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小田理一郎「組織や社会の変革はどのように起こるか―システム思考による変化の理論と実践」(2)「人を変える前に自分が変わる」

2010年10月31日

(2010年4月に開催したチェンジ・エージェント社5周年記念講演の講演録「組織や社会の変革はどのように起こるか―システム思考による変化の理論と実践」の2回目です。)

次に日本のある企業の例をあげます。そこでは社内にとても閉塞感があって、社員もどんどん辞めていくような状態でした。そこで現場の課長・部長レベルの人たちに集まってもらい、何が起こっているのか対話をしてもらいました。

愚痴とか会社の問題をいろいろと話していくうちに、大きくみると2つ、繰り返しのパターンがあることが見えてきました。1つは組織の中の一体感、モチベーションがどんどん下がっていること。もう1つは、トップやマネジメント層と現場など、いろいろな人の間でとても温度差を感じていることです。実際にできていることと目標との間にも差があるし、それをどうとらえるかについても温度差がありました。そして、同時に絶望感も増しているというパターンがあったのです。

次に、どういった構造がこういうパターンをつくっているかを話し合いました。それこそ100個ぐらい、いろいろな要素が出てきましたが、そのうちの1つは行動と意志決定プロセスの質についてです。いい構造ができていないので、マネジメント層がこの間は「こっちをやれ」と言っていたのに今度は「あっちをやれ」と言ったりと、意志決定が行ったり来たりしてしまう。すると、なかなか芳しい結果が出ないから、さらに方針がころころ変わる、という悪循環がありました。

そして2つめには、行動の質と結果の質の間の悪循環です。行動の質が悪いから結果が出ません。結果が出ないから、特に株主などのステークホルダーに対しては、「ちゃんと対策を取っています」といって、会社の中を変えようというチェンジ・イニシアチブを山ほど出します。

でも、それもみんな結局は、仕事の量を増やすほうにばかり行き、やることが多い分、事業戦略の焦点もなくなります。マネジメント層は、マーケティングをきちんとやるべきだとかわかっていながら、「トップがイニシアチブをやるというなら仕方ない。トップに付き合ってやろう」と、馴れ合いのような状況になり、悪循環がさらに広がります。

そうこうしているうちに、売り上げは予定通り伸びないし、マーケットシェアはどんどん落ちていくし、競合他社にどんどんお客を取られるといった具合に、結果がどんどん悪くなっていきました。それにもかかわらず、たまたま財務的な工夫をして、利益だけはちゃんと出せた。利益が出たものですから、トップはボーナスを払って、「よくやった。これからもっと頑張ってくれ」というメッセージを出しました。ところが現場はもう、マーケットシェアが底をついているのが分かっていますから、ものすごく白けてしまったんですね。

社長がやろうとしたのは、閉塞感がある会社の中で、いかにポジティブなことを考えてもらうか、ということでした。だから、できるだけポジティブメッセージを出そうと一生懸命になるわけです。でも、そうすればするほど、結果的に現場はますます白けるという、まったく中途半端なコミュニケーションになってしまい、これがますます意志決定の質を悪くして、さらに社内の信頼関係にも大きく影響しました。「結果が悪いのは誰の責任か?」という話になり、「自分はちゃんとやっている」「いや、そっちじゃないか」と、お互いに相手を指差すような、非難と絶望の悪循環という状況をつくっていました。

課長レベルと部長レベルの人たちに話してもらった後、社長と役員クラスの人を集めて同じことをしました。基本的にはみんな同じことに合意しました。

ミドルから見てもトップへの信頼感が弱くなる一方で、トップから見て「このミドルはだめかな」と思うと、ほかの部署に配置転換するか、あるいはクビにして、新しいマネージャーを呼んできます。でも、新しい部署の仕事は不慣れで大変です。しかも、やることが多いからなかなか結果が出せません。するとまた置き換える。

こうしたことを繰り返しているうちに、ほとんどの部署が、あまり経験のない、過去1年に入った人ばかりになっていました。経験の希薄化が進み、ますます意志決定のプロセスの質が弱くなる。そうした何重もの悪循環があることが見えてきました。

こうしたコミュニケーションの中で、特にミドル・マネージャーの何人かが気づいたのが、「やれトップが悪いとか、やれ現場が動かないとか言っているけど、考えてみれば、自分もこの構造の中にいるんだよな」という点です。そこに気づいた人たちが、自分たちから変えていこうと動きだしました。組織の構造を話すときに、決して客観的な分析ではなくて、実は自分たちが関係している―そういった気づきが、一番大きな力になります。

引っ張っても動かないときには、そこに引っ張り返す力が働いている。そうしたときは、なぜ抵抗しているのかを考えるといいです。引っ張っている人、つまり変化をつくっている人のやり方が抵抗を生んでいることがしばしばあるからです。

昔から「人は変化に抵抗するもの」と言われますが、果たしてそうでしょうか。確かに、変化に早く適応する人もいれば、遅い人もいます。でも変わるときは変わるものですよね。だから、人は変化に抵抗しているわけではありません。「変化させられること」に強く抵抗しているわけです。これが人や組織や社会という、生きているシステムにある大きな傾向だと思います。ですから、変化を強要するのではなくて、「変化しようよ」と招き入れること、あるいは未来に向かって「一緒に未来をつくろうよ」と言うことが重要です。現在や過去の状態を見て、「あなたは変わるべき」といっても、なかなか変化は起こりません。

これに関連して、アメリカでとても成果を挙げたウィリアム・オブライエンさんという方がいます。ハノーバー保険という会社の前CEOで、システム思考や学習する組織という考え方に基づいた組織改革を行い、中堅の保険会社をアメリカの中でもそれなりの保険会社にした方です。彼が言うには、「システムへの介入、つまり目の前の組織や社会を変えようとするとき、それがうまくいくかどうかは、介入する人の心のありさまに依存する。」変化をつくろうとする人が、どんな心持ちでいるかが一番大事ということです。

同じようなことが、日本の変化の事例を見ても当てはまると思います。水俣病の患者会の代表格に、杉本英子さんという方がいらっしゃいました。ご存じの通り水俣病は、チッソが流す水銀が生物濃縮で魚にたまり、それを食べた人が奇病になるという、とても深刻な公害病です。

この問題のために、加害者と被害者という形で水俣市はとても大きく分断されてしまいました。海辺で暮らす人と山あいに暮らす人の違いもあるし、原因となったチッソには地域住民の1割の人が働いていたという事情もありました。どの家庭も、家族や親戚の誰かしらがチッソで働いているという状況です。

その分断をなくそうと一生懸命いろいろな試みをしましたが、なかなかうまくいきません。そんなときに杉本さんが言ったのは、「人さまは変えられないから自分が変わる」という言葉です。加害者であれ被害者であれ、その人に「変われ」と言っても変わらない。だから、まず自分が変わるんだ、と。自分が変わると、人と人との間の相互作用で相手も変わってくれるかもしれない。この言葉は、まさに変化をつくる人の心のありさまを表していると思います。

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▼プレゼンテーションスライド
http://change-agent.jp/files/Riichiro_Oda_on_Change.pdf

▼講演録
(1)「変化の理論、3つのポイント」
http://change-agent.jp/news/archives/000388.html
(2)「人を変える前に自分が変わる」
http://change-agent.jp/news/archives/000390.html
(3)「U理論で食糧システムの転換に挑む」
http://change-agent.jp/news/archives/000391.html 
(4)「メンタル・モデルから自らを解き放つ」
http://change-agent.jp/news/archives/000396.html
(5)サプライ・チェーンに起こった変化
http://change-agent.jp/news/archives/000400.html

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