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システム思考でエネルギー・気候政策を考える(3)「エネルギー利用におけるフィードバック<経験効果>」

本シリーズ記事では、米国NPOのClimate InteractiveとMITなどが協働で開発した政策シミュレーター「En-ROADS」を活用しながら、多数のエネルギー・気候政策の選択肢及びその組み合わせがどのようなインパクトをもちうるのか、システム思考の視点から考えていきます。今回は、エネルギー政策に見られるフィードバック効果の中でも、自己強化型の「経験効果」について紹介します。

フィードバック効果

システム思考を実践する上で、もっとも重要な概念が「フィードバック」です。ものごとの因果関係を考える際に、原因となる要素Aから結果となる要素Bへと一方向、線形の因果関係をもつだけに終わらないことが多くあります。Aを変化させた結果としてBが変化したとき、そのBの変化がもとのAの変化に影響を与えることがあります。これがフィードバックです。

例えば、コップに水を満たそうと、水道の蛇口を開ける行動にはフィードバックが見られます。水道から流れる水量Aを増やせば増やすほど、コップの水位Bは早く変化します。しかし、水位がコップを満たし、あふれそうになることが行為者に予期されると、その行為者は蛇口を絞って水道から流れる水量Aを減らし、やがて閉じることでしょう。行為者は、目標とする状況を目指して変化をつくる行動をとりますが、それが目標に到達すると変化をつくる行動を止めます。

このパターンは、喉の乾きを潤す目標をもつ行為者は何度か繰り返すかもしれません。しかし、喉の渇きが満たされたとき、コップの水位の目標はゼロとなって、水道の蛇口の開ける行動はもはやとらなくなります。そして、数時間して喉の渇きのニーズを感じると、コップに水を入れるために蛇口を開き、閉めることで流水量の調整を図ります。

ここではコップの水位をコントロールするフィードバックと、喉の渇きというニーズを満たすフィードバックを観察できます。いずれも目標追求する「バランス型フィードバック(負のフィードバック)」を示しています。

フィードバックには大別するともう一つ、「自己強化型フィードバック(正のフィードバック)」があります。例えば、勉強でもスポーツでも趣味でも、努力をすることで上達する場面を考えて見ましょう。「努力」の量を増やせば増やすほど「能力」が高まり、それによってますます「パフォーマンス」が高まるとしましょう。そして、「パフォーマンス」が高まった人は、それに喜びややりがいを覚えたり、周囲の人からよい評価をもらったり、あるいはもっと高いパフォーマンスを出したいと思ったり、さまざまな経路を通じて、もっと「努力」をするようになります。この「努力=>能力=>パフォーマンス=>努力」の好循環は、子どもでも大人でも、組織でも事業でもいたるところに見ることができます。

そして、これらのフィードバックは、時間軸を広げたり、分野の境界を広げて見た場合には、さまざまなフィードバックが絡み合っていることが多くあります。しかも、それらのフィードバックは、同時に働くのではなく、遅れを伴ったり、力比べをしたりしながら時間展開と共に展開していきます。

自己強化型やバランス型のフィードバックの概念が捉えづらいという方は、シンプルに「相乗効果(シナジー)」と「相殺効果(トレードオフ)」と考えてもらってもよいでしょう。システムの特徴は、それぞれ1単位の力をもつ効果を合わせたときに、「1+1=2」になることはまれで、その要素間のつながりや組み合わせによって、2に及ばない効果(トレードオフ)しかなかったり、2をはるかに超える効果(シナジー)が出る場合がしばしばです。では、エネルギーに関連して、どのようなフィードバックがあるのでしょうか?

「経験効果」の自己強化型フィードバック

発電所や産業機械、自動車、建物などの設備資本はその使用・耐用年数に応じて長期に見ていく必要があることを前回のメルマガで紹介しました。そのときどきのスナップショットではなく、こうした長い時間軸で考える際に重要な影響を与えるフィードバックが「経験効果(学習効果)」です。例えば、10-20年前に遡ると、高炭素である石炭火力発電の発電コストは安く、低炭素である太陽光発電や風力発電の発電コストは高い状況にあり、コスト競争力を気にかけた場合になかなか再生エネを選びにくい状況がありました。しかし、石炭などの化石燃料も、歴史的に見ればかつては高コストでしたが、長い生産の経験を積み重ねることによってコストの学習曲線(ラーニングカーブ)を低下して低コスト化を実現し、また、コスト低下によって需要を掘り起こして規模の経済を獲得したのが低コストの理由であります。さまざまな産業の多くの生産資本において、累積生産量が大きくなればなるほど、生産コストが減少することが研究で示されています。(戦略的な最初の応用例は、ホンダのオートバイを英国市場に販売する戦略で活用されました。)

図1は、国連の経済社会局とコンサルタントのアラン・アトキソン氏らがまとめた文書の中にある分析です。横軸は、エネルギー発電技術の累積設置容量(GW)、縦軸はkWあたりの投資コスト(US90年ドル)がそれぞれログスケールで示されています。色分けされた折れ線が各エネルギー技術のコストの今後の予想が示されています。

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図1:エネルギー技術の累積設置容量が増えるほど、新規に設置された設備のコストは低減する
出典:Technical Note "A Global Green New Deal for Climate, Energy, and Development" (UN Department of Economic and Social Affairs, 2009)、原典:Nakicenovic, IIASA, 2009

