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新型コロナウィルス(COVID-19)感染で亡くなられた方のご冥福を祈り、また、闘病されている、苦しんでいる、あるいは悲しんでいる方へお見舞い申し上げます。医療や保健、生活インフラのために最前線で働かれる皆様は感謝申し上げ、今つらく不安な気持ちでいる皆様には今の危機を一緒に乗り越えたくエールを送ります。

私は医療・公衆衛生の専門家ではありませんが、システム思考や組織学習の視点から、医療や保健関連の方たちの出している知見、提言についてよりわかりやすく、意思決定者や市民の方たちにコミュニケーションをすることを意図しています。

人の死を数字として扱う不遜をお許し頂きたく、何よりも一人でも多くの救える命を救うためにコラムを書いております。

新型コロナウィルスに関して、日に日に状況が変わり、また、新しい知見や情報が入ってきています。方やウィルス対策で膨らんだ業務の片手間に書いている中で、メルマガの連続での記述が難しくなってきたため、その時々で重要と思うことを書いていくことにしました。

今回は、マクロな視点で新型コロナウィルス感染に関わるサブシステムと、関連するサブシステムを、サブシステム図を使って俯瞰し、私の省察を加えて見たいと思います。

図1:新型コロナウィルスの流行に関わるサブシステム

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図1は、新型コロナウィルスの流行の主題である「感染と市民の健康」サブシステムと、それに対応するための「公衆衛生体制」「医療体制」のサブシステム、そしてこれらのサブシステムに影響を相互に与える「経済・社会活動」「人権」「他国(他地域)」のサブシステムです。図の下部には、これらの相互作用がどのように機能するか否かに大きな影響を与える「ガバナンス、情報透明性、リーダーシップ」と「国際ガバナンス・協力」を記しています。

どのように細かく分けるか(経済など)、追加するか(教育、IT技術インフラなど)、活用するユーザーの目的によってあるでしょうが、週単位から10年単位での時間展開を考える上での基本となるサブシステムの列挙にとどめました。

各サブシステムには、重要と思われる要素の一部を書き入れています。各サブシステム内の構造や要素に関しての議論は割愛して、まずこれらのサブシステムの間でどのような相互作用があるかを見てみましょう。あるサブシステムから別のサブシステム(一部はサブシステム内)への影響を薄い朱色の矢印で書き入れたのが図2になります。以下、各影響について、ごく簡単な概説を行います。私の限られた情報の範囲でまだ足りないことや、今後新しい知見で変わっていくこともあるかと思いますがご容赦ください。

図2;新型コロナウィルスの流行に関わるサブシステム間の相互作用

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1.他国(他地域)からの感染流入

日本で見ても、あるいは国内の各都道府県、自治体、あるいは島などの単位で見でも、ヒトからヒトへ感染する新型コロナウィルスは、最初の武漢を除けば、すべて感染のある他の地域からの移動に伴って発生します。その動きが、「他国」から「感染と市民の健康」への矢印で示されています。日本では、1月16日に最初の感染者が報告されてしばらくの間は、「水際対策」つまり、感染の恐れのある地域からの移動者の入国を制限したり、感染から発病までの期間の幅を考慮した2週間の検疫などの処置が執られていました。

当初は国レベルでの国境管理でありましたが、国内で感染の多い都道府県や都市と、感染の少ない県や都市以外の地域に関しての、往来の制限に関して、自粛要請レベルではありますが、域内の感染数を低く抑えるために重要な課題となり始めています。

2.市中感染

グローバル化した今日の人の移動ネットワークにおいて、ウィルスは水際対策をすり抜けて、やがて市中感染の感染者の発生につながります。しかも、すでに確認された感染者の濃厚接触者(家族、医療従事者、検疫官など)ではない報告が増えていきます。感染ルートが不明のケースが、NHKの分析では当初の4割弱から最近は新規感染の6割ほどを占めるようになってきていますが、これには少なくとも次の2つの可能性があるでしょう。

第一に、発病前の接触です。当初は、37度台の熱など発病を一つの目安としていましたが、今では発病直前の2日間に強い感染力を持ち始めることが報告されているため、後に感染が確認される患者であっても、発病直前に不特定多数との接触があれば、そこに市中感染のリスクが生じます。

