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次の事例は、日本のある研究所で実際にあった話です。この研究所では、各研究者はそれぞれの個室で研究をしていました。研究者の管理者は、研究者同士の学際的な刺激や意見交換から生まれる画期的なアイディアを増やすにはどうしたらよいかと考えました。研究者同士が意見交換などのやりとりをしている様子があまり見られなかったのです。
なぜこのようなタコツボ状態に陥っているのか、様子を観察していると、ふつうだったらほかの研究者とおしゃべりや意見交換をしていてもよいと思われる休憩時間や昼休みも、自分の個室から出てこない研究者が多いことに気がつきました。その理由はなぜかと、さらに様子を観察したり、研究者と話す中で、各研究者の個室にそれぞれコーヒーメーカーが設置してあることが理由のひとつであることがわかりました。
休憩時間や昼休みになっても、自分の部屋でコーヒーを入れて休めるため、あえて共有ルームに出ていく必要がなかったのです。つまり、ほかの研究者と立ち話をするような場に出る必要がなかったのでした。
この状況をループ図で表したものが図1です。
「研究者同士が話をする機会が少なく、学際的な意見交換ができない」という問題を引き起こしている構造のひとつがわかったため、この研究所では、個室にコーヒーメーカーを置くことを禁止としました。一服したいとき、コーヒーが飲みたいときには、共有ルームに置いてあるコーヒーメーカーのところへ出て行くことになります。
そこには同じようにコーヒーを飲みに来た研究者たちがいるため、リラックスしたムードで談笑するなかで、今までやっていた研究の内容や、今行き詰まっている課題などについても相談したり、意見交換ができるようになりました。コーヒーメーカーの近くには、さりげなくホワイトボードが置かれていました。こうして、「それぞれが自室にこもる」という望ましくないループを断つことにより、研究者同士の交流を増し、アイディアの活性化を図ることができたのでした(図2)。
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