによる循環構造、蓄積の構造、時間的遅れといった要素を考慮しながら、現実の構造を可視化する方法です。まずシステム思考を使って「今の現実(As Is)」の構造を理解し、その上で「望ましい状態(To Be)」を描く。そこから必要な成果や活動を整理していくことで、より実効性の高い変化の理論を描くことが可能になります。
第1講:システム原型を通じて構造を理解する
連続講座の第1講では、こうした複雑な現実の理解を深めるための基盤として、システム思考を扱いました。特に重点的に取り上げたのがシステム原型です。
システム原型は、複雑なシステム構造をいくつかの典型的なパターンとして整理したものです。高度なシステムモデリングに比べ、比較的少ない訓練で、ビジネスパーソンや市民など多様な関係者がシステムの構造について対話することを助ける方法として世界中で活用されています。
講座では、氷山モデル、フィードバック構造、複数のシステム原型などを取り上げながら、実際の社会課題や組織課題を題材とした演習を行いました。

第2講・第3講:変化の理論、インパクト測定へ
連続講座の第2講では、社会課題に対してどのような変化の道筋を描くかを整理する「変化の理論(TOC)」を扱いました。課題の構造を理解すると共に、受益者や関係者たちにとって何が「望ましい未来」かについてビジョンの構築も重要です。ひとたび現在地(今の現実)と目的地(望ましい未来)が明らかになったならば、どのような道筋を短期、中期、長期に経て進むか――その見取り図とも言えるのが「変化の理論(TOC)」です。関係者たちの戦略共有や進捗経過のベースとなる変化の理論をNEFコンサルティングの推奨するアウトカムマップを用いて実践的に学びました。
第3講では、特定したアウトカム(成果)の、その進捗を確認するために指標を設計します。社会アウトカム、環境アウトカム、経済アウトカムなどについて、どのように指標を設計するか、あるいは、受益者たちの自助や複数の事業者がある中で、どれくらいが特定の組織や取り組みの実質的な貢献なのかを見極めます。説明責任及び改善のために求められる指標の設計や測定について、英国NEFコンサルティングの提唱するインパクトマップをもとに適宜事例を追加して指標設計と測定の実務について紹介しました。
構造を理解する(システム思考)
↓
変化の戦略を描く(変化の理論)
↓
成果を測定する(アウトカムと指標)
という一連のプロセスを演習を通して体験的に学び、「システム変容(システムチェンジ)」の理解を深めるとともに、その活用の可能性を探っていきました。

参加者は現実の課題を題材に構造を分析
各講座では、参加者自身が持ち寄った課題を題材にグループワークを行いました。限られた時間の中で、各グループはループ図やパターン変化を示すグラフなど、インパクトマップ、アウトカムマップなど各種フレームワークを用いながら問題の構造を可視化していきました。
議論は試行錯誤の連続でした。メモや図を何度も書き直しながら、互いの視点を持ち寄って課題の背後にある因果関係を探っていく様子が見られました。
最後には各グループでまとめた結果を発表しました。当初は個別の問題として捉えていた課題が、別の視点からシステムとして捉え直されることで、新たな発見やアイディアにつながったという声も聞かれました。
アンケートでは参加者から次のような声が寄せられました。
- 基本概念の解説だけでなく、リアルな題材とワークの実践が楽しかった
- 多様なバックグラウンドの参加者と演習できたことが刺激になった
- 異なるセクターの人たちと認識が合っていく感覚が楽しかった
- ループ図やTOCが完成していく中で、実際の現場で活用する際の勘所を得られた

日本では、社会的インパクトの測定も、変化の理論も、データのインフラや事例はまだまだ限定的ですが、今回皆様と共に方法論を学んだことをきっかけとなって日本国内での実践コミュニティの形成やソーシャルイノベーションの発展につながるようならばうれしく思います。
今回の講座は来年度も下期に予定しております。社会的インパクトをつくり出そうという取り組みにおいて、より多くの関係者たちとうまく協働し「現実の望ましい変化」、システムチェンジにつなげるための方法論として、システム思考、変化の理論、社会的インパクトの測定を学ぶ機会としてご活用いただけましたら幸いです。