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袋小路からの脱出(6)「成長の限界」

2010年05月01日

000359-01.png(image photo by IkT on flicker)

(生産性新聞に寄稿した「袋小路からの脱出」シリーズを、同紙の快諾を得てご紹介します。)


「成長の限界」

ビジネスでもっともよく見られる問題構造の一つが「成長の限界」です。

ヒット商品は、ティッピング・ポイントを超えると、口コミなどによって顧客が顧客を増やす自己強化型ループが支配的になります。その結果、急速な成長が起こります。

事業戦略に関して言えば、事業で得た収益を、コスト競争力、製品開発力、販売力など自社のコア・コンピタンスに再投資することでますます収益を上げます。

しかし、いつまでも成長するわけではありません。必ず限界を迎えます。

限界は成長に抵抗するバランス型ループによってもたらされます。対象市場のすべての潜在顧客が顧客に変わるか、商品提供に必要な資源が枯渇するとそれ以上は成長しません。

成長が次々とボトルネックを生み出す

しかし、限界は飽和による絶対的なものばかりではありません。むしろ、飽和よりも遙かに早く限界を迎えるほうが常です。

ベンチャーなど成長企業によく見られるのは、顧客の急速な拡大による、サービスや生産などのキャパシティの不足です。その結果、サービスの質の低下や、納期の長期化・遅れによって商品の魅力が下がり、顧客離れが生じます。

必死に問題解決を図って目の前のボトルネックを外しても、商品が魅力的であれば自己強化型ループが強く働き、さらなる成長が次々とボトルネックを生み出します。

人事部門も必死に採用をしますが、仕事に慣れていない新規採用者は当初は戦力低下要因になり、平均的な仕事の質が低下します。しまいには、急激に拡大した組織をマネジメントする能力が限界要因となります。

次々と現れる限界に対応しきれなくなった組織は成長が止まり、安定期への移行を見誤ると、過度の負担による燃えつきや成長を前提とした報酬システムの行き詰まりなどから急激に崩壊することすらあります。実際多くの成長企業が、一世を風靡しながらも、こういったパターンのバリエーションで消えていきました。

バランス型ループの中に潜むボトルネックを外す

では、どうすれば潜在規模までの持続的な成長ができるのでしょうか?

成長が鈍化し始めた企業の多くは、今までの成功パターンの自己強化型ループを強く回そうとします。もっと資源投下を、もっと効率的に、もっとスピードアップを、と。

しかし、成長の限界という問題構造においては、これらはすべて無駄な努力に終わるか、自らの首を絞めるばかりです。

成長の鈍化の原因であるバランス型ループはブレーキのようなもの。サイドブレーキを引いたままアクセルを踏んでも前には進みません。必要なのはブレーキの原因となるボトルネックを見つけ出して外すことなのです。

但し、急速な成長のもとでは、ボトルネック外しも間に合いません。サービスや生産設備の拡張にも、組織能力の開発にも時間がかかるからです。問題が出てからはずせばいいと考えていると、成長によってあっという間に限界に達して、後追いの対応に追われます。

急速な成長のもとで打つべき2つの手立て

このような事態を打開する手立ては二つ。

一つは、かかる期間を見越して、成長に先んじてキャパシティや組織能力を広げること。リスクの見極めが肝心になります。

もう一つは、自ら成長速度を緩めることです。価格を上げる、新商品投下を遅らせる、販売目標を抑えるなど、自ら成長速度をコントロールすれば、より確実にキャパシティを広げながらの、持続的な成長が可能です。

「成長中毒」にかかっているとなかなかできない対応ですが、複雑なシステムでは「ゆっくり進むのがもっとも早い」ものなのです。


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