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システム思考でみるプロジェクト・マネジメント(2)

2013年08月09日

前回に続き、システム思考に基づくプロジェクト・マネジメント事例を紹介しながら、どのように知識創造型の「学習する組織」を築けばよいかを紹介します。)


コントロールの「波及効果」(システムの抵抗)に気を付ける

私たちの知識の前提には「ものの見方」があります。ものの見方は、認知行動のメカニズムである「メンタルモデル」の影響を受けると同時に、「何が見えるか」が私たちのメンタルモデルを形成しています。

例えば、私たちは何か問題があったとき、担当者や責任者など、人の問題ととらえる傾向が強いものです。しかし、繰り返し同じような問題が起こる場合、そこには誰がやっても同様の失敗を引き起こす構造があります。それにもかかわらず、「問題を起こすのは人である」というメンタルモデルを持っている組織では、多くの場合、人の能力やモラルにばかり焦点が当たり、構造の問題を把握することができません。メンタルモデルとものの見方を広げ、構造に視点を移すことによって問題の本質に近づくことができます。

プロジェクトの失敗にもっとも密接にかかわるのは「リワーク・サイクル」と呼ばれる構造です。リワークとは、いったんプロジェクトが完了したものの、仕様・品質などが求められる水準に達しなかったために生じるやり直し作業のことです。リワーク・サイクルとは、作業完了後に発見された未完了の作業を、プロセスを遡ってやり直す羽目になるサイクルのことです。

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未完了の作業のやり直しによって、スケジュールに余裕がなくなってくると、何とかしてスケジュールをコントロールする必要が生じます。そのためには、1)残業によるスタッフの作業時間の増加(B1)、2)スタッフの採用による増員(B2)、3)一作業あたりの時間短縮(B3)、4)期限の延長要請(B4)、などが行われます。

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こうした変化による直接的な影響については、プロジェクト・マネージャーの意思決定をサポートする手法・ツールが多くあります。一方で、しばしば軽視・無視されるのが、システムの抵抗、つまり「波及効果」です。二次的な波及効果には、例えば以下のようなものがあります。

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1) 残業が持続的に行われることによって疲労が蓄積し、生産性を低下させるため、かえって作業の進捗が遅れる。(R1)
2) スタッフの増員は社内手続きや採用・配置までに時間の遅れが生じやすく、また、当初はチームの経験レベルを下げて生産性を落とし、一定のスキルを獲得するまでにさらなる遅れが生じる。(R2)人数の増加がマネジメント能力を上回ると、混乱やコミュニケーション上のトラブルが起きやすい。(R2+)その間、チーム全体の生産性は意図するようには上がらない。
3) スケジュールの逼迫感は、生産性へのプラス効果とマイナス効果の両方をもたらすが、過度の逼迫感は過誤を起こしやすく、同時に見過ごしやすくするために品質が低下し、やり直し作業をさらに増やす。(R3)また、作業の順序を変えることも生産性と品質の低下を招く。(R3+)
4) 期限延長の要請は、成果物の活用・販売などへ影響を与えることから、市場や競合の環境変化を反映して、スコープの増加につながることが多く、未完成の作業の増加を招く。(R4)

こうした波及効果がティッピングポイント(閾値)を超えるとどうなるでしょうか。次回は、どのような悪循環を引き起こすか見ていきます。

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