第二に、無症状の感染者の存在です。無症状や発熱を伴わない軽度の症状のため、感染性を持ち始めて2週間ほどの期間、そのまま通勤、通学、外食、スポーツジム、買い物などに出ることによって、数多くの接触を行ってしまうことになります。

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3.公衆衛生上の対策

ひとたび、市中感染が生じる状態になると、水際対策だけでは片手落ちになります。手洗い、咳エチケット、消毒などの基本的な予防策は当初より推進されていましたが、それに加えて日本では北海道大学西浦教授らによるクラスター班が活躍を始めます。感染者が発生したら、疫学的調査でその感染ルートを追跡、感染源であるかもしれない人を発見したり、また二次感染のリスクのある人の隔離・自主隔離をするなど地道な調査を重ね、特にクラスターと呼ばれる患者群の形成を避けることに重点を置かれました。感染の起きやすい環境を「3密(密集、密閉、密接)」と命名し環境リスク低減対策も発信されました。この施策は、2月患者が急増した北海道での封じ込め、あるいは日本全体で2月から3月中旬までの感染拡大のスピードを他国に比べ鈍化させた効果があったように見受けます。

しかし、3月下旬となって、感染者が全国の多くの都道府県に広がり、構成員50人のクラスター班では支えきれなくなりました。かねてより保健所は拠点数と人員数が減少に向かっており、PCR検査でも、疫学調査でも、感染の拡大に対して十分な体制だったことが専門家会議の提言から見て取れます。

このようにして、3月末からより広く外出や営業に制限をかける社会的距離拡大施策へと転換することになります。日本ではPCR試験数が先進国の中でも特に少なく、これは実施体制上の問題もあるかと思いますが、他国の抗体検査の結果を見ても、無症状や極めて軽度の感染者はすでに多数いて、しかも隔離はされていない可能性が高いです。さらに言えば、都市圏に住み、働く人について、その誰もがすでに感染しているかもしれないという前提で対策にあたることが必要になっています。

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3'. 経済影響、人権影響の懸念

中国や南欧では都市封鎖、外出禁止例などのより強い対策がとられ、また3月中旬にはアメリカでもカリフォルニア州やニューヨーク州を皮切りに各州で外出禁止令が発出します。日本では、制限の度合いも弱く、また、外出自粛、接触機会数減の要請のタイミングがだいぶ遅くなりました。これには、経済活動への影響や市民の自由を制限することをできる限り避ける配慮、そして3月中旬までは東京オリンピックの行く末への懸念があったことと見られます。また、3月13日に新型インフルエンザ等対策特別措置法の改正法が成立しますが、法制上どのような施策をとれるかの制限もありました。

指数関数的な成長の特徴をもつウィルス感染のピークは、1週間の判断の遅れでピークは2倍、2週間なら4倍ほどに増え、また、安定化に向かう期間も意思決定が遅いほど長くなります。経済への影響を最小限・最短に抑えるには、実はまだ感染数が広がりすぎていない時期に先手を打たなくてはならないジレンマでもあります。こうした国民の合意への明確な情報開示とコミュニケーションが重要となります。

ガバナンスの観点から言えば、中国や一部の国に見られるような独裁的な強権発動できる仕組みを採用しなかったのは、民主主義国家として体裁は残したとも言えるでしょう。しかし、台湾、韓国、ニュージーランドなどに見られるような市民の理解・協力を取り付けるリーダーシップは発揮されているとは言えず、中途半端な状態になっていたかもしれません。後に、もっと国家の権力を強化すべきと言った論調を強めないためにも、市民としては今からでも最善の結果を残すことに努力する正念場にあるかと思います。

4.医療上の対策(介入)

新型である故に、確固とした治療法も、治療薬・ワクチンも存在しません。従って、医療体制の主な役割は、新型コロナウィルス患者の隔離と対症療法が主になります。できるだけ死亡者を出さないように奮闘する現場のすさまじい努力には感謝の念にたえません。より多くの治療と期間を要する重度・重篤の患者数を抑え、また全体の負荷を下げるには、新規感染そのものを抑えるのが重要です。

