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枝廣淳子「変化を創り出す」ということ~その技、そして思い~(3) 「リバウンド効果を考える」

2010年08月16日

(2010年4月に開催したチェンジ・エージェント社5周年記念講演の講演録「『変化を創り出す』ということ~その技、その思い~」の3回目です。プレゼンテーションのスライド及び第1~2回の講演内容は、下記のサイトからご覧いただけます。)
スライド http://change-agent.jp/files/Junko_Edahiro_on_Change.pdf
第1回 http://change-agent.jp/news/archives/000364.html
第2回 http://change-agent.jp/news/archives/000369.html


先ほど、「週替わりの環境問題」と言いましたが、「あの問題にはこう対応しよう」「次はこの問題だからどうしよう」という対応は、そろそろやめたほうがいいんじゃないかと思っています。

どんな問題が出てきても、基本動作は同じだと思うんです。それを身につけることが、今、とても大事じゃないか。これからも、環境に限らずいろんな問題が出てきます。そのたびに右往左往するのではなくて、どんな問題が来ようとも、基本動作は一緒。それさえしっかり身につけていれば、対応がしやすいはずと思います。

これは、まず、どんな問題にしても、あるべき姿を考える。ビジョンですね。どうありたいの? それを考えるということが1つ。

ただ、「ビジョンを考える」と言われても、考えようがない場合が多いです。なので、私たちがお手伝いしているのは、「未来への補助線を引く」作業です。いきなり「ビジョンを考えなさい」と言われても難しいですけど、いろいろな形で補助線を引くと未来が考えやすくなる。そういったお手伝いをしています。

そして、「現状」を知ることがもちろん大事です。現時点での様子を知るということと、これまでどうだったのか、これからどうしていきたいのか、です。時間軸で見たときのパターンですね。システム思考の研修を受けられた方は、もうおなじみの流れですね。そして、そのパターンを創り出している構造を見抜くこと。これがシステム思考の一番大事なところです。

構造を見抜くことはとても大事です。これまでは割と短期的な、もしくは個別最適型のいろいろな取り組みがされてきました。でも、それではうまくいかないことが明らかになりつつあります。

たとえば、環境問題を例にお話すると、温暖化が問題になり、今あちこちで、たとえば燃費のいい車とか、省エネ型の家電とかが話題になっています。つまりエネルギー効率の良いものをつくりましょう、という動きですよね。エコポイントが付いているし、エコカー減税もありますし。

だけど実際には、いろいろなデータを見ると、「省エネが進めば進むほど、つまりエネルギー効率が高くなればなるほど、その社会のエネルギー消費量は増える」のですね。

意外ですよね? たとえば、1キロ走るのにどれぐらいガソリンを使うか。それが改善すれば、社会のガソリンの使用量は減るような気がします。でも、逆にそれが増えている。ほとんどのデータがその傾向を示しています。

たとえばアメリカの話ですが、1974年から2007年の間に、アメリカ全体のエネルギー効率は2倍になりました。しかし同じ期間に、アメリカのエネルギー消費量は37%増えています。「省エネ型のモノをつくれば問題解決する」のではないことがわかります。

エコポイントというのは、そういう意味で言うと、ダブルでマイナスの影響があるんじゃないかと思っています。大型なもののほうがエコポイントが付くということで、大型化を加速しています。加えて、そこでもらったエコポイントを、皆さん何に使っているかと言うと、商品券をもらって、それでまた買い物をしたり。それはまたエネルギーとかCO2を出す活動につながることが多いんですよね。

「エネルギー効率を上げよう」ということを、一生懸命みんなでやっていて、それは正しいことだけれど、それだけだと実際は、エネルギー消費量は増えちゃう。

これを「リバウンド効果」といいます。まだ日本ではあまり議論されていませんが、これはやはり、システム思考のように全体像を考えないと、解決できない問題です。

でも、考えてみれば簡単な話です。たとえばエネルギー効率が上がるとか、資源効率が上がれば、前よりも少しのもので動いたり、つくったりできるんですよね。

たとえば携帯電話。出始めのころの携帯電話って、ご存じですか? 5キロとか7キロとかあったんです。ちょっと携帯できませんよね。すごく重いので、置いて使うしかなかったんですが、今のケータイは、数十グラムですよね。つまり、100分の1になったんです。必要な資源の100分の1になっている。じゃあ、世界中で携帯が使っている資源が100分の1になっているかと言うと、なっていません。実は何百倍、何百万倍にもなっている。

それは安くなるからです。効率が良くなれば、必要なものがそれだけ少しで済む。すると安くなる。安くなればもっと使う。燃費が良くなればガソリン代が安くてすむから安心してよけいに走っちゃう。これは、いろいろなところのデータが出ています。

つまり、エネルギー効率だけ、資源効率だけ、という取り組みではなくて、そこで効率が上がった分をどうするかという、大きな全体像を考えないと、本当の意味で「資源やエネルギーの消費量を減らして、二酸化炭素を減らす」ことにはならない。これが構造を見るということの大事さです。

(つづく)

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