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システム思考で問題を解決する(1)「望ましいループをつくり出す」

2011年05月12日

システム構造の変え方

システムを変えるときの全般的な戦略には、(1)望ましいループをつくり出す、(2)望ましいループを強める、(3)望ましくないループを断つ、(4)望ましくないループを弱める、(5)構造は変えずに悪循環を好循環にひっくり返すなどがあります。実際の例を見ていきましょう。

問題の構造を特定する

かつて、米国の環境保護庁が頭を悩ませていた問題がありました。産業界(特に化学産業)が、産業活動によって利益を上げ、ビジネスを拡張すればするほど、そのプロセスで有害化学物質が大気中や水中に排出され、環境を汚染してしまっていたのです。

環境保護庁はどうやってこの問題を解決したのでしょうか?

まず、現状の問題構造をループ図にすると、図1のようになります。まず上半分から、たどりながら読んでみてください。

koramu_kagakusangyoutokankyou.jpg

企業活動が盛んになればなるほど、売上が上がります。売上が上がれば上がるほど利益が出ます。そうすると投資に回すお金が増えるので、企業活動がますます盛んになります。

このループ図の上半分は、企業活動と売上、利益、投資を要素とする自己強化型のフィードバック・ループです。この自己強化型ループは、企業にとっては望ましいループです。ところが、このシステムには、この企業にとって望ましいループ以外にも要素のつながりが存在していて、問題を引き起こしていたのでした。

この企業活動が製造工程で化学物質を使用していると、「企業活動が盛んになる→化学物質の使用量が増える→排出される化学物質が増える→環境負荷が増える→地球の環境を破壊する」という別のつながりから環境問題が発生するのです。

つまり、「企業活動のループ」がどんどん自己強化型で回れば回るほど、化学物質の使用量が増え、地球環境の破壊が進んでしまう、という構造になっています。ここでは、「地球環境の破壊」が「化学物質使用量」に歯止めをかけるループが存在していないことが問題であると考えられます。

望ましいループ「現在欠けているが必要なループ」を作り出す

この「現在欠けているが必要なループ」を作り出すにはどうしたらよいのでしょうか? 米国環境保護庁では、1985年に各企業に化学物質の排出量を報告させ、公開する有害化学物質排出目録(TRI)と呼ばれる仕組みをつくりました。

TRI導入後のループ図2を見てください。このTRIという報告・公表制度を作るという働きかけによって、問題構造がどのように変わったかを示しています。

koramu_kagakusangyoutokankyou(2).jpg

「化学物質の使用量が増える→公開される化学物質使用量が増える→地域住民やNGOに知られることから、企業の評判に対する懸念が高まる→化学物質の使用量を減らす」という新しいループが作り出されたのです。この新しいループは、自己強化型ループのように、無条件にどんどん増えていくのではなく、バランスを取ろう、安定させようというバランス型フィードバック・ループです。

システム思考の第一人者であるドネラ・メドウズ氏によると、米国ではTRIの導入によって、5年間で化学物質の使用量が40%も削減され、使用量上位10位に入ったある企業は、上位リストから降りたい一心で、その使用量を90%も減らしたといいます。政府は、問題構造を正す「望ましいループ」を作り出すことによって、大きな資金や罰金制度などを投入することなく、かなり短期間に化学物質の使用量を大きく削減することができたのでした。

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