中長期には、治療薬・ワクチンなどの開発によって、重症化を避け、より短期に回復できるようになることが望まれます。通常、医薬品の開発には15~20年以上の期間を要し、ワクチン開発も早くて5年、長ければ20年以上の期間を要していました。今、世界的なパンデミックを受けて、18ヶ月ほどという極めて短期の開発を目指しています。これは、安全性を確認するいくつかのフェーズを飛ばしたり、あるいは、見切り発車での生産を必要とする目標でもあります。今、多くの製薬企業やベンチャー企業が機会をうかがっていますが、1種類のワクチンに商業化まで開発費用が数百億円から2千億円ほどかかるとも言われています。複数の候補から有効かつ安全ななものを絞っていくなどの取り組みは、国際的な政府連帯の後ろ盾なしには進めることが難しいでしょう。4月23日、ドイツのメルケル首相はWHOを支持し、手の届く価格でワクチンの開発・供給を行うことを目指す国際協力を呼びかけましたが、WHOを「中国より姿勢」と批判する米国は参加していません。

患者が軽症によって回復することで「集団免疫」の戦略仮説が、イギリスなどいくつかの国で提示されました。4月26日、WHOは感染者が回復によって免疫を獲得できるかどうかに否定的な見解を発表しました。ワクチン開発がなければ、集団免疫もなしえないかもしれないということです。

5.患者急増による(医療体制)の逼迫

指数関数的な成長のカーブを反転させ、最初のピークを目指す時期にあります。各地域毎に、医療供給体制が増加する患者を受け入れることができる限界は、様々な制約要因によって引き起こされる可能性があります。

  • 感染症のある患者用入院ベッド数(宿泊施設活用含む)、あるいはICUベッド数
  • 人工呼吸器、人工心肺装置などの医療機器
  • 医師、看護師、技術士などの医療従事者
  • 医療従事者を感染から守るためのマスク、ガウン、手袋などの医療用具
  • PCR検査機器、試薬キット、スワブなどの検査用用具など
  • 医薬品、薬剤、その他の資材
  • 非感染症の患者と隔離ができる導線あるいは時間別管理

などです。

個別の医療施設単位では、すでに受け入れができないところが増えている中で、地域医療体制もまた重要になってきます。医療施設の運用などにおいては、「神奈川方式」「大阪方式」など独自の取り組みも出てきています。元来、医療施設は医療費抑制政策によって、高いベッド稼働率が求められていた中、追加で吸収する余地が厳しい状況にありました。

機器、用具、医薬品に関して、他国では各自治体、国レベルで調達の競争が出るような状況になっています。こうした病院では、N95と呼ばれる感染対策グレードのマスクなどの再利用を試みるなどギリギリの運用があり、国レベル、広域レベルでの調達コーディネートの必要性も叫ばれています。イタリア、中国などでは多くの医療従事者の感染、死亡が報告されており、最前線で働く医療従事者の皆さんの安全と生命、ひいては医療施設を必要とする患者の安全と生命のためにも調達は重大な活動になるでしょう。

短期的には、現状の体制でやらざるを得ないかもしれませんが、第二波などの到来に備えて、医療体制のキャパシティそのものをどう設定していくのかが今の重要な課題かと思います。

6.活動・需要・労働力の制約

当初、新型コロナウィルス対策について、市民の健康と経済活動のトレードオフを提起する論調がありました。休業や外出・移動制限によって、売上や稼ぐの損失が確実に見える一方で、新型コロナウィルスの健康、生命、あるいは医療施設への影響が見通せなかった枠組みと捉えたからでしょうか。今となっては自明なことですが、ワクチンなどの"盾"もなく、直接・間接に生命が脅かされる状況にあっては、需要も労働力供給も大幅に減退することになります。基盤となる人的資本(つまり市民とその健康)は、事業活動の基盤であって、一部経済理論がいうほど簡単に置き換えられるものではありません。

