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オットー・シャーマー 「今の時代の盲点を考察する」(3)

2008年07月02日

U:1つのプロセス、5つの動き

反応的な領域1または2から、生成的な領域3または4へと移行するためには、私たちは「旅」に出なければならない。

150人の実務家と思想的リーダーを対象にした、重大な革新と変化に関するインタビュープロジェクトの中で、多くの実務家が、この旅のさまざまな中核的要素について説明してくれた。とりわけ親しみやすい言葉でそれを説明してくれたのが、サンタフェ研究所の経済学グループを創設し、そのリーダーを務めるブライアン・アーサーであった。

ジョセフ・ジャウォースキーと私が訪問したとき、アーサーは、認知には基本的に異なる2つの源があると説明してくれた。ひとつは、既存の枠組みを当てはめること(ダウンロード)であり、もうひとつは、人の内なる叡智に近づくことだ。科学やビジネス、社会における真の革新は、すべて後者に基づき、日常的に行われているダウンロードのような認知からは革新は生まれない。

そこで私たちはアーサーにこう質問した。「どのように内なる叡智を得ることができるのですか? もしも私が、組織として、あるいは個人として、その方法を学びたいと思ったら、何をしなくてはいけないのでしょうか?」 アーサーは答えの中で、私たちに、一連の3つの中核となる動作を紹介してくれた。

ひとつめの動作は、「ひたすら観察する」ことだと言った。つまり、ダウンロードするのをやめ、聞き始めること。習慣的な行動作法をやめて、最も可能性の高い場所、つまり私たちが対処している状況に最も重要となる場所にどっぷりと浸ることである。

2つめの動作を、ブライアン・アーサーは「一歩下がってじっくり考える:内なる叡智を出現させる」と呼んだ。知が表面に浮かび上がってくる、内なる静寂の場所に行くのである。「ひたすら観察する」間に私たちが学んだすべてに耳を傾け、出現したがっているものに注意を払う。私たち自身の役割と旅についてとくに注意を払う。

ブライアン・アーサーによれば、3つめの動きは、「その瞬間に行動する」ことである。つまり、行為によって未来を探るために、新しいことのプロトタイプ(原型)を作り出すことだ。実地テストや実験を可能にする、未来の小さな滑走路を創り出すのである。

このプロセス全体――ひたすら観察する、静寂と知の根源に近づく、その瞬間に行動する――を、私はUプロセスと呼ぶようになった。U字型の旅として描き、理解することができるからである。実際には、U字型の旅には通常、さらに2つの動作が必要となる。共通の基盤を構築する初期の段階(共始動)と、実際の結果を見直し、持続し、さらに進歩させることに重点を置く最終段階(共進化)である。U字型の旅の5つの動きは、図3のように描き表される。


図3.5つの動作による1つのプロセスとしてのU:

領域1または2から領域3または4の行動に移行するためには、私たちはまず、その世界や内側から出現する内なる叡智の場所と親密につながり、その後、実践を通じて未来を発見することで、新しいことを生み出す。


1.共始動:共通の意志を構築する。立ち止まって、他者に耳を傾け、人生があなたに求めていることに耳を傾ける。

各プロジェクトの初めには、まず一人または数人の主要メンバーが、自分たちや自分たちのコミュニティにとって大事な問題を何とかしたいという意図をもって集まる。彼らが団結して中核グループを形成すると、目的、参加してもらいたい人々、利用するプロセスをめぐって、共通の意志を整える。そのような中核グループを作るのは、深い傾聴――生き方が自分や他者に求めていることに耳を傾けるプロセスである。

2.共感知:ひたすら観察する。もっとも潜在性を秘めた場所に行き、自分の意識と心をオープンにして、耳を傾ける。

 転換的な変化を阻害するのは、ビジョンの欠如でもアイディアの欠乏でもなく、感知(センス)できないこと――つまり、深く、鋭く、グループで一緒に見ることができないことだ。グループのメンバーが、そろって深く、明確に見ることができれば、グループ全体としての潜在可能性に気づく――まるで、新たな集団としての「眼」が開かれたかのように。ゲーテはそのことを雄弁に語る。「どんなものでも、じっと見ていると、私たちの中にある新たな感覚器を解き放つ」

認知科学者の故フランシスコ・ヴァレラはかつて私に、生まれたばかりでまだ目の開かない子猫を使った実験の話をしてくれた。2匹の子猫を対として、1匹の猫をもう一匹の猫の背中に載せて、下の猫だけが動けるようにした。両方の子猫が同じ空間的動きをするのだが、足を動かしているのはいつも下の猫だった。この実験の結果、下の猫は正常に視覚を身につけたが、上の猫は正常ではなかった。視覚の発達は不十分かつ遅れていたのだ。この実験から、見る能力は生物全体の活動によって発達するということがわかる。

知識経営、戦略、革新、学習を進めるにあたって、私たちは上に載っている子猫のようなものだ。足の動作を、専門家やコンサルタント、教師に外注し、世界がどのように機能するかを教えてもらっている。単純な問題であれば、これは適切なやり方かもしれない。だが、革新に携わっているのであれば、上の猫のやり方はまったく機能しない。真のイノベーターなら誰であっても、けして外注に出さないのが、感覚だ。革新を実行する際には、私たちは自ら現場に赴き、人々と話をし、課題が展開するにつれてそれに絶えず離れないようにしなければならない。現場の状況と直接つながっていなければ、効果的な見方も行動も身につけることはできないのだ。

私たちの組織や社会に最も欠けているものは、このように深く見ること――感じること――を集団として、そして垣根を越えて行うための一連の行動作法である。感じることができれば、そのグループ全体が、出現しつつある機会と、問題となっている重要なシステムの力学を見ることができるのである。

(次回に続く)


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