途上国でのエネルギーアクセスの改善を考えた場合のターゲットコストはkWhあたり0.03-0.05ドル(USD90年)ですが、投資金額にするとWあたりの投資額1.00-1.50USDに相当します。図1は、kWあたりの投資額を示していますので、ちょうど縦軸中心の1,000のラインからその上にかけて部分となれば普及しやすくなります。成熟した技術や水力のように、構造的に経験によるコスト低下しにくい技術では望めませんが、太陽光発電(Solar PV PPL、赤色の折れ線)や風力発電(Wind PPL、紺色の折れ線)は経験曲線の傾斜が大きく、ターゲットコスト圏内に入ることが望めます。一方、横軸の規模で言えば、これまでに石炭や天然ガスの累積設備容量は1,000GWを超えているので、経験効果の観点でのコスト低減はわずかです。それに対して、太陽光や風力はそれぞれ当時13GW、120GWに過ぎませんでしたのでまだまだコストの「下げしろ」が大きいことがわかります。

したがって、太陽光、風力などの創発的な技術に関しては、図2のような自己強化型フィードバックが望めます。すなわち、再エネの相対的魅力を高め、新規発電施設建設に占める再エネ比率を高めることによって、再エネの供給容量が大きくなります。そうすると累積設置容量が増加するので再エネの経験効果が大きくなって再エネの相対価格を下げることができます。そうすると再エネへの需要が増加して再エネの相対的魅力が高まる「クロスネットワーク効果」によって、新規施設に占める再エネ比率はますます大きくなるのです。

この自己強化型フィードバックは、単独で長い目でみれば起こるのですが、先行する技術や選択肢があると、その相対価格の高さのために抑圧されることがあります。(システム原型の「強者はますます強く」)現実に、2009年当時の投資コストは風力がW当たり1.50USD、太陽光が2.90-3.40USDと石炭火力に比べた再エネの相対的魅力は高くありませんでした。なりゆきに任せていた場合の2025年予想が風力570GW、太陽光160GW程度にとどまり、石炭火力に対する相対的コスト高が長く続くことになります。

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そこで、政府のできることは、望ましい低炭素技術がこの自己強化型フィードバックの効果を高めるために、好循環のスターターとなるような政策を働きかけることです。例えば、「新規施設に占める再エネ比率」を高めるために、最低限の再エネ調達比率を定めたり、新規建設にインセンティブをつけるような補助金をつけることもできますし、逆に高炭素の石炭火力の新規建設へのディスインセンティブをつけたり、禁止にしたりなどが政策の選択肢です。当時、ドイツのフィードインタリフ(FIT)政策などの成功例がありました。アトキソンらも、グローバル規模での再エネ推進のための「グローバル・グリーン・ニュー・ディール」政策を掲げて、途上国でのエネルギーアクセスを確保するために必要な目標投資額であるW当たり1ドルを実現するには、累積設備容量風力700GW、太陽光1,390GWを達成するために、1-1.5兆ドル(USD05年)の投資を行うことを提言しました。

その後、EU、米国の先進的な州、中国などがこうした政策を積極的に進め、風力と太陽光の相対的なコストは劇的に下がっていきます。図3は、En-ROADSのグラフで確認できる再エネの需要や限界発電費用の1990-2020年における実績値の推移と、En-ROADSのシミュレーションで再現する値を比べたグラフです。

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図3:風力・太陽光の一次エネルギー需要の推移及び太陽光の玄海発電費用の推移(En-ROADS)

太陽光発電の限界発電費用(新規建造された発電設備での発電費用)は、1990年から徐々に下がり続けていましたが、2010年に石炭火力コスト(7セント/kWh)の3倍程度のコストになった時点から、需要が急成長し始め、それによって限界発電費用がますます低下して、需要が成長を続ける好循環に入ったことがうかがえます。

En-ROADSにはさまざまな技術の経験効果についての想定事項を、シミュレーションメニューの前提諸元から選択して確認したり、その前提を調整したりすることが可能です。下記の比率は、「進歩率」とも言いますが、累積設備容量が倍増になることに、費用が何倍になるかを示します。例えば、元のコストを1、進歩率が0.80の場合、累積設備容量が2倍になるとコストは1x0.80=0.80に、4倍になるとコストは1x0.80x0.80=0.64に、8倍になるとコスト1 x 0.80^3=0.512になります。

001484_04.png図4:En-ROADSにおける各技術の経験効果(進歩率)の前提諸元

図5は、En-ROADSのシミュレーション上の数値で示されていますが、2020年までに再生エネの限界発電費用は天然ガスや石炭に匹敵する7-8セントまで低下し、成り行きのベースラインシナリオにおいては炭素価格などの導入がない場合でも、石炭よりも費用が下がっていくことが予想され、今後の発電設備容量の中でも急激にそのシェアを伸ばしていくことが予測されています。(なお、石油、バイオマスの限界発電費用が高くなっていくのは、2200年までに資源量の限界を迎える想定のためです。石炭が資源量の限界を迎えることはもう少し先と見込まれています。)

001484_05.png図5:供給源別の発電設備容量及び限界発電費用のシミュレーション(En-ROADS)

今回は、新技術などの普及を支えるフィードバックである経験効果を紹介しました。次回は引き続き、エネルギー政策に関わるその他のフィードバックについて考えます。

(つづく)

小田理一郎


第1回、第2回の記事はこちら
https://www.change-agent.jp/systemsthinking/practice.html#energy

En-ROADSシミュレーターはこちら
https://en-roads.climateinteractive.org/scenario.html?v=22.4.0&lang=ja

基本的な使い方はこちら
https://www.change-agent.jp/news/archives/001369.html

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