経済のためにも、感染蔓延状態や医療体制の崩壊危機状態を、いかに早く脱して、社会経済活動への制約を緩めていけるかが、今の各国、地域の重要な課題となっています。一部の国、州、市が提唱するような経済優先という題目だけで再開を決めるのではなく、明確に科学的な知見に基づいた、段階的、適応マネジメントを活用した再開が課題になるでしょう。

7.モノ・サービスのサプライチェーン上の供給逼迫、納品遅れ、過剰発注など

社会的距離拡大施策のために、外出、通勤を制限することで、モノやサービスの供給が抑えられることになります。日本の施策では、電気ガス水道や食料供給、あるいは工場生産などは自粛要請の対象には入っていません。しかし、感染収束までの期間が長引くことによって、その供給が不安定になっていくものは少なくありません。例えば、農村地域で労働力となる外国人の入国ができないために農業活動が続けられない作物も出始めています。

また、多くの商品はその原材料が海外から入ってくるものも数多くあります。海外の部品工場が稼働できず、在庫が尽きるために生産活動ができないモノも今後増えてくるでしょう。食料、医薬関連に関しては、ロシア、ウクライナなどすでに輸出規制をかける国が出始めています(穀物は4月20日現在13カ国)。危機にあっては、自国の需要を満たすことが最優先となっています。国内での生産にシフトをする動きを後押ししようとしていますが、薬剤の原材料となる物質は低コスト化のために海外からの輸入が多く、複雑なサプライチェーンの網の中で、他国での感染対策、経済対策の動向によって大きく制約を受けるリスクが顕在化しつつあります。

通常のパイプラインの在庫がつきると、川上まで遡っての増量生産を必要とするため、納期遅れが頻繁に起こります。

患者数のピークはどこまで伸びるのか、その後どれくらいのスピードで下がるのか、どれくらいの期間が続くのか、などさまざまな不確実性から需要だけでも正確な見通しを立てるのは簡単ではありません。(これは、需要が落ちたモノやサービスが、低下した需要がどれくらいの期間で増加に転ずるのか、どれくらいのスピードで戻るかについても言えることです。)それに加えて、モノを確保できないと不安に思う消費者や購買担当者は、何とか自分たちを護ろうとして過剰発注が起こりがちです。(スーパーの棚を空にするような買い溜めはビジネスでも起こっています。)

感染症などによってニーズが増えるモノに関しては、実需要が増えるだけでなく、供給ラインの不足を埋める上乗せと過剰発注があいまって、供給網は麻痺状態に陥るリスクもあります。麻痺を避けたとしても、最後には何とか発注に応えようとして増産できた後、需要の安定化や供給ラインの補充が進むにしたがい、発注量は平常かに向かい、在庫過多に苦しむことも少なくありません。

在庫過多といえば、すでに生産活動や移動減少に伴う原油や、休校により給食が激減した牛乳、あるいは送迎会シーズンの宴会用の食材などがすでに余剰となっています。商品やサプライチェーンの中の位置、タイミングによって在庫不足と在庫過多の問題が同時に起こる厄介な問題で、関係者間の共通理解や調整が不可欠となり、一律の施策はかえって混乱のもとになります。

これらの問題は感染流行をきっかけにしてはいますが、解決策の探求にあたっては、サプライチェーンの内在的な構造が引き起こしているという視点をもたなくては"対症療法"に終始してしまいがちです。(詳しくは後日システムモデルを通じて紹介します。)

8.補償・財政・金融施策

感染を収束させるために休業するビジネスや日当・時間給で働く労働者向けの補償の施策が日本や先進国諸国で行われています。また、GDPに対して相当の比率の財政施策がとられれいます。

現時点で、それが十分なものになるかは、どれくらいの期間、経済活動を大きく制約するような社会的距離拡大施策が必要かどうかによるでしょう。2ヶ月程度の短期にとどまれば、もともと保有するキャッシュや、潤沢な融資支援などで乗り切れるかもしれません。しかし、半年、あるいはワクチン開発・上市されるまでの12―18ヶ月以上となると、多くの倒産や失業を迎えることになるでしょう。

