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小田理一郎「組織や社会の変革はどのように起こるか―システム思考による変化の理論と実践」(4)「メンタル・モデルから自らを解き放つ」

2010年12月08日

(2010年4月に開催したチェンジ・エージェント社5周年記念講演の講演録「組織や社会の変革はどのように起こるか―システム思考による変化の理論と実践」の4回目です。プレゼンテーションのスライド及び第1~3回の講演内容は、ページ最下部のリンクからご覧いただけます。)

中小の農家が疲弊し、生態系への悪影響が出ている中で、どうすればいいのでしょうか。サステナブル・フード・ラボのNGOの方は「有機農業をやればいい」という人がいる一方で、ビジネス界では「有機農業では需要に見合うことが難しい。」と解決策に頭を悩ませます。中には、「多くの人が飢餓で死んでいる中で、たとえ世界中からチョウがいなくなったとしても、殺虫剤をまいてでも何とか収量を上げるべきだ」と言う人もいました。

サステナブル・フード・ラボにはさまざまな人が集まっているため、同じ問題を目の前にしても多様な視点や意見があるのです。ここで対立しそうにもなりますが、この人たちは対話の作法を学んでいるので、そこはぐっと抑えて、自分の意見は変えないとしても、相手の意見を聞きながら対話を続けました。

そしてその後、ラーニング・ジャーニーという形でブラジルに5日間の旅に出ます。40人のうち中心メンバーの30人が、特に中小規模の農家がどういう状況にあるのか、現場を見てみようというものでした。

そこでもまた、「とんでもない農業だ」と言う人もいれば、「これは素晴らしい」と言う人もいたり、評価がさまざまに分かれます。

このとき、多国籍企業の食品会社や投資銀行で働いている人のほとんどは、実際に食の生産現場に行ったのは初めてでした。もちろん自分の国の農業のことは多少分かっていても、先進国の食料生産のために途上国でどういう農業が行われているかは、見たことがありませんでした。現実を見て、ものごとを考えることは、頭の中の想像だけで考えるのとは異なります。

ラーニング・ジャーニーを率いたのはアダム・カヘンというファシリテーターです。カヘンは、「システム思考」や「学習する組織」の原則を使って、現実をありのままに受け入れるようメンバーに指示しながら旅を進めていきます。

現場から見えてきた課題に対し新しい解決策見つけだそうとするのですが、さまざまな意見があって混乱するばかりです。そういう複雑な状況のときにU理論では、「何を選ぶんですか」「何をしたいんですか」と問うわけです。

その問いを深めるために、各メンバーは水と最低限の食べ物だけ持って、一人ずつ砂漠で2日間過ごし、ひたすら自分自身を見つめ直します。一人の旅が終わったあと、みんなで輪をつくって対話をしました。2日間、ずっと混乱の中に身を置いて考えた、自分がやりたいこと、未来のために残したいことを一人ひとり話します。

このときグループをコーディネートしていたのは、ノーベル賞を取ったブライアン・アーサーという経済学者でした。彼はその対話の様子を、「みんなの心のありようはとても静かで、心温まるようなつながりがあった」と表現しています。

私自身も「ラーニング・ジャーニー」という手法を経験させてもらいながら思ったことですが、一人で過ごしている間、今やろうとしていることと自分のさまざまなメンタルモデルの間で葛藤が起こります。その葛藤は自分の心から起こってくることが多いです。

例えば、NGOの人は「ビジネスをやっている人は儲けばかり考えているだろう」と思っているかもしれません。逆にビジネス界の人も、NGOの人に対して何か思い込みがあるかもしれません。そこで見ているものは、ありのままの現実ではなく、自分の想像による姿、自分自身のメンタルモデルに縛られているケースがとても多いです。

NGOの人がビジネスを見る場合も、ビジネスの人がNGOを見る場合も、自分がそこに何を見ようとしているかによって見えるものが変わってきます。見方によって、同じ絵が老婆にも若い女性に見えるだまし絵をご存じですね。あれと同じです。

私たちの心のありようによっては、ある状況に対して、あるいは一緒に働こうとしている人たちに対して、ついつい悪い面ばかり見てしまうこともあると思います。それが信念に近いレベルだったりすると大変です。

U理論の一番のツボは、現実の混乱の中に身を置いて、「自分が創り出したい未来は何か」、つまり自分のビジョンや使命、天命が何かをじっくりと考えます。そして、その実現のために手放したほうがいいものが何かを考え、手放します。Uの一番底にある狭い部分は、余計な荷物があると通り抜けられません。どうやって自分の余計な荷物を下ろすか、それがU理論のプロセスの肝です。つまりU理論とは、物事をどうとらえるかという、自分の心の中の問題を扱っているわけです。

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▼プレゼンテーションスライド
http://change-agent.jp/files/Riichiro_Oda_on_Change.pdf

▼講演録
(1)「変化の理論、3つのポイント」
http://change-agent.jp/news/archives/000388.html
(2)「人を変える前に自分が変わる」
http://change-agent.jp/news/archives/000390.html
(3)「U理論で食糧システムの転換に挑む」
http://change-agent.jp/news/archives/000391.html 
(4)「メンタル・モデルから自らを解き放つ」
http://change-agent.jp/news/archives/000396.html
(5)サプライ・チェーンに起こった変化
http://change-agent.jp/news/archives/000400.html

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