いくつかのシナリオを策定し、シナリオ毎にどのような施策が最善かを検討し、展開によって適宜必要な施策を実践する適応型マネジメントがここでも求められるでしょう。

しかし、仮に影響が比較的短期であったとしても、経済的に余裕のない、メインストリームではない経済的弱者がより大きな打撃を受けることになります。こうした状況では、文化的な最低限の生活を保障する人権の問題も考える必要があります。

9.自宅内での社会問題、人道支援への制約、差別など

外出を自粛すると言うことは、同居する家族とともに多くの時間を過ごすことでもあります。普通の家庭であっても、家庭で長く過ごすことは、メンタル面や身体面で悪影響を及ぼすこともあります。上手にストレス管理や体調管理をすることが求められるでしょう。

また、本来、家族は互いの安全と生活を守る基本単位でありますが、残念ながら家庭によっては家庭なの暴力や虐待の問題を有することもあります。こうした状況でどのように対処すればよいか、問題は指摘されながら、まだ適切な対処には至っていません。

理由が経済的な困窮であれ、暴力・虐待の回避であれ、路上やネットカフェなどで生活を余儀なくする人、あるいは食料を購入できずに炊き出しなどに依存する人などに対する人道支援が感染対策の視点から難しくなっています。人道支援団体や福祉関連団体は徐々にその活動の休止をやむ無しとする状況も起こり始めています。

海外でも国内でも、当初新型コロナウィルス感染者やその家族への偏見・差別が横行し、ひどいケースでは、感染に立ち向かう最前線にいる医療従事者に対する差別も発生しています。嘆かわしいことです。

さらに国際的には、アジア人に対して、あるいは黒人に対して、人種による差別がニュースメデイゥア上でも多く報道され、その背景には政治的な意図までが作用して、敵対の風潮が広がっているところもあります。アメリカでは、民族の構造的な差別が相対的な貧困、医療アクセスの問題を生み出し、結果的には有色人種の方が致死率が高いなどの状況を生んでいます。

人類史上未曾有の危機にあって、今こそ人類、国家間、民族間の協力を必要とする時期はないでしょう。自身・家族の安全を守りながら、感染は誰にでも起こりうること、また、感染の影響が社会的・経済的弱者により大きく出ることへの意識を高め、社会で一丸となって命を守ることが望まれるでしょう。

さて、ここまで、人権への悪影響への懸念を挙げましたが、私たちの回りには、医療従事者やライフラインを守るために最前線の人たちに感謝の気持ちを表したり、互いに助け合う素晴らしい活動が数多く存在しています。その一部を有限会社イーズは特別サイト「新型コロナウィルスに負けないために国内外の素敵な取り組みを知ろう!」https://www.es-inc.jp/corona/ を開設していますのでご覧になってください。

ガバナンス

新型コロナウィルスのパンデミックのもたらす影響は、多岐に亘り、その対策の多くは、応急処置にとどまり、副作用を伴ったり、長期的には意図せぬ結果をもたらすものも多いでしょう。また、現在のリソース・体制を前提にすると、打ち手も限定され、抜本的に大きな投資を必要をしなければ、いつまでも感染増加のリスクを抱えながら薄氷の上を歩く、あるいはシステム思考で「立ち泳ぎ」と呼ぶ状況に陥りがちです。

こうした時ほど、ガバナンスを強化すること、とりわけ一部の人の利益ではなく、広く公益を求めて、多くの利害関係者に科学と人間性、真実と希望、論理と慈愛をもって巻き込めるリーダーシップが求められます。それは、おそらく一人のリーダーではなく、リーダーの生態系の形成が求められるのではないでしょうか。そして、そのような生態系の形成には、情報の透明性と信頼の醸成が欠かせません。

また、今回の問題に対して、単一の国家で解決して鎖国を続ける戦略は賢明ではありません。国際協力が不可欠であり、また、そうした連帯を主導するリーダーシップを世界は必要としています。

ここまで概観したように、新型コロナウィルスのパンデミックは、私たちの生活や仕事の幅広い分野で影響を与え、それぞれにしかるべき対処が必要です。一方、全体像を見据えて、より重点的に政策リソースや市民の注意を配分する分野も時間展開毎に出てくることでしょう。現在は、まだ感染拡大・蔓延をいかに抑えるか、安定期に向かって収束させるかが焦点です。

最後に、今後の時間展開を考える上で、フェーズによって異なる焦点が必要であり、同時に短期の施策を行う上でも長期的な展望に立つことが重要と考えます。仮に、「応急処置期」「回復期」「構造転換期」「パラダイム転換期」と分けることができるでしょうか。(回復期以降は時間上の重複があります)

応急処置期:

向こう数週間から世界的には数ヶ月に亘って、各地で起こる患者蔓延、爆発的な増加を反転させ、収束状況に向かわせ、医療崩壊を回避する。

回復期:

収束から安定期に入ったら、検査体制・疫学調査体制・医療体制を強化して、第二波、第三波に備えながら、社会経済活動を供給、需要の順番で再開していく。社会的距離を含む「ニューノーマル」に向かい始める。回復がいつ終わるかは、応急処置のスピードと次の構造転換次第である。

構造転換期:

二、三年あるいは数年のうちに安価に入手できるワクチンが開発されれば、新型コロナウィルス自体の危機は終息するかもしれない。しかし、現在のレジームやさまざまなシステムのもつ脆弱性が、世界的な感染流行などの衝撃に弱いことには変わりない。従って、新たな感染や類似する脅威に適応するために、よりレジリエンス、持続可能性、衡平性の高いシステムへの転換を必要とする。もし、構造転換を図らねば、第二、第三の危機を迎える可能性が高い。

パラダイム転換期:

現在、日本や世界で議論され、採用される施策やメディア・市民の反応には現代社会の支配的なパラダイムが反映されている。果たして、パラダイムは進化するのか、後退するのか、人間の成熟が試される機会の窓が開かれている。過去幾度か開きかけたこのパラダイムシフトの窓は、五~十年の間に発揮しなければその窓は閉じられるかもしれない。反対に、第二次世界大戦を思わせるようなパラダイムへと逆戻りしてしまうおそれもある。

最後に掲げたパラダイムの転換ができるか否か、そのパラダイムが人類にとって有益かどうかは、より深いレベルの重要な問題です。皆さんは、今起こっていることの背後に、どんなパラダイムがあると考えるでしょうか? また、どんな社会を未来のビジョンとして描きますか?

いくつかの切り口があるかと思いますが、そのうち一つの切り口で見てみると、現代文明の支配的なパラダイムを表現するキーワードには、「恐怖」「敵に立ち向かう」「コントロール」「自分本位」「人間本位」「物理的成長」などが含まれると考えます。しかし、これらが唯一のパラダイムではありません。反対に、「慈愛」「適応と進化」「共助・連帯」「自然との共生」「持続可能性」などの価値に基づいたパラダイムも出現していることも確かです。

前述の構造転換において、例えばIT化やテレワーク、デジタルフォーメーションを一気に進めるとしましょう。そうした変化は、誰のために、どんな目的で、どのようなプロセスで進むのか、といったガバナンスの課題を抜きには、人々の深いレベルにある信条、通念、パラダイムの葛藤により形だけのものとなって機能しなくなる恐れもあります。

応急処置の時期こそ、平時よりも迅速で意思決定、前進する強いリーダーシップが求められるかもしれません。しかし、構造転換やパラダム転換は、逆に熟慮、内省、対話を促すリーダーシップが求められます。

パラダイムは社会的に構成されます。今回の問題の根幹にある人の健康と生命は、私たち一人ひとりにとって納得のいく生き方、死に方の問題でもあります。感染対策のために、愛する家族たちと言葉を交わすこともなく、看取られることなく人生を終わるような世の中になっていくのか、それとも本人や家族がリスクを科学的に理解した上で、人生の心よりもとめることを探求できるような社会が良いのか、一律に答えを出せない難題です。

個人的でもあり、社会的でもある今回の新型コロナウィルス感染によって、私たちはグローバル社会をまたがる内省、省察、探求の機会を得ているかもしれません。次回以降、一つひとつのサブシステムに焦点をあてて、さらに考察したいと思います。

(つづく)

執筆:小田理